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    メガネ

    @Megane__games

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    メガネ

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    ゆずぽんさん宅ラウさん🌱とうち宅セレスト🌿(とプラスアルファ)のうちよそ小説です
    ・「なりアモ」等1部専門用語の使用
    ・双方の親の癖に忠実
    ・相手の地雷を踏む発言あり
    ◇私と親御さんの為に書いたものであるため、説明不足な部分が非常に多くございます
    ◇ラウさんの台詞、口調等は親御さんの監修の元書き上げております

    ⚠なんでも許せる人向けです、宜しければどうぞ👇

    仮題 : 花、或いは空の話○補足
    ▫お互いの面識状態
    ・セレストとラウさん
    今回で2度目
    1回目も今回同様なりアモの場での交流
    ・紫とラウさん
    今回で2度目
    過去のなりアモにて1度面識あり

    ▫植物性インポスターとは
    植物の特徴を元にして人工的に生み出されたクルーの捕食を必要としないインポスター
    生命力が高い事が大きな特徴
    頭には植物性インポスターである証に植物に関したものが生える

    ❁*。┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈゚.*❁

    試合の後の和やかな雑談タイムを終えて、次々に帰っていく参加者達を笑顔で見送るセレスト。最後の一人の帰還を見届けると、一息ついて振り返りぱたぱたと駆け出した。
    「ラウ!待っててくれてありがとな」
    ラウと呼ばれた薄黄色の研究員はいえいえ、と小さく微笑む。
    『セレストさん、宜しけれバこの後少しお時間頂けますでしょうカ?』
    試合も終わり、みんなで和やかに雑談をしていた最中、ふと軽く裾を引かれて耳打ちされたその言葉。あの時はなんの要件なのかなんて深く考えずに頷いてしまったが。
    「それで…どうしたんだ?」
    セレストがそう問いかけると、ラウは笑みを1層柔らげて、欠けた双葉をふわりと揺らした。
    「宜しけれバ、今から少シお茶でもしませんカ?1度アナタとゆっくりお話したイと思いましテ。」
    場所はコチラで案内致しますのデ、と言うと手を胸にそっと添える仕草をして見せた。
    「!」
    お茶のお誘いにセレストの表情がぱぁっと明るくなる。そんな彼の様子にラウは一層目を細め、言葉を続ける。
    「それに…"植物性"インポスターというモノにも大変興味ガありましてネ。宜しけれバそちらノお話も是非伺いたいのですガ…」
    ラウが次の言葉を紡ぐより早く、セレストが嬉しそうに答える。
    「もちろん!…あっと、うちのポーラスに連絡だけしていいか?一応許可を取るのと、帰るのが遅くなるって言わないとだから…」
    少し興奮気味にわたわたと忙しなく動くセレストはちょっと待っててな、と一言断りを入れてから携帯電話を操作しながらトテトテとラウの元を離れていった。
    ―――
    「電話ノお相手ハどなたですカ?」
    少しして、通話が終わったタイミングを見計らってラウが声をかける。
    「ん?ああ、紫だな。名前は知らないからそう呼んでるんだけど…。同じポーラスの基地に所属してる研究員なんだ。そうだなぁ、ラウとも気が合うと思うぞ。…少し似てるって思うな」
    上手く言えないけどさ、と困ったような顔で笑うが、その表情は何処か嬉しそうでもあった。
    「そうですカ。それハ是非1度お会いしテみたいものですネ」

    ❀.*・゚

    「ミルクティーで構いませんでしたカ?」
    「うん、ありがとな」
    真っ白なテーブルの上には、シュガーポットとクッキーのお皿が並んでいる。そこへティーカップが淡い湯気を揺らして置かれた。丁寧な配置で並べられたそれらは、彼の几帳面さがよく際立つ。
    セレストが目の前のティーカップに視線を落とすと、ミルクティーベージュの水面からほわほわと立ち上る優しいミルクと紅茶の香りが鼻を擽ってきた。
    どうぞ、とラウに促されてそっとティーカップを持ち上げると、ティーカップに施された模様がよく見える。シンプルで可愛らしい花をあしらったデザインのそれに、
    (センスがいいなぁ)
    なんて感心しながらまじまじと見つめて、それからそっと口をつける。
    …ふわ、と口の中に広がるミルクの風味と爽やかな茶葉の香り。
    「お口に合いましタでしょうカ」
    「ああ。とても美味しいな」
    頬を緩ませるセレストに、それは良かったです、と微笑んでラウもティーカップを傾げた。
    「ミルクティーは普段あんまり飲まないから新鮮だな。いつも紫が淹れてくれるんだけど、それもとても美味しくてさ。」
    テーブルの真ん中に鎮座する白いお皿の上に行儀よく並んだクッキーを端から1つ摘んでさく、と食む。
    「次は是非うちのポーラスに来て欲しいな。…って次、なんて早とちり過ぎだな、ごめん。」
    1人浮かれてしまったのに照れて恥ずかしそうに頬を掻く。
    「いえイエ。そのようナお誘いを頂けテ光栄ですヨ」
    そんなセレストの様子に、ラウは口元に手を添えてクスクスと楽しそうに笑った。

