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    きらず

    @L0Yid6

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    きらず

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    するか、答え合わせ……(8章)

    ナナエマざかざか(未完)「あ〜…………」
    ――疲れた。
    重力に身を任せて割合勢い良く座り込めば、流石のソファもぎし、と抗議の声を上げた。
    「はいはい、ごめんね」
    口では謝りつつも特に体勢を変えもせず、ナナシはなんとはなしに天井を見上げた。
    奪い師と連盟会長。そこそこハードな役職の兼任は体力と気力を奪っていく。そうして失われていくそれらに、人々は折り合いをつけて同時に充填を図るが、時に間に合わないこともある。それはナナシであっても当然例外ではない。
    まだまだ仕事は山積みで、頭の片隅で冷静な自分が今から手をつけないと不味い、と警告しているが、それも右から左へと流れていく。今のナナシは体力も気力も空っぽだ。脳から指令を出されてもそれをこなす資本がない。
    一服して切り替えるかと懐に手を伸ばすも、ジッポの硬質な感触だけが応えた。こういう時に限って切らしていたらしい。と言っても、元々頻繁に吸う方でもないから仕方ないことではあるのだが。
    口内に巣食う口寂しさをなんとかしたい気持ちと、これ以上指先ひとつも動かしたくない気持ちとを持て余しながら、無機質な壁にぽっかりと開いたような窓から月を見遣る。
    (月なんて、久々に見たな)
    最後にこうしてわざわざ見上げたのは一体いつだったろう。というか、今日は満月だったのか。道理で電気も点いていない室内がそれなりに明るいはずだ。
    「……あれ、ナナシ?」
    その時聞こえるはずのない控えめなソプラノが響いた気がして、思わず笑いが零れた。
    「とうとう幻聴まで聞こえるとか……。僕ってばエマちゃんのこと好きすぎじゃない?」
    「幻聴じゃないよ?」
    ――あれ、返事?
    いよいよおかしくなったかな、と真剣に考え込みそうになったナナシを、エマはひょいと覗き込んだ。
    彼女の姿を認めて、今度こそ目を瞬かせる。
    「……あれ。もしかして、本物?」
    「もしかしなくても本物だってば」
    彼女の気配にも気づかなかったなんて、と内心反省する。ここが敵地であったなら、今頃とっくにあの世の住人だ。まあ、ここがシハルの管轄である犬小屋だから、という気の緩みも多分にあっただろうが。

    「わ〜……。本物のエマちゃんだぁ……」
    ただただ嬉しくて、年甲斐もなく自然と笑みが浮かんでしまう。これじゃまるで幼子だ。



    「……やばい、どうしよう。嬉しすぎるな。今なら僕、割と本当になんでも出来ちゃいそう」

    「え!?エマちゃん、それってほんとに大丈夫なの!?」
    「私は大丈夫だし、どちらかと言えば大丈夫じゃないのはナナシじゃない?」
    「……用事を思い出したから帰ろうかな?」
    「ごめんってば。冗談。……だから、帰らないで」

    「今夜だけは、そばにいて」
    「……今夜だけじゃなくても、ずっとそばにいるよ」

    「いつもお疲れ様」
    「……え」
    「前、黒猫を撫でてた時にいいな〜って言ってたでしょう?今日は特別」

    「今日は特別なら、もう一つお願いしてもいいかな」
    「私に出来ることなら」
    「君にしか出来ないことだよ」

    「僕のこと、癒して欲しいな〜。なんて」
    「癒す?どんなふうに?」
    「それはね」
    にんまり笑ったナナシにエマが身構える暇もなく、一気に距離が詰められて、ナナシの唇がエマのそれに触れ、熱を掠めとっていく。
    「……こんなふうに」

    「エマちゃんにとっては残念なお知らせかもしれないけど、さっきのじゃぜ〜んぜん足りないんだ」
    「もうね。エマちゃん不足著しいんだよ、今の僕は。こんな僕を癒せるのは君だけだって断言出来るね」
    そう言って笑うナナシの表情には、確かに疲労が色濃く出ていた。それに、口調こそ普段と変わらないものの、普段のようなスキンシップ――突然抱き着いてくる、といったような――をしてこないで、ソファーに座り込んだままだというのも、エマが彼の疲労を推し量るには充分すぎた。それくらい、付き合い始めてからのナナシは遠慮がなくなっているので。

    「……わかった」
    「……え?」
    「わかった。それでナナシの疲れが少しでも取れるなら」

    「ちょっとエマちゃん、男前過ぎない?元々惚れてるのに、益々惚れ直しちゃうな」

    「目、瞑って」
    「……もしかしなくても、エマちゃんからしてくれる感じ?」
    「……わかってるなら確認しないで!」
    「だ〜って、君には悪いけどこんなの確認せずにいられないよ。嬉しすぎてこれだけで疲れが今すぐ吹っ飛んじゃいそう」
    「じゃあ私からキスしなくても大丈夫かな」
    「あ、やっぱり指先一つ動かせないなあ」
    「調子いいなあ……」

    「……未だに、夢なんじゃないかと思うよ。君とこうして言葉を交わして、触れ合って」

    キスしろ〜



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