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    渡田辺

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    渡田辺

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    彗星の美しさを勝手に説くモブ。一家言あるシャリア。食べ盛りのシャア。

    #シャリシャア

    オムライスじゃないか 「やはり美しさですよ。どれだけ所業が醜くとも、為した人物が美しければ結局はなあなあになるでしょう?そういう事です。そりゃあ一時期は荒れるでしょうが。美しさを理解できるのが人間の唯一の美点ですよ。美しさを理解出来ない者はヒトではない。それはケモノです。美しさに気が付き、目を向け、知り、理解し、そしてどうしても手元に欲しくなる。それが人間という生き物です。それで言うなら私自身、数年前まではヒトの形をしただけのケモノでした。美しさを知らなかった。この世は醜く膿んだ汚物と汚泥の底だと思っていました。周囲を理解出来なかった。とにかく私の話です。生きている理由が無かった。死ぬ理由もなかったので死にませんでしたが。何も要らなかったので私の手元には何もありませんでした。身軽ではありましたが、それだけです。私を繋ぎ止めるものが何も無かった。かつては」
    「ほう、かつては」
    「そう。かつて、です。今の私は人間だ。美しさを知った。美しいという意味を知った。例えそれが命を燃料に咲かせるエンジンの爆発でも。あ、いえ、違いますね。美しい者が為した破壊も、美しい者と同様に美しいのです。赤い彗星です。赤い彗星のシャア・アズナブルこそがこの世の美しさそのものなのです。見ていました。あの日あの時グラナダで。宙を見上げて見たのです。彗星を。大小に咲く夥しい炎の花を。大勢が死んだのでしょう。大勢がシャア・アズナブルの美しさと一つになった。お恥ずかしい話ですがね、当時の私はあの美しい光景を生み出したのが赤い彗星のシャア・アズナブルだとは知らなかったのです。逆説ですよ。あれだけ美しい光景を生み出す人物も美しいのだと確信がありました。実際、そうでした。私の認識に間違いはなかった。調べました。美しい方でした。失礼。美しい方です。眺めるだけで心臓が跳ねます。思い浮かべるだけで目の奥の方がキュウと締まります。ああ、あの時の一等強く大きく眩い閃光の後に赤い彗星が消息不明だと知った時は絶望しました。世界の損失だと感じました。あの美しさがこの世界から失われたのだと。何にも縛られず、なによりも自由で、あるがまま、思うがままに宙を駆るあの人より美しいものなど無いのに。最上を失ったのです。ですが私は立ち上がれた。あの日に見た宙の輝きを知っているから。再びあの人を探し出してみせると。世界に美しさを取り戻す。輝きを、生きる意味を取り戻す。この手に。私だけの元に。その偉大なる第一歩が今日なのです。なのに、なんだ?なんですか?あなたは」
     声をかけられ、シャリアは防音機能を有している壁の穴を数えるのをやめた。「ゼロ点です」
     シャリアの隣でシャアは壁の穴を数え続けている。
    「想像以上の熱量でちょっとたじろいだ」
    「あなた。大佐をたじろがせないでください。ただでさえスタンガンを押し付けられたばかりなんですよ」
    「一発目のサイコミュ実験の方が体調悪くしたからそこはあまり気にしていないよ」
    「気にしてください。そして初耳です。なぜ当時仰ってくださらなかったのか」
    「キミだってグロッキーだったろう。さしもの私だって躊躇いもする」
     男を除いて会話が進む。男は気が気でない。何故なら今日は偉大なる記念日になる筈なのだから。赤い彗星が再びこの世に生まれ直す。そんな日になる筈なのだから。そんな日は二度と訪れないと男だけが知らない。
     「捕縛したエグザベ少尉の話では、えー、なんだ?」
    「その男は熱心な赤い彗星信奉者の様です。ゼクノヴァでMIAとなった大佐をどうしても探したかった。しかし軍属でもなければニュータイプでもない一般市民である彼にはどだい無理な話。そこで彼は彼が思い描く一番『赤い彗星のシャア・アズナブル』らしい人物を赤い彗星に見立てようとした。見立てた上で自分の手元に置こうとした。その過程で大佐を本人と知らぬまま襲った。と、いったところです」
    「見る目はあるんだがな」
    「なにせ本人ですからね」
    「しかしスタンガンとは流石にびっくりした」
    「赤い彗星は既に帰還しているというのに…まあ極秘なので一般人が知る由もないですけどね」
    「壁の穴は3662個だな」
    「さすがです大佐」
    「ありがとう」
     男が喚く。
    「本人?本人!本人な訳がない!赤い彗星は、赤い彗星のシャア・アズナブルはそんな表情をしない!そんな穏やかに笑わない!もっと苛烈に、戦場の中でこそ周囲を巻き込んで輝くんだ!」
    「私のファンに私じゃないと言われてしまった」
    「こんなのファンじゃありませんよ。お気になさらず」
    「中佐が言うならそうか。今晩のメニューは?」
    「カレーです」
    「やったあ」
     シャアは足取り軽く尋問室を出て行った。残されたのは椅子に縛り付けられた男と、シャアが退室した瞬間から呆れた顔を隠さなくなったシャリアのみ。
    「先ほどのご高説ですけどね」シャリアはもう壁の穴を数えていない。「言ったようにゼロ点です」視線はシャアが出て行ったドアから離れない。「ただ頭ごなしにバツをつけても理解出来ないと思うので」スーツの内ポケットは不自然に膨らんでいる。
    「あなたには、あなたの大佐の美しさがあるんでしょうね。ゼロ点ですけど。というかあなたの大佐など存在しないのですが。大佐は誰のものでもないのです。強いて言えば全てが大佐のものなのです。ええ、ええ、大佐は美しい。この世で一番美しいですとも。でもね、大佐の美しさは星ではないのですよ。光の反射で輝いているのではないのです。大佐自身が輝いておられる。その輝きを私たちは見つめるのです。手元に置いておけるとでも?彗星です。伸ばした腕は焼き潰れます。なので私は寄り添うのです。ずっと。そう言う事です。なのでゼロ点」
     外ではシャアが待っている。赤く染めたザクに搭乗し、今晩のカレーとシャリアを待っている。シャリアは部屋を出て、同じくザクに乗り込み、2人は仲良くソドンに帰投した。
     後に残されたそれは、廃棄処分予定の燃料も無い無人の旧型貨物船は、慣性にしたがってゆっくりと太陽に向かって進むのみである。
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