    ❀.*・゚

    会話の内容は程なくして研究の話に移る。
    「ラウは確かインポスターや寄生生物について研究をしてるんだったな、具体的にどういった内容なんだ?」
    「そうですネェ。例えバ、血液に含まれル成分を分析シ、クルーとの差異を調べたリ、彼らの身体の構造かラ大まカな生態ヲ推察したリ…寄生生物でしたラ、本体を観察することガ多いですネェ。ワタシは幅広く研究していル身ですのデ項目ヲあげたらキリがないですガ、ざっとこんな所でしょうカ」
    「へぇ、それは誰かと一緒にやってるのか?」
    「イエ、今は一人です。以前は一人補佐が居たノですガ…そうですネェ、アナタと同じ、植物ツノにゴーグルを付けた研究員でしたヨ」
    「そうなのか…」
    一瞬、ラウの笑顔の奥に何か引っかかるものを感じたような気がしたが、それもすぐに取り繕って彼は変わらぬ調子で話を続ける。
    「質問ヲ返しますガ…セレストさんハどう言っタ内容の研究をされていルのですカ?」
    「オレは…元々インポスターの再生能力について研究してたのと、今は植物性インポスターの特性についても調べてるな。特性ってのは色々あるし個体にもよるらしいんだけど…オレは基本的な特性の、植物性の高い再生能力について重点的に調べてるんだ」
    「…ヘェ、再生能力ですカ」
    「この原理について解明が進めば再生医療への応用が出来るんだ。例えば、そうだな―」

    暫く続く植物性トーク。
    身体の特徴の差異、心理的な影響、クルー時との感覚の違い。ラウが質問を投げ、セレストがそれに答える。時折ラウの研究についても尋ね、相手も快くそれに応じた。
    つつがなくお茶会は進んでいるように見えた。
    …その瞬間までは。

    2人の会話にもにわかに熱が入ってきた頃。そうだ、とラウが不意になんでもないように呟く。
    「植物性インポスターは、毒物への耐性などハあるのですカ?」
    「毒、かぁ」
    毒というワードにセレストはティーカップを軽くもたげてふむ、と考える仕草をする。
    「…その質問に関してはあまり明確な答えは返せないな。今まで試した事が無いから分からないんだ。…でも、もし毒に対して何かしらの耐性があるならオレの研究にも生かせるかもしれないな」
    今度紫にも提案してみるか、なんて1人で考え込むセレスト。
    そんな彼を見つめるラウの視線が、ふっと怪しい熱を帯びた。
    「…そうですカ。それナラ」
    ラウはティーカップを軽くあおると静かにおろし、テーブルに軽く手をついて立ち上がる。
    「…?」
    なんて事ない、洗練された仕草をセレストは何となしに目で追う。

    刹那―。
    ふぅ、と視界に影が落ちる。下ろしかけたティーカップがスローモーションの様にゆっくりとセレストの指から滑り零れて。
    「試しテみましょうカ」

