祝福の音歌が聞こえる。
聞き覚えのあるその音色に、鍾離はぴたりと足を止めた。手には不卜廬の紙袋。これから往生堂へ帰ろうと、石造り階段に足をかけたところだった。
「・・・公子殿?」
この歌を知っている者が、鍾離には彼の他に思いつかなかった。鍾離自身、これはスネージナヤの歌だと彼に教えて貰ったのだから。鍾離はくるりと方向転換して、歌が聞こえるほうへ向かった。
不卜廬のすぐ脇、建物の傍らから聞こえる歌を追っていくと、思った通りの人物がそこにいた。石の欄干に背中を預け、如何にも愛おしそうな目をして手元の紙のようなものを眺めて、歌っている。
何と美しいものだろう。今から日が落ちようという璃月の街を背景に、彼の声は波が囀るかのようだ。
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