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    maboyoshino

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    maboyoshino

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    ADGG アルゲラとアブゲラ
    まほケットの話1

    ペンは剣よりエルダーワンド あの杖を探しているんだ。
    彼は、そっと、私の耳元へ打ち明けた。私はスケッチブックにプロットと、いくつかの魔法の試薬の式を目の奥からこぼれるままにペン先へ落としているところだったが、集中を込めていても彼の声は逃さなかった。
    死の秘宝のなかでも一番気に入っている。透明マント?哀れなデミガイズから毛皮を拝借すればいい。賢者の石?錬成すればいい、できないことなんてない。姿を隠すよりも、命を延ばす水をつくるよりも、なによりも強い力が欲しい。
    あの杖。
    唯一無二。他に比べるべくもない。
    絶対に、あれが、欲しい。
    彼があまりにも焦がれるように囁くので、耳朶からとろりと奥まで溶けるような心地がして、思わず私はペン先で耳の周りを掻いてしまった。耳の形をなぞって取り戻す。
    筆は末尾が乱れた。気もそぞろな描線に私は内心で苦笑した。しょうがない。
    「熱烈だね」
     彼の目を、この時見るべきではなかった。禍も咎も彼に在るのではない。彼に関する罪はいつも私の裡に在る。ただ、彼には私をどうしようもなく魅了する光があった。
     悪戯なようで、慕わしく、雪と氷の地から来た者特有のものなのか、それとも彼が特別なのか、冷めた、熱のない美しさは、唇を少し上げただけで輝きを纏って、私の目から心を奪う。彼だけしか見えなくなる。見惚れてしまう。
    彼の青い瞳の中で私は溺れる。彼の薄い唇は花よりも果実よりも滑らかな色をしている。
    それが私の名を呼ぶ。
    「……アルバス」
    「……ゲラート」
     呼び返す。
    ゲラート・グリンデルバルド。彼に出会ってから幾度となく心の中で反芻した名前。口の中で呟いて飴玉のように音を転がした彼の名前だ。
     ぱっと彼の顔が輝いた。強烈な意思を持って、その次にゲラートは意気軒高に右手の拳を突き上げた。

    「サークル『大いなる善』のために!」

    なにぶん狭い室内で暴れるその余波で部屋の隅に本棚から溢れさせて積んでいた資料や関連書籍の山が崩れた。私はゲラートが気づかないうちに即座に魔法で直した。
    「アルバス、絶対一緒に『まほケット』に出ような❤」
    「うんうん❤」
     私は頷いて笑顔になった。楽しそうなゲラートはきらきらしている。可愛い。ジェイミー・キャ●ベル・バ●ワーもかくやという美しい造形に、金髪の緩い巻き毛と青い瞳に、頭も口も回るのに私の言葉をよく聞いてくれる、KADOKAWAレーベルの生意気系ヒロインが紆余曲折あったあとに懐いてくるボーナスステージのようだ。私たちは出会ったばかりだというのに、絆一〇。これは強くてニューゲームのような、陶酔に似た麻薬感、いや、魔法薬感がある。
    造形も神なら設定も神だ。ゲラートは私のところに毎日遊びに来る。
    友人なんて君しかいらない。とゲラートは会って一日で私に言った。
    話が合うやつなんて他にいない、君しかいない。と言う。
    ゲラートルートのエンディングではない。ビギニングである。
    解釈が合うのだ。
    私は学校を離れて久々にオフの友人っていいな、と思い、こんなにも魅力あるゲラートと共にいられることがうれしかった。家オフっていい。
    「なあ、アルバス。描きおわったか?このポーズもういいよな」
     ポーズモデルもしてくれる。最初はノリノリだったけれど、ゲラートは少し飽き性だ。でも最高のモデルだ。
    見ているだけで心に栄養が染み渡る。尊いとはこのことである。
    知能が下がりそうな気がするというのに、私の頭は次々と閉じていた蓋から一斉に噴き出すようにアイデアを発散させた。 
    彼はまるで谷合いの暗がりを歩む私に差し込んだ光だった。
    「ゲラート、次はこの格好でこのポーズとってくれる?」
    げ、なんでこんな格好……、と言いかける彼へ即座に私は魔法を掛けて、うやむやにしてポーズを指示した。私の変身術は彼と出会って自他ともに目覚ましく上達していた。
    恥ずかしくない、似合うよ。と杖を走らせる。魔法族の杖はペンにもなるのだ。だからゲラートは最高の杖であり、最高の筆であるエルダー・ワンドを欲しがっているのだ。
    ペンは剣よりエルダー・ワンド。
    魔法族同人界に伝わる伝説だ。
    締切から逃れられる透明マント。
    幾多の修羅場ですり減った体力をも瞬時に回復するという命の水を生む賢者の石。
    それらよりもゲラートは最高の杖を望んでいる。手がかりを探しにこの谷に来たのだという。彼の大おばであるバチルダ・バグショットを頼って。
    私にも彼の話は魅力的だった。
    歴史ジャンルの大手である彼女に、ゲラートはタブレットを貸してくれるように頼んでくれている。
    とある理由と環境のせいで今はアナログ原稿しか作成できない私には心強い協力者だ。

    これはあの夏の話だ。
    母を亡くし、ふたりの弟妹を抱えて田舎暮らしな私、アルバス・ダンブルドアの元へ
    神絵師で!
    神文字書きで!
    神コップレイヤーで!
    神ツイッタラー!
    なゲラート・グリンデルバルドが
    「一緒にまほケットに出ようアルバス」 
    と言っていたあの夏についての顛末である。


    「ア、アルバス……この格好、パンツ見えそうで俺いいかげん限界なんだが!」
    「大丈夫だよ、ゲラート。余さず描いているからね。本意じゃないその表情が必要なんだよ。もっと、もっと含羞に潤んだ目で。視線はこっちだよ。あとで膝裏からの角度も見せてくれると、すごく、捗るな……」
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