    カシャン。

    足下でティーカップの砕ける音が聞こえた。

    白衣を裂いて皮膚をぷつり、と貫く"ナニカ"の感触。足先が地を見失って空を切る。視界がぐわんと流れて、双葉の科学者がに見える。
    「…え」
    酷く気の抜けた声が零れる。
    置いていかれた思考がゆっくりと回り始めて、ようやくセレストは自分が折り重なるように繰り出されたラウの触手に抱き上げられていることを理解した。
    「ッな、」
    吐く息が酷く乱れる。心臓が煩いくらいに早鐘を打つ。つうと額を滑る汗が嫌に冷たい。
    「…な、ん…で」
    喉の奥に絡まる言葉を必死に絞り出して形にした問いかけに、ラウは酷く愉しそうに声を弾ませる。
    「フフ、"なんで"ですカ。…言っタ通りですヨ、分からないノなら自分の手で試すまデです。…研究者と言うのハ、そういうモノでショウ?」
    身体に巻き付く触手にゆっくりと力を込められて、セレストが苦しげに呻く。
    「"植物性インポスター"…実に興味深イ。その様ナ個体を目の前にしテ黙って見過ごす訳ガないでショウ?…マァ、あまり外の個体二手を出すト怒られテしまうのデ始め1回目ハ我慢していましたが…やはり研究者のサガとしテ隅かラ隅まで調べないト気が済まなイのですヨ。頭の先からつま先まで全部…ネ」
    試合なりアモの中でも、お茶会の中でも見せなかった、欲を顕にした、恍惚とした表情。同胞を見つめる穏やかな視線の面影は失せ、今は獲物を捕らえた捕食種のギラついた高揚を鮮明に映し出していた。
    「アア、もウそろソロ効き始めタ頃でしょうかネ?インポスターを捕らえル為だけに作っタ、ワタシお手製の特別ナ毒ですヨ。フフ、見たところ植物性インポスアナタターでモ問題なく効果ガあるようデ安心致しましタ」
    「…っ」
    ラウは恐怖の色を瞳に浮かべるセレストの頬を両手で優しく包みこんで、とろけるような笑みを浮かべる。
    「ハハ、そう怖がる事はありませんヨ。取っテ食おウだなんて事は致しませんノデ。ナァニ、タダ中まデじーっくり、見させて頂くだケですから。…フフフ」
    己の触手の中で浅い息を繰り返す獲物に、捕食種は言葉にいっそう熱を込めて耳打ちをする。
    「サ、研究室で"お茶会"の続きをいたしましょう!大事な大事なワタシのセレスト実験体さん」
    ―――
    薬品と、僅かに鉄の匂いがする研究室。
    カチャカチャと器具を漁る金属音、ご機嫌な鼻歌、そして1人の掠れた呼吸音が静かな部屋に響く。
    「さァテ。フフ、どうしましょうかネェ?基本的なデータは欲しイとしテ。体液を採取して成分の分析もしたいですシ…中身はどうなっテいるノでしょうカ?腹を切り裂いテ、一つ一つ、じーっくり観察するのも良いですネ!」
    そう唱えながらセレストの腹に爪先を当て、つい、と下になぞる。服越しに伝わる、メスを入れるような動きにセレストはヒュッと喉を鳴らす。そんなセレストの反応を愉しげに見つめながらラウは上機嫌に言葉を続ける。
    「調べたイ事はマダありますヨ?一般的なインポスターとの身体の構造の違イ、植物性の生態…急所ハやはリ、再生の負荷ガ大きいノでしょうカ?部位ごとの再生能力の違イも気になりますネェ。痛覚は鈍い方だトお聞き致しましたガ、果たしてどれくらい鈍いのデしょうカ?…アァ、考えれバ考えルほド!実に興味深イですネ!」
    興奮した様子で早口にまくし立て、饒舌に語りかける双葉の研究者。双葉を揺らしながらニコニコと楽しげに思案している様子は、さながら玩具を目の前にして次は何をして遊ぼうかと無邪気にはしゃぐ幼子のようだ。
    それから、虚ろな反応を返すばかりのか弱き被食種の柔い手を取り指を絡めたかと思えばとびきりの甘い声で囁いた。
    「ひとつずつ、全部試しましょウ!フフ、何せ時間はたーっぷりありますから、ネ」

