決着(オメガバのようなもの⑩)不意に視界が暗転し、影に取り込まれる錯覚を抱いた。
ひたいの汗をぬぐいつつ空を仰ぐ。苛烈な光線で灼き尽くそうとしていた太陽が、どっしり構えた入道雲に隠されていた。その脇を灰色と薄藍の淡雲が競うように空を駆けてゆく。
上空はずいぶん風が強いらしい。
「ひと雨来るかなあ……」
誰に問うでもない独り言への相槌であるかのように、ぶわり。熱風が走った。建物に体当たりした風は重く湿った匂いで、当てずっぽうな予報を裏付ける。
なぜ当てずっぽうかといえば、最近の僕には天気予報を確かめる習慣がないからだ。かっちゃんが「傘持ってけ」と言えば、雨の予報なのかと合点し、「上着持ったか」と確認すれば、夜は冷えるのかもしれないと推し量る。今年初めての猛暑日には、黙ったまま塩飴を押し付けられたこともあったっけ。そんな彼の助言を、僕はひそかに「かっちゃん予報」と呼んで——ネーミングセンスについては不問としてほしい——享受してきた。
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