煙草パチパチ……
足元で焚き火が火の粉を飛ばして軽やかな音を立てる。少し視線を移すと男が煙草を吸っているのが見えた。
白く華奢な指が煙草を持っているのがとても、さまになっていた。
「そんなじっと見つめるなよ」
男はこちらを一瞥もせずそう言った。1度煙を大きく吐き出すと嗤って
「穴が空いちまう」
「悪い」
「いい。おまえはそれでいい」
今度はちゃんとこちらを見た。色の入ったグラスの奥の瞳はじ…っとまるで値踏みをするようにこちらを見つめていた。
「おまえはいい男だ、デイビット。戦士としても男としても」
「その2つに違いはあるのか」
聞き返すと、彼は目を細め
「勿論だ」
と唇の端を歪めた。そして段々と短くなりつつある煙草に口をつけると大きく息を吸い込んだ。彼の薄い胸が空気に微かに膨らむ。
そして
「───」
静かに彼は煙を吹きかけた。白紙化されるよりも前に嗅いだ煙草の匂いとはまた違う、僅かに苦さを含んだ匂い。
その匂いと煙に紛れて、彼の顔が近づいて
「……」
唇が重なった。彼の薄い肉が僅かに触れ、離される。
「…なんだ」
意図が汲めずに聞くも
「おまえ、これは初めてか?」
と答えは得られない。いつもの事である。自分も言葉が足りない方だとは思うがこの男も大概だ。
「した…、かもしれないが覚えていない」
正直に話せば彼は低く笑って
「じゃあ、今覚えろ。忘れるな」
もう一度、彼は煙を吹きかけると
「オレが煙を吹きかけたら」
また、顔が近づいた。
ちゅ……
「オレにキスするんだ」
「……わかった」
応じると彼は満足そうに笑ってまた煙草を吸い始める。
「テスカトリポカ」
「なんだ」
「……いや、なんでもない」
「そうかよ」
また、低く彼は笑った。
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ちゅ……
これが何回目かという記録はしてこなかった。これからもおそらくはしないであろう。彼がこれをする意図はいつまでも見つけることは出来ない。
しかしながらこれをした後の彼が少しばかり機嫌が良くなるのは見ていて好ましいと思っていた。
そんな時であった。
ぬる……
「──ん」
唇よりも柔らかい何かが口の中へと入ってきた。驚きのあまり目を強く瞑ると、それを察したのか彼はゆっくりと口を離した。
瞳を開けたその先、彼が、全能の神テスカトリポカが一瞬虚をつかれたような顔をしてこちらを見ていた。
そしてゆっくりと笑みを深くすると
「おまえ、こっちは本当に初めてだったか」
と彼は少し嬉しそうに煙草の火を消した。