    ❀.*・゚

    「…ア」
    不意に、お茶を交わしていた客間の後片付けを忘れていたのを思い出す。
    (実験体に夢中で忘れてタ…)
    器具を持つ手を止め暫し考える。
    (本当は後回し二したいケド、お茶や菓子が散らばっタままだろうシ…)
    客間は文字通り客を招く為に用意した、言わば外行き用の部屋。
    (放っテおく訳にもいかないよナァ)
    実験の手を止めるのは惜しいが外行きの部屋をそのままにする訳にもいかない。仕方なしに手に待った器具を置き、手元に散らばった他の器具と一緒に軽く並べ直す。
    「すみません、セレストさん。少し用事ヲ思い出したのデ早急に済ませてきます」
    ですのデ、良イ子で待ってテくださいネ?とセレストの頭にぽんと手を置き愛でるように軽く撫で、それに満足するとそっと手を離し部屋を後にした。
    冷たい空気が積もる廊下に踏み出して、客室の扉へ向かう。ドアロックに手を触れかけて、インポスターの本能が何者かの気配を感じ取った。
    (人の気配…侵入者、カ。扉の鍵はひと通り掛けてあるハズ。そう簡単二入れル構造でハないのですがネェ)
    何にせよ、入り込んだ鼠はそのままにしておけない。一呼吸置いてドアのロックを解除し一歩踏み出す。
    低く唸って開かれた扉の奥、

