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    suzuro_0506

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    suzuro_0506

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    サーヴァントと人間の高杉の話
    終わりが近いとある日

    無題 掠れた忙しい呼吸の音はとうに聞き慣れてしまった。聞き慣れはしても、聞いている際に彼のほどには傷んでいない筈の肺に詰まるような感覚を覚えてしまうのは変わらない。
     部屋の隅、壁に背を預け畳にあぐらをかいて座り考え事をしていた高杉は、微かに聞こえた呻き声に意識を目の前へと向けた。
     高杉の目線の先、部屋の中央に敷かれた布団の中で、1人の青年が眠っている。その青年は、短い髪と痩せ細った身体付きこそ違うものの、高杉と良く似ていた。
     否、似ているのではなく、同じであった。
     布団の中で眠る青年もまた“高杉晋作”である。二人の最大の違いを挙げるなら、寝ている青年は人間であり、それを見守っている長い髪の高杉はサーヴァントと呼ばれる存在であった。
     二人の奇妙な邂逅から早一年以上の時が過ぎていた。出会った当初は、彼らは彼方此方へと目指すもののためその足で駆け回っていた。だが、ここのところはずっと人間の彼が床に臥せっている。外に出るといったら、せいぜい庭先を少し歩く程度であった。
     もう昼間だが、今日の彼はいまだ布団から出られそうにない。朝方に一度体を支えられながらやっとで厠へ行ったきり、部屋へ戻ってすぐに布団に崩れ落ちてそのまままた眠ってしまった。
     そろそろ起こして白湯と薬だけでも飲ませるべきか、と長髪の高杉が考えていると、布団の中の高杉がまた微かに呻く。何か言葉のように聞こえて、高杉は壁から背を離し、寝ている片割れの口元へと耳を寄せた。
     耳元を擽る錆び付いた呼吸に混じって、覚えのある単語が聞こえた。彼を置いて先に逝ってしまった者達の名だ。
     普段の傍若無人な振る舞いから受ける印象とは違い、存外高杉という男は情に厚い。志のための戦いに身を賭して死んでいった者達に対し自分が生き残ってしまった負い目、生き残っているにも関わらず病身のため何も出来ない現状へのもどかしさを、高杉は痛いほどに感じていた。本人がそれを口に出したことはまだない。しかし、同じ存在であるが故に、高杉には胸の内に抱いているものがわかってしまう。
     布団の中の身体が、力無く小さく身を捩る。苦しげに閉じられたままの瞼から、涙が一筋零れ落ちた。
     その身に巣食う苦痛に喘ぐ片割れが、せめて眠りの中では安らかであって欲しい。だが、高杉の眼の前で眠る彼は、その安穏を望んでいるわけでもないのだろう。無言のまま、高杉は指先でその涙を拭った。
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