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    でぃる

    @d_i_l_l_

    オペラオムニアの世界で過ごすアーロンさんを書きたい小説置き場です。アップした順に読むのが良いと思います。ジェクアー要素ありはワンクッション。

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    でぃる

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    (2022/06/23)
    バーで飲むジェクトさんをテーマに書きました。

    スコッチ暇を持て余した夜のことだった。
    ジェクトは飛空艇居住区の長い廊下を突き当たりに向かって歩いていた。その奥にある鉄製の重い扉を開けば、カウンターとずらりと酒瓶が並んだ棚が目に入る。そしてそのカウンターの中には、仲間の一人ティファがいた。
    「よぉ、ティファちゃん。飲みに来たぜ」
    「いらっしゃい、珍しい今日は一人なの?」
    会話をしながら、促されたカウンター席へと座る。ジェクトの体重を支えた丸い椅子は、キイと小さく音を立てた。
    「おう、ブラスカもアーロンも戦闘に出ててよ、しばらく戻らねぇ。俺はお留守番組って訳よ」
    「何にする?」
    ティファはグラスを磨いていたところだったらしい。それを棚に戻しながら、黒髪を揺らして問いかけてくる。
    ジェクトはこんなに可愛らしいバーテンダーが切り盛りする店、ザナルカンドなら相当流行ったに違いないと心の中で思った。そして同時に、そんなことを考えている自分のオヤジ臭さにも笑いそうになった。
    「そうだなァ…アーロンって良く来るんだろ?あいつ何飲んでんの?」
    ふと思い立ってセブンスヘヴンを訪ねたはいいが、特にこれといった銘柄に思い入れのないジェクトは棚を眺めながら問いかける。酒は好きだ、だからこそなんでも飲んでみたい、ジェクトはそう思っていた。そして何より、この店でアーロンが好む酒にも興味があった。
    「そうだなぁ…カクテルよりはスピリッツの方が多いけど、どれが好きって感じじゃなくて…目についたのを試してるって感じかな」
    そうだろうとは思っていたが、アーロンが自分と同じ飲み方をする確証を得て、思わず頬が緩みそうになる。スピラを旅した95日は、ゆっくりと好みの銘柄について語り合う暇さえないほどに切羽詰まっていたのを懐かしく感じた。
    「こだわりなさそうだもんなアイツ…んじゃ、そこのバランタインで…って30年モノか!あんまり店で見たことねぇよ」
    目についたザナルカンドではオーソドックスな銘柄を口にしたものの、その年数は百貨店で大切に箱にしまわれて販売されているような代物であった。
    「流石ジェクト、良く気付いてくれました!私もね、これ、ここでお店やりたいってモグにお願いしてお酒揃えてもらったとき、あって嬉しかったお酒の一つなの」
    「やっぱ俺たちの世界とそっちの世界、なーんか繋がってるよな?」
    「そうみたい。ティーダと話してても思うもん。あとはノクティスのところも結構近いかな、むしろあっちの方が未来って感じもするけど」
    PHS、携帯電話、スマートフォン、三つの世界にある通信機器は、使う用途こそ同じであれど、性能の差が歴然としていた。
    「あー、確かにそうかもな」
    納得していると、目の前にコースターが差し出される。赤と黒で彩られたそれは、しっかりと店名が印字されていた。
    「はい、どうぞ。より香りを楽しむためにワイングラスで飲んでみて」
    コースターの上に置かれたのは、スラリとした脚のついた大きめのワイングラスだった。その中には大きなロックアイスと琥珀色の液体が注ぎ込まれている。
    「おう、ありがとうな。へぇ、こんな飲み方もあるんだな」
    ワインと同じように口元に運べば、ふわりと芳醇なウィスキーの香りが鼻腔に広がるのを感じた。
    口に含んだ味と、グラスの形状によりいつもよりもしっかりと感じ取れる香りが混ざり合って、風味を強くしてくれる。それはただシンプルに、良い酒を飲んでいるという感覚をジェクトに与えた。
    「すげぇな!やっぱ部屋で適当なコップに注いで飲むのとは全然ちげぇや」
    褒めれば、照れたように笑うティファは本当に魅力的だった。あのいかにも焼き餅を焼きそうな彼氏は、彼女がこんな店をやっていて気にならないのだろうか、とジェクトはお節介にも思ったりもした。
    「お店の雰囲気も元のままなのか?」
    「うん、ミッドガルのお店とほとんど変わらないよ」
    店を見渡しながらティファが言う。ジェクトもつられて店内の装飾や棚を眺めた。
    「だからこそ、ちょっとアレンジもしてみたいの。アーロンと一緒に行った店の話とか聞きたいな」
    「悪りぃな、俺の故郷…ザナルカンドにゃいろんなバーがあったんだけど、アーロンとは一緒に行ったことはねぇんだよ」
    言葉に出すとそれがひどく寂しいことのような気がした。同じ街に住んでいたのに、自分達は一緒に過ごしたことがない。地図は共有できても、思い出は何一つ、共有出来なかった。
    ほとんど事情を知らないであろうティファにアーロンとの経緯を軽く説明する。共に過ごしたのはスピラという世界でだった95日間だけ、そしてその後の10年を、片方は化け物として、もう片方は死人として過ごした話を簡単にまとめた。
    「一緒にバーか…行ってみたかったぜ」
