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    cad888

    @cad888

    ハッピーラブコメな光公、光ラハを書いています

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    3/27のひろ公新刊進捗。デート前に、眼鏡を掛けるひろしと公のシーン

    「さて、俺も着替えるとするか」
     そう言って、彼はドレッサーの引き出しを開けた。そこには、水晶公の私室の本と同じように、様々な服や靴、アクセサリーの類がたくさん詰め込まれていた。ここで服屋が一軒開けそうだ。
    「……ずいぶんと衣装持ちだな」
     服装に無頓着な水晶公はついつい感心してしまう。どうりで度々違った服を着ている訳だ。
    「原初世界にもこっちにも、いいデザインの服が多いからな」
     少し悩んでから、先ほどよりはあっさりと「うーん、手堅くこれで行くか」と決めて、レザーのジャケットたちを取り出した。どんな服なのだろうとそれをじっと見つめていると、「……俺、着替えるんだが、ラハのえっち」とからかわれる。
    「すまない! そんなつもりは毛頭ないんだ!」
     彼に背を向けて、少し離れたところまで移動しながら弁明をすれば、背後から笑い声が響いてきた。笑い事じゃないとむくれながらも、彼が着替え終わるのを待つ。またしても衣擦れの音に、自然と耳をそばだててしまう。だが、今度はガウンの裾にほどこされた刺繍を指でなぞって観察することで、どうにか気を紛らわせた。
    「よし、そろそろ行こう。昼飯も食いたいな」
     すぐに聞こえてきた冒険者の声に自然と振り返った水晶公は、また小さく唸ってしまった。黒のハイネックのセーターにレザーのジャケットを羽織り、下もレザーのパンツで揃えている。普段の装備を身に付けた姿とも、清潔感のあるエプロン姿とも随分と印象が変わった。彼の長い手足や立派な体格に、ぴったりとした服がよく映えている。例え自分が同じものを着ても、こうは着こなせない。
    「……あなたは、何でもできるし、何でも着こなすのだな」
    「ラハに褒められると嬉しいな」
     少年のように無邪気に笑いながらも、やはり青い視線には水晶公への想いがにじみ出ている。これから彼と出かけるとなれば、何度もそれを向けられるかもしれない。今日一日、それに耐えきれるだろうかと想像してみるが、もう既に音をあげそうなのだ。耐えられるはずがない。
     耐えられなくなった自分はどうなるのだろうという疑問を抱きつつ、水晶公は打開策を考えた。ふと、ドレッサーの引き出しで見かけたものを思い出す。
    「そ、そうだ。ぜひあなたに付けてみてほしいものがあるんだ」
     水晶公が指定したものに、冒険者は首をひねりながらも、引き出しからそれを取り出した。水晶公は彼の元へと近付き、その様子を見守る。
    「これか? とりあえず置いておいただけで、実際に掛けたことはないんだよな」
     そう言いながらも、彼は水晶公が伝えたもの――クラシックグラスを掛けてみせた。レンズの大きな眼鏡を掛ければ、彼からの愛のこもった視線も少しはぼやけて、気にならなくなるかもしれない。そう考えてのことだったが、実際にそれを目の当たりにした水晶公は口元を両手で覆った。アラミガンガウンの下で、尻尾がばたばたと揺れている。
    「かっこいいな……!」と年甲斐もなく興奮した感想が、唇から漏れ出そうになるのをかろうじて堪える。
    「ほら、やっぱり似合わないんじゃないか」
    「そっ、そんなことはない、よく似合っている。本当だとも」
     眼鏡を外そうとする冒険者に、水晶公は熱く訴えた。彼は鏡を覗き込み、「そうか?」と腑に落ちない様子だが、掛けたままでいることにしたようだ。色々な意味で安堵していたら、彼はまたドレッサーを漁った。
    「俺が掛けるなら、ラハも一緒にどうだ?」
     そんな言葉と共に、赤い縁の眼鏡が差し出される。
    「私も、眼鏡は掛けたことがないのだが……」
     戸惑いながらも、水晶公は不馴れな手付きで装着した。視界の縁を赤い枠が囲っているように見えて、少し不思議な感覚に陥りつつも冒険者に顔を向ける。途端に彼は大きく破顔した。
    「いいな、いつもより賢い感じがする」
    「それはどうも」
     軽口を叩く彼に丁寧に礼を述べながらも、ふたりで並んで鏡に向き合う。鏡越しに相手や自分の様子を確かめている内に、意図せずにふたり同時に眼鏡を正した。顔を見合わせて笑っていると、冒険者の手が水晶公の顔に伸びてきて、眼鏡を取り去った。
    「……? やっぱり似合わなかっただろうか」
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