5.閉じた目の上なら憧憬のキス 端正な顔だな、と思った。
それは類が司の眠る顔を見て初めて気づいた感情だ。
ワンダーランズ×ショータイムの劇場で、その公演を終えたさなかの一幕だ。
次の公演までは、あと一時間程度ある。忙しない公演と公演の合間だ。少しばかりの隙間を使い、天馬司は舞台裏の古びたソファの上で仮眠を取っていた。
「司くん?」
そこへ、通りがかった神代類。いつもであれば類もその辺りで舞台演出の修正を行いながら次の公演へ向けて準備しているのだが、今日はそこに意外な先客がいたのであった。
類が、覗き込むようにして問いかけるが彼からの反応はない。
やあ、困ったね。君がこんなところにいるなんて思わなかった。
天馬司は体力のある男だ。だから、常日頃から彼が弱っているところを見ることは意外にも少ない。暑さにとろけ、あるいは空に飛ばされたとしても、少しばかりの暗転をしてからはけろっと元に戻っている彼なのだ。
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