    1人のクルーメイトと邂逅する。

    僅かの沈黙。目の前の彼の揺らがぬ視線が此方の輪郭を捉えたのが分かった。
    「…オヤオヤ、アナタのようナ客人をお呼びしタ記憶ハないのですがネェ」
    端のひび割れた安全ゴーグルに、見覚えのある襟型の白衣を纏った、紫色のクルーメイト。手には欠けたティーカップの破片であろうガラス片が握られている。
    「アア。生憎ですガ、今ちょうどお出しできル紅茶ハ切らしておりましテ」
    「お構いなく。直ぐにおいとま致しますので。」
    カチャンと手元の破片を他へ重ねて置いてゆっくりと立ち上がると膝を軽く払い、夜色の彼はこちらへ向き合って軽く会釈した。
    「挨拶が遅れましたね。お久しぶりです、シレネ・ラウさん。」
    「…ハテ、何処かデお会イしたことガありましたでしょうカ?」
    覚えの無い者に名前を呼ばれて、僅かに首を傾げる。何処かで出会っていたとて、クルーメイトに対しては基本興味が無い、そして興味の無いものは記憶に引っかからない。
    「…ふふっ。いえ、構いませんよ。私の事は紫とお呼びください」
    紫と名乗ったクルーは可笑しそうに目を細めて微笑んだ。
    「紫…アァ。アナタが紫さんでしたカ」
    少し思考して空色の彼の言っていた同僚か、と思い至る。それから、数時間前にその彼と交わした会話と、それに対する己の返答をふと思い出す。
    『ラウとも気が合うと思うぞ。…少し似てるって思うな』
    『そうですカ。それは是非1度お会いしてみたいものですネ』
    どうせ会うことは無いだろうなんて思いながら返した定型文テンプレのお世辞。
    (マサカ、こんな二早く会うことになるとはネェ。…それにしてモ)
    捕食種の根城の中に自ら飛び込み巣の主を目前にしてなお一切の動揺も見せないとは、肝が据わってるのか、はたまたとんだ愚者か、狂人か。
    「理解が早くて助かります。これなら回りくどい定型句あいさつも必要ありませんね」
    1呼吸置くと、夜色の彼は此方へ静かに語りかけるような口調で切り出した。
    「此方へうちの研究員が一人、お邪魔していると認識しているのですが…あまりにも帰りが遅いので心配になりましてね。ですので、迎えに参りました。」
    「サァ?何処か寄り道でもナされてルのでハないですか?」
    わざとらしくとぼけてみせると、想定範囲内の返答だとでも言うかのように目の前の彼は穏やかに微笑む。
    「貴方は私の事をご存知無いと思いますが、私はよく存じ上げておりますよ、シレネ・ラウさん」
    「"元"MIRA所属の研究員。インポスター及び寄生生物の研究に携わり、その生態の解明に多大なる貢献を果たした若き天才。とある事故が原因で現在は行方不明となっている。…表向きは、ですが。」
    ふ、と小さく息を吐くと、ここからが本題だと言わんばかりに声色を僅かに落とす。
    「実際は事故の際に寄生生物に寄生された事によってインポスターになり、そのまま行方をくらました。そして以前と変わらず…いや、以前よりも過激な方法で研究を続行している。インポスターを捕獲しては実験、解剖を繰り返す。稀有で、希少な個体であればあるほど、その個体に執着する傾向があるようで。…"外"の個体にも手を出した前歴がありますね。」
    彼は此方を静かに見据えて、ただ粛々と言葉を紡ぐ。
    「それハ随分トお調べにならレましたネェ。余程お喋りがお好きナようデ。…それデ、お話ハそれだケですカ?」
    「セレストさんを返してもらいましょうか。」
    「同じ事の繰り返しですカ。…イヤだと言ッタラ?」
    「そうでしょうね。」
    これも想定内だとでも言うように紫は崩れない笑顔の仮面で微笑みかける。
    「では、話題を変えてみましょうか。」
    先程までの淡々とした落ち着きのある語り口調から一変、わざとらしいくらいに抑揚の付いた明るい声色に変わる。
    「観光客船エアシップの、墜落事故について。」
    エアシップ、という単語に思わず反応しかけるのをグッと抑える。
    「墜落の原因として、ヘリコプターとの衝突事故というものがあるのはもちろんご存知かと思います。インポスターの使用するサボタージュの1つにも衝突回避がありますしね」
    「…アナタは此処へ世間話をしに来たノですカ?」
    棘を含んだ言葉にも知らぬ顔をして、クルーメイトはなおも愉しそうに言葉を続ける。
    「サボタージュの解除に、つまりは回避に失敗すれば文字通り船は墜ちる。墜落事故の生存率はゼロに等しく、加えて証拠も残りにくい」
    「何が言いたイのですカ?」
    心做しか、語尾に力が込もる。
    「貴方のお気に入りの船の話ですよ。あそこは良いですね、インポスターが2人乗船している。たとえ『不幸な事故』が起こったとていちクルーに疑いが掛かることは無いでしょう」
    煽るような軽い口調に不快感を覚える。今、間違いなく目の前のクルーメイトは自分にとって非常に不愉快な話をしている。
    「インポスターの使用するサボタージュのシステムは実に単純につくられています。それは目的が『舟を墜落させること』では無くあくまで蹂躙の為の手段の1つであり、解除される事を前提としているから。」
    彼が空へ向かって手をかざすと、真っ赤な・・・・エアシップのマップが表示される。通常のものと僅かに表示の異なるサボタージュ画面。
    「クルーメイトにも、サボタージュに似たモノは再現出来る。尤も、これはただ真似ただけではありませんがね」
    軽く手を払ってそれをかき消すと、ピンと立てた人差し指を口元へ当て、たおやかに笑った。
    「さて、私の望みはただ1つ。何を天秤に掛けられているか、何を取るのか、…何を失うのか。聡明な貴方なら正しい判断ができると信じていますよ。」
    「……。」
    インポスターは欠けた双葉を揺らして思考を巡らせる。
    外の世界なりアモへ出向く際、自身が開示するのは名前とインポスターについて研究している研究者、という事だけ。その辺りはセレストから聞いたのか、彼の言ったように何処かの船で会っていた時に知ったのか。
    一度対面した事があると仮定するにしても、彼が初めに述べた情報はその域をゆうに超えていた。
    MIRAにいた頃の話はおろか、お気に入りの船エアシップの事を外で話した記憶は無い。例え聞かれたとしてもよそ者に教えるような内容では無い。
    (だと言ウの二、一体何処かラ嗅ぎつけテ来タんだカ。…それ二)
    相手の様子から此方がインポスターである事はもちろん、毒針を備えた触手を持っている事も把握されているだろう。それなのに、クルーの彼は平然と射程圏内間合いに立っている。
    (無策でハ無い…何かしら対抗策があるト踏んだ方が良さそうダ)
    クルーを一人キルするのはごく簡単だ。しかし無闇に殺しては此方がリスクを負う事になる。
    そしてそれは、相手も分かっている上なのだろう。
    加えて、エアシップの墜落事故、サボタージュの原理。彼の言わんとする事は大方分かった。
    『セレストを渡さないとお前のお気に入りの船を墜落させる』
    自分にはそれが可能なのだという此方への脅し。
    だが。
    (そんなノ十中八九ハッタリでショウ。先程彼が見せたサボタージュの画面も恐らくレプリカ…そもソモ現実的で無イ上に、いちクルーに易易と乗っ取られる程エアシップお気に入りはヤワでハ無イ。……けれド)
    『何を天秤に掛けられているか、何を取るのか、…何を失うのか。聡明な貴方なら正しい判断ができると信じていますよ。』

