光について 下駄箱の上に観葉植物が置いてあることに湊大瀬が気付いたのは、一週間ぶりの外出から帰宅し、玄関の扉を開けたときだった。素足に履いたムートンブーツを脱ぐ手を止め、手のひらに収まるほどのシンプルな植木鉢を見つめる。植わっているのは小さなサボテンだった。キウイフルーツのような楕円形の球体の周りに、細く白い棘がタンポポの綿毛のようにびっしりと生えている。
誰が置いたのだろう。一週間前にはなかったはずだ。
「あれ、大瀬さんだ。お出かけ?」
「ひぇっ」
いきなり声をかけられ、気色の悪い声が出てしまう。振り向くと、同居人の一人――本橋依央利が、薄い唇に笑みを浮かべて立っていた。
「どこ行くの? 買い物だったら僕が代わりに行くけど」
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