毒味厨房を覗くと、そこではドロシーがあーでもないこーでもないと、鍋を睨んでいた。
ギンタに振る舞うらしい。
ので練習しているのだが、戦闘ではトップクラスの実力者も、料理は手強いのか。
ずっと鍋を睨んで唸っている。
アルヴィスも少し調理をしようと思って材料を持って訪れた訳だが、ドロシーの料理が終わりそうにないので厨房に足を踏み入れた。
「誰っ!?って、どうしたのアル」
「順番待ってたのだが、終わりそうにないかなと」
そう言って彼は、皿を出してドロシーに笑いかけた。
「味見、貰えるか?」
「えっ!?」
対するドロシーはオタオタしている。
アルヴィスが料理が上手いのは知っている。
この間食べさせてもらったカレーは、めちゃくちゃ美味しかった。
アランからも、アルヴィスの料理の腕は聞いている。器用なのだ。
それに引き換え、自分の料理。
食べさせる自信なんてない。
「毒味係が居ないと、いつまでもギンタに食べさせられないぞ」
「あっ、こら。毒味って言ったわね!?」
じゃあ、してもらおうじゃない!
料理が下手なのは知ってる。
かと言って、ハッキリ毒味と言われたらさせてやろうじゃんとも思う訳で。
ドロシーはアルヴィスが差し出した小皿ではなく、いっそそれなりのうつわに煮物をゴロゴロ入れる。
どうだ!食べきれまい!!
ヤケクソ入ってそんな気持ちだ。
アルヴィスは一口目を口に入れて、優しく笑った。
「見た目がそんなに良くないのは慣れてないだけだ」
少し火が通り過ぎてるけど、優しくて懐かしい味がする。
そう言われてドロシーは驚いた。
アルヴィスはとても穏やかな顔をしている。
料理対決から、実はギンタもジャックもドロシーの料理には近付かない。それはそれで少し乙女心が傷付いていたのだ。
そう。
ドロシーだって年頃の乙女なのだ。乙女心だってある。なのにみんな、ドロシーが強いってだけでエンリョがないのだ。
「おいしい?」
自信ないけど、おずおずとドロシーは問いかける。
「ああ」
アルヴィスは優しく笑ってくれた。
本当はyesしか答えないのもわかってる。だけど彼の優しさが嬉しくて、心に灯りがほんのりと灯る気がする。
「じゃあご馳走になったから、あとで何か差し入れるよ」
厨房の隅っこはドロシーとアルヴィスで交代。
アルヴィスはジッパーを取り出すと、木の根や芋を袋に入れて中に放り込んだ。そして美味しそうなドライフルーツとパウダーの入った小袋を取り出す。
デザートを作るつもりだろう。
「また作ってくれ」
アルヴィスに言われてドロシーは驚いた。
「故郷を思い出して懐かしかった」
そんな彼にドロシーも微笑んだ。
「毒味ならいくらでも!」
恋に落ちるまであとわずか。