そんなことを思い出し、「……似た点はあるかもしれないけどさ」と腑に落ちないと思いつつも言うと、水晶公は正面を向き直した。かと思えば、少し俯いてうなじを冒険者へと無防備に晒す。白い肌と青く澄んだ水晶のコントラストに目を惹かれている間に、水晶公は両手を後頭部へと回して、ほつれかけていた三つ編みを完全にほどいた。肩に掛かる長さの髪がうなじを覆い、肌と水晶が見え隠れする。
「ミステル族は猫とは違うが、でもあなたが僅かばかりでも喜んでくれるのなら、自分がそうであってよかったと思うよ」
水晶公はひとりで喋りながらも、手先を器用に動かして、手櫛で整えた髪をすぐさま編み直す。そんな一連の動きに、冒険者は唾を飲みこんだ。今までは意識していなかった、膝に掛かる重みや体温が気になるようになってしまう。先日初めて触れた、彼の肌と熱がありありと思い出される。今日は、その時ぶりに彼と部屋にふたりきりとなった機会だ。
また振り返った水晶公が冒険者の顔を見て、「な、なんだ?」と戸惑ってしまう。
「あ、あ、いや……。髪の毛、慣れてるなって。結ぶの」
「ああ、ずっとしていることだから」
そんなにひどい顔をしているのかとこちらも動転して、しどろもどろな喋り方をしてしまった冒険者は小さく数度頷いた。
「……念のために言っておくけど、ミステル族だからラハが好きな訳じゃない」
「さあ、どうだろうか?」
目を細めた水晶公に揶揄される。「冒険者は猫を溺愛しているから、猫に似た特性のあるミステル族である水晶公のことを好いている」とでも言いたげな彼の誤解を、何としてでも解かなければならないと、冒険者はむきになった。