    口から出まかせ、と一蹴する事も出来なかった

    根拠に欠ける交渉材料。
    だがラウにとって今、1番重たいものを天秤に掛けられた。ハッタリで無いという"万が一"の可能性だろうが大切な弟の、ひいては大切な弟の愛す大切な命を掛けられてはその重みは別格だ。ここで選択を誤ってしまえばそれは、不都合だなんて一言では片付けられない結末を見る事になる。
    ながい、ながい沈黙の末。

    双葉の研究者は口を開いた。

    「…ハァ、分かりましタ」
    小さな溜息が漏れ出る。
    「セレストさんに解毒処理をしテきます。アナタはそこデ待っていテくださイ」
    「賢明な判断ですね。感謝します。」
    挑発めいた謝礼の句を言葉半分に聞き流して踵を返す。扉のロックを解除して廊下へ1歩踏み出し、それから少し振り返って冷たい視線を投げた。
    「先程も言イましたガ、アナタに出すお茶ハありませンからネ」
    「お構いなく。」

    ―――

    「お待たセしましタ」
    ラウの声にいえいえ、と紫は小さく微笑む。テーブルに軽く手をついて立ち上がると、足早に歩み寄ってきた。
    「全ク、アナタ程行儀ノ悪いクルーメイトは初めテですヨ。」
    腕の中ですぅすぅと穏やかな寝息を立てるセレストの顔を覗き込むと愛おしげに目を細める。
    「お褒めに預かり光栄です」
    だらんと力無く垂れた空色の手を取り、優しく力を込める。ふわりと光に包まれたかと思えばたちまちその輪郭を崩し、手に寄りかかっていた質量が呆気なく失われていく。
    「転送技術の応用、ですカ」
    手に残る感触を名残惜しげに見つめながら呟く。
    「あら、ご存知でしたか」
    「エエ。…以前二似タようなモノをお見かケしたのデ」
    彼はそうですか、とだけ呟いて一歩二歩後ろへ身を引く。
    「では、私もお暇させて頂きますね。招かれていない以上、いつまでもお邪魔している訳にもいきませんし」
    本当、とんだ邪魔だと悪態をつきたくなるのを抑え、ラウはただ静かに視線の刃を刺し向ける。
    「ああ、そうだ。」
    はた、と思い出したように紙とペンを取り出すと小さなカードに軽くペンを走らせ、そっと机の上に伏せた。
    「ちょっとした感謝の印、という事にしておきましょうか。」
    改まって丁寧に向き直り、クルーメイトはニコリと笑う。
    「それでは。」
    白衣を揺らして恭しくお辞儀をすると、そう言い残して空に溶けるようにして消えていった。
    「…」
    暫く誰も居なくなった空を眺め、それから夜色の彼がテーブルの上に残していった小さな紙切れを摘み上げる。
    名前すらも記載されていない、カラーとポーラスへの所属登録番号、所属基地ナンバーだけが印字された簡素な名刺。その空白のスペースに、流れるような筆跡でメールアドレスが書き加えられていた。
    「…ヘェ、なるほド…フフッ」
    弟達の命を天秤に掛けられたあの時点で、他の選択肢はラウには無かった。それが彼の掌の上で踊らされる行為だと分かっていても。
    結果、自分は正しく選びとった。
    …だが結局、最後の最後まで自分は彼の掌の上で踊らされたのだと突きつけるような紙切れに
    (ホント、イイ性格してますネェ。…紫、カ)
    爪先で名刺の端を軽く弾くと白衣のポケットに仕舞い込み、夜色のクルーの名とも呼べぬ呼び名を頭の中で反芻する。
    折角のお気に入りをお預けされたというのに不思議と口角が上がるのは、また植物性の彼に会えるからだろうか。
    「勝っタ気で居られてハ困りますネェ。随分と舐められタものです」
    そう呟くと、本来の目的であった客間の片付けに取り掛かる。そうしてひと通り綺麗にした後、研究室へと足を運んだ。
    研究室に入ると、机の上の小さな欠片をそっと摘み上げる。深緑の、丸く尖った植物性の彼の角の先カケラ
    それを指先で優しく弄びながら、さてどうこの穴を埋めてもらおうかとラウは思考を巡らせるのだった。
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    💖👏👏💖💖💖💙💜💛👏💞💖
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