輪廻の始まり人間がたくさん集まっている。
でも、全員が真っ黒な服を着ている。
これは『葬式』ってやつらしいと、
───そう教えてくれた声は、もう聞けないのかい?
明るい笑顔が、黒枠の中に飾られて花がたくさん……、あれは植えてあるのだろうか。それとも、ただ飾られているだけなのか。よくわからないけど、キミに似合う花ばかりだね
…………………………
なるほど……。これは、花を添えればいいのか。あの黒い箱の中に花を詰めてなんの意味があるんだろう。
「ね────。」
ねぇ、と質問しようと横を向くけど、いない。急に寂しくなってくる。
去っていく足音。次はぼくか。
花を持ったまま黒い箱へ近づいて、花を………。
添えられなかった。まさかそこに、キミが眠ってると思ってなかったから。
変わらない顔。
いつもみたいに閉じた瞼。
なら、いつもみたいにおはようって笑ってくれてもいいじゃないか
なんで死んでしまったんだい?
そう考えた途端、目に違和感が生じる。でも今はそんなのにかまってなんかいられない。
花を添えて、なんとなくそうしてみたくなって、そっとキミの唇を奪ってみる。沢山の視線が驚くのが背中越しにわかったけど、ぼくにはどうでもいい。キミの顔を見て、目の違和感が強くなる。視界がぼやけて、おかしい。目を擦ってみると、ほんの一瞬元に戻るけど、またすぐぼやける。
「なんだい………これ」
ぼろぼろと目から何か水のようなものが溢れる。わからない。わからないよ
これは何?人間で言えば『心臓』があるあたり。そこがとても苦しくて何も考えられない。
心臓がないぼくなのに、なんで痛いんだ?そんな疑問を抱きながら、次の人間を待たせてはいけないと感じて立ち去る。
でも、やっぱり目から溢れるものは止まらない。
どうして、どうして………、????
暫くして、女性が話しかけてきた。年齢は15億…………否、人間だから50歳くらいだろうか?
「もしかして、あなたがルーンくん?」
「そ………そう、です」
そうだよ、と言いかけて言い直す。これも教えてもらったことだ。
『僕以外の大人と話すときは、この敬語を使ってね』と。
「あら………思ってたよりも小さいのねぇ。小学生?」
こういうときは話を合わせておくのが一番だろう。「はい。あなたは一体……」
「あーあーあー、ごめんなさいね、自己紹介が遅れちゃって。☓☓☓の母です。あなたの……ルーンくんのことは息子からよく聞いていたわ。『小さくて可愛い』とか、『大人の余裕がすごい』とか」
「あぁ…そうだったんですね。」
母親。こんな感じなのか………。顔立ちがどこかキミに似ているね
「今までありがとうね。あの子、『ルーンだけが一人暮らしの支え』なんて言ってて…結構頼られちゃったんじゃない?」
「あ、いえ、そんなことは」
「電話するとき、ルーンくんが来てからというもの、あの子いつも幸せそうでねえ。事故にあっちゃったのは残念だけど、最期まであなたのこと考えてたと思うわ。」
「っ…………!!!」
忘れていたこと。何もかも忘れたことのないぼくが、何故か忘れてしまっていたこと。
留守番をしていたとき、なにもないときに何か悪いものを感じた。すぐ外に飛び出して階段を駆け下りると、大きな車と、血を流した君が倒れていた。「っ…………☓☓☓!!!っ……………」
わらわらと集まる人間たちを掻き分けて、駆け寄る。
「ルー……ン」
「……………!?」
キミの心臓の音がいつもと違う。
「っ……………ねぇ、ねぇ、これは」
「これは…………『死』。死ぬこと。命が絶える………こ、と」
そう言ってキミは顔を顰める。
「い、痛いのかい…、??」
「大丈夫」
声を絞り出すように、短く答えるキミ。
「生まれ変わる…から」
「生まれ変わる……?それはどういう意味なん………」「まってて」
「っ………………!?」
心臓の音が聞こえなくなる。
「ねぇ、…………ねぇ、答えてくれよ!!!なんで、なんで…………!?」
そこからは、色々大変だった気がする。時間を過ごしたことは覚えているけれど、何をしたかもうわからない。
「あら?………嬉しいわ。あなたもあの子のこと、大切にしてくれていたのね」
「え……………?」
視界がぼやけている。なんでだ?☓☓☓の顔を見たわけじゃない。なのに痛い。それに、………また、目からなにか溢れている。
「ほら、これ使って。……」
差し出されたのはハンカチ。これで拭けばいいのだろうか。………
「あ、の これは……?」
無意識のうちに聞いていた。この液体は何だ。「…………?それはね…『涙』よ。悲しいときや苦しいときに、人は涙を流すの。それを『泣く』っていうのよ」
「な、く……?っ」
変な声が出る。そういえば、似たような声を夜に聞いたことがあった。寝言の類だろうと気に留めなかったが、あのときキミは苦しかったんだね。
「ゔ、っ………ぁあ」
一回目は、ただ死ぬところを見ただけだった。そんなに関わりもなく、人間はすぐ潰れるからと、特に気にしなかった。だが、今回、その人の輪廻した魂に拾われたんだ。
『君、一人?家は?親は?』
と。全部無いと答えたら……………。
でもまさか、一度は無関心だった魂に、ここまで自分を変えられると思っていなかった。今キミとキミの母親に教えてもらった『泣く』だって、人間のすることだろう。
人間でもないぼくが人間のようになってしまったのは、キミのせいだ。
ひとしきり泣いたあと、☓☓☓の母親に礼と別れを告げ、葬式を終えて街に出る。
キミを見つけるまで、少しの辛抱だ。
『まってて』
その言葉を信じて、何時までも待ち続けよう。
でも、じっと待っててもきっと駄目だ。
だから
「………見つけてみせる」
これが、ぼくの
───ぼくたちの、終わりのない始まりだった。