『あの魔法使いの飯屋が閉店した』そう耳にしたのは、ファウストが珍しく東の国の首都である雨の街へと買い出しに来たときだった。
ただの料理店であれば聞き逃していただろうが、まだ魔法使いへの根強い偏見の残る東の国で、魔法使いが堂々と料理店を開くことができる人物なんて限られるだろう。とある人物の顔がファウストの頭をよぎった。
──ネロは、最近どうしているのだろうか。
真木晶という賢者が訪れた数年後に厄災戦も終結し、不要となった魔法舎も解体された。
その後は各々自身の日々へと戻っていった。別れた後に交流の続く者もいれば、風の噂でのみ話を聞く者もいる。
東の国の四人は、それぞれ嵐の谷、ブランシェット領、雨の街へと戻ったものの、手紙のやり取りをしている。稀にネロの店を訪れたりしては、ゆるりと日常を取り戻していた。
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