    ジェクトの掠れた呟きに、ティファがポツポツと話し始めた。
    「アーロン、ここで飲むときほとんど話さないけど、ジェクトとティーダのことは少し話すんだよね」
    「おっ、どんな話?」
    「ティーダが子供の頃から親代わりだったんでしょ?それが未だに抜けきらないみたいで、戦闘に出てたりすると無意識なんだろうけどすごく心配してるの」
    「めっちゃ想像できるわ。ほんと頭があがんねぇよ、俺よりよっぽど父親してらァ」
    ティーダがアーロンに心を開いている様子を見るのは凄く好きだった。自分が実の父親なのに、という馬鹿げた張り合いすら感じないほどに、その関係が自然に見えるからかもしれない。もしくは、自分がこの手でティーダを託した相手だからだろうか。
    それが良いことなのか悪いことなのかジェクトにはわからなかったが、少なくともティーダと二人きりよりかは、アーロンも一緒にいた方が家族らしく接することができるのは間違いなかった。
    「んで?俺のことはなんだって?」
    「一人で飲みたいのに押しかけてきて鬱陶しいって」
    「ティファちゃん、流石の俺様も落ち込むぜ、そこまで言われるよォ」
    カウンターの向こう側に立つティファに上目遣いでそう告げれば、ごめんね、と魅力的な笑顔で笑った。
    「でもね、面白いの。そう言ってるくせに、寂しそうに煙草ばっかり吸ってる」
    「寂しそう?」
    「うん、やっぱり私にはそう見えるな。一人で飲んでるときは、特に」
    ジェクトは寂しそうなアーロン、というのにいまいちピンと来なかった。10年前も今もいつも難しそうな顔をして、真っ直ぐに前ばかり見ていると思っていたからだ。
    一人で生きられると、強く拒絶されているような気さえしていた。自身の妻とは、対極にあるような男だと思う。
    「本当はジェクトと一緒に居たいんじゃないかなぁ」
    だが、他者から見てそう言われるのは悪い気はしなかった。
    「ねぇ、二人ってどう言う関係なの?」
    「どうって言われてもなぁ…」
    改めて問われると自分達の関係を一言で言い表すのは難しかった。無意識に後頭部の髪の毛を掻き混ぜてみても、答えは出てこない。
    「タイプは全然違うじゃない?でも相棒って感じでセットに見えるほど息もあってるし仲良しだし」
    「まぁ俺もあいつのことは相棒だと思ってるぜ。元の世界じゃ俺たちしか知らねぇ事がいっぱいあったからよ。そうだな…共犯ってのがしっくりくっかもな」
    「共犯…ふふ、大人の関係って感じだね」
    「まぁ大人っちゃあ大人かもな…」
    お互いもっと子供だったなら、この関係に友情だとか、愛だとか恋だとか名付けて決着をつけていたかもしれない。それをしなくても隣にいることが自然なことが、かえって自分達の関係を不自然にした気がする。
    なぜならこの世界自体が、終わったはずの二人の命に、終わりも先も見えない瞬間を作り出しているのだから。
    ジェクトは自嘲気味に髭を歪めて、そしてまた酒を呷った。
    「ジェクトは灰皿いる?」
    ふと、灰皿を掲げてティファが問いかけてきた。
    「いや、若い頃は吸ってたけどもうやめちまったからな」
    「そっか。アーロンが結構吸うから、お酒を飲むときはジェクトも吸うのかな?って思っちゃって」
    「むしろあいつは若い頃は吸ってなかったんだぜ?真面目の塊って感じのカタブツでよ、何してもガミガミ怒られて参ったわ」
    10年前の姿を思い出すとつい顔が綻んだ。愛すべき年下の仲間は、いつだって真っ直ぐ一生懸命に生きていた。
    「ほーんと、いつからあんなに煙草なんか吸いやがる不良オヤジになったんだか…」
    「若い頃かぁ、想像つかないなぁ」
    「びっくりするほど変わっちまってよォ…でも良い男になったと思うぜ」
    「そうだね」
    ティファがそう言って笑うのが、ジェクトにとっても気分が良かった。アーロンは良い男だと思う。約束は決して違わないし、義理固く信用できる。思考に柔軟性もあるし、一緒に飲むのも楽しい。
    だけど、その心の奥底がジェクトには分からなかった。見た目や習慣も変わったけれど、それが一番の10年前との違いだと思った。
    「変わってしまって寂しい?」
    見透かしたようなティファの言葉に、ジェクトは疑問形で返すことで歳上としてのプライドを守ろうとした。
    「…なんだぁ、ティファちゃん。ティファちゃんにも思い当たる奴が居んのかよ?」
    「うん、子供の頃よく知ってるつもりだった人がさ、大きくなって再会したら変わってた時はびっくりしたんだ。どっちももちろん好きなんだけど…知らない間に何があったのか知りたいなってよく思ってた。どんなに願っても離れてた時間をやり直すことなんてできないのにね」
    懐かしそうに話すティファの表情をカウンター越しに眺め、ジェクトは頷いた。
    「でも一緒にいろんな冒険して、一緒に今の私たちの関係を作っていけたから、今が一番嬉しいかな」
    「今の関係、か。確かにその通りだな」
    離れていた時間を取り戻すことは出来ないし、過去の後悔もまたやり直すことなどできない。
    そもそも自分たちにはもう、今しかないのだ。未来すらも、ある確証などなかった。
    「ごちそーさん、美味かったぜ」
    ウィスキーを飲み干せば、カランと氷の揺れる音がする。
    「今度は二人で飲みにきてね」
    「おう、勿論」
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