複座式時空スミイサがオルトスにぐちゃぐちゃにされる話 オルトスは最高の機体だが、最強でも最優の機体でもない。
デスドライヴズの強襲により殉職した、XM3ライジング・オルトスの開発者の言である。
ライジング・オルトスは唯一複座式が採用されたTS(ティタノスライド)である。しかも、ただ2名の搭乗員が居れば動くという訳ではない。ライジング・オルトスに“適合”するコパイロット(副操縦士)の脳波が必要であった。
恩恵としてはオルトス単体で各種センサーの情報処理が完結出来る点である。
つまり、オルトスは人間の脳が持つ高度な情報処理能力を丸々兵器に転用しよう、という理念の元創り出された機体であった。
最近、意識が薄くなる感覚がある。
意識が薄くなる、というか、自分の見ている世界が薄皮一枚向こうにある様な感覚だ。
突如宇宙から降ってきた異物。名すら定かではない、圧倒的な力を持った殺戮者。生き残った数少ない仲間と、ライジング・オルトスに搭乗しそれらを退け、遠い明日を願う日々。
ライジング・オルトスに搭乗している間はこんな感覚は無いのだ。というか、搭乗していない時にこんな感覚を味わっている事を忘れてしまう。
きっと疲れが出ているのだろう。無理はない。常に精神を削る現状だ。でもそれでは駄目だ。疲れでぼんやりするなど情け無い。疲れているのは誰だってそうだ。精神が追い詰められているのは生き残っている皆がそうだ。
それに自身は副操縦士として搭乗していても、それは脳波を情報処理の為に貸しているだけで、実際に得た情報を取捨選択し、判断し、機体を操縦して殺戮者と相対しているのは海兵隊所属のルイス・スミスなのだから。
なにも出来ない自分に嫌気が差して、吐き気すら催した。こんな無意味に不調を来す己に更に辟易する。
悪循環であった。
遠くから俺に向けての声が届く。
かなりの距離があった筈だが、顔色を変えたルイス・スミスが駆け足で寄って来る。
顔を上げる気力もなく、そのままルイス・スミスの到着を待った。
駆け寄ったそのままの勢いで肩を掴まれ、揺さぶられる。
眼前の顔が口をぱくぱくさせているのがなんだか面白い。
分からないよ。
なんて言ってるの。
我ながら脳波を情報処理の要として兵器利用するなんて、まともな考えじゃないよね。スーパーコンピュータを載せれば良いじゃんって話だよね。ぶっちゃけだけど大事な話でさ、コスパが良いんだ。メンテが大変な機械を載せるよりも、人間という高機能・高品質の情報処理媒体を乗せる方が。その分、適合者って縛りはあるけどね。ゆくゆくは培養した脳組織でも代用できる様に改良して行くつもりだよ。
副作用はないかって?さあ?僕は自分の理想を形に出来ればそれで良いからなあ。うーん。7.1mの巨体が駆動する程度の情報を副操縦士の脳を間借りして処理するんだし、そもそも人間の脳だって完全に解明出来てるワケじゃないし。そう考えるとオルトスは最高の機体だけど、最強でも最優の機体でもないのかな〜。残念。
最近、意識が鋭くなっていく感覚がある。
敵の動きが手に取るようにわかる/過去データと参照/予測可能
胸に抱“いだ”いているルイス・スミスの操縦も的確だ/コマンド入力を確認
スミス、きっと俺たちなら世界を救える。
やってやろう。一緒に。
そんな辛そうな顔でモニター見るなよ。
拳をぶつけ合う事は出来ないから、替わりに空へ大きく突き上げた。