ゆめうつつとあるふたりの、夢の話。
「花風」
薄黄色の花と灰色の彼の夢
「繰り返すあの日に」
赤と白
天使が赤く死ぬ夢
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「花風」
柔らかな風が頬を撫でた、ような気がした。
そっと顔をあげると、見渡す限り1面に咲き乱れる真っ白な花が目に飛び込んでくる。風が優しく白い海を揺らしている。
なつかしいな。
知らない場所なはずなのに、何故だかとても心地よくて、薄黄色のクルーは目を細めた。
ふと、雪のように舞う花びらの向こうに、小さな背中が揺れる。
…グレー?
呼びかけようとして、でもなんだかしっくり来なくて、口を噤む。
あの子の名前、なんだっけ。
"あの子"が誰かなんて知らないはずなのに、誰よりも知っている気がする。何故だかその名前を呼びたくて堪らない。記憶の底のおぼろげな光を手繰り寄せるように、小さな背中に手を伸ばす。一際大きな風が満開の白を掬いあげて、灰色の彼を隠していく。
そうだ、あの子の名前は―
「…ん」
ふわふわとからだがういてるみたいな、へんなかんじ。なんだか、とってもふしぎなゆめをみてたきがする。
なにか、やりたいことがあったような。なんだっけ?
(ぐぅ〜)
おなかのむしさんがないちゃった。またあとで、グレーにきいてみよう。
「いまは、おやつ!」
だいすきな、グレーにあいにいかなくちゃ。
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「繰り返すあの日に」
「____さん」
目の前の白い天使は、確かに僕の名前を呼んだ、はずだ。蕾が綻ぶ一瞬のような、優しい音色。
(聞こえない)
天使はそっと僕の手を取りぎゅっと抱きしめると、寂しげに笑いかけてきた。
何か言わなきゃ、と口を動かす。
(声が出ない)
ぱしゅんっ。
鮮やかな鮮血が散る。花びらのように、恐ろしい程に綺麗な赤が白に映える。
するりと手が解かれ、天使は空に堕ちていく。
(身体が動かない)
警告音が鳴り響く。酸素枯渇のサボタージュ。
胸が裂けるように痛い。息が出来ない。
パリン、と硝子が割れる音と共に視界が砕け飛ぶ。
(見えない)
警告音は止まらない。耳鳴りがする。痛い、痛い痛い痛い痛い
「っあぁ!!」
己の悲鳴に近い絶叫に飛び起きる。
「…はあっ、はっ、…はっ…」
空気を求め、大きく口を開けて全身で息をする。深い、深い海の底に溺れていたみたいに、肺がズキズキと痛みを帯びている。
"あの日"の悪夢。
何度も、何度も何度も、夢の中で彼女が死ぬ様を見せつけられる。
これは『罰』だ。忘れるなという『声』だ。決して赦されない『罪』だ。
深く息をついて、顔を上げる。壁の時計は、3時前を指差していた。無機質な秒針の音だけが嫌に耳につく。
今日もまた、眠れそうにない。