80年目の孤独パンドロが不老長寿化したら最大の試練はパネちゃんの孫と見た目同年代になって、老婆になった可愛い妹を看取る時だと思う
リュパン(子なしエルイルなし)ならパートナーの為にも頑張って正気を保つと思う
パンリュ♀️(御子沢山、エルイルあり)だと……ええと…その…狂いそ…いや私には決めらんない。
そして、この話はリュパン(子なしエルイルあり)。
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紅銀両刀の赤担任で銀雪に一家言ある厄介ヲタの身として、人間の不老長寿化ってどうなんだろうな、どうやったら(私が)納得できるかな。と、ブツクサ考えた結果こうなった。銀雪ヲタあんまりいないからとても煩い。
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「兄さん、兄さん」
パネトネは弱々しく手を延ばす。
その手をパンドロは優しく握ってやる。
少女の頃に戻ったような妹は、兄の手を握りしめて安心しているようだ。
もう殆ど目が見えていない妹だが、兄の声はしっかりと聞こえているらしい。
「兄さん、兄さん」
「ああ、オレはここにいるぞ」
パンドロは妹の手を優しく握り返してやる。
「リュール様に伝えておいてくれないかい? アタイは幸せだったと……」
「わかった。必ず伝えるよ」
そう言うと妹は嬉しそうに微笑む。
パンドロの目には幼き頃の可憐な少女が重なって見えた。
妹の、皺の寄った手を握りしめ、白くなった髪を撫でてやる、まだ30歳前後の姿をした兄。
―――邪竜ソンブルの討伐から、80年が経過していた―――
リュールは、自身が神であるにも関わらず祈るような気持ちでパンドロの帰りを待っていた。
待つしかなかった。
(パンドロと永くともにありたい。それは本心です。パンドロの生の理を曲げてしまった時、嬉しくなかったと言えば嘘になります……)
しかし、だ。
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それは約60年前の話だった。
長命になったと気づいたパンドロは、ひどく狼狽していた。
折しも、結婚が遅かった妹にようやく子供が生まれており、故郷で妹の手助けをしながら過ごしていた時期だった。
神竜王城へ帰還し、長命化を宣告されたパンドロは、こう呟いた。
「オレは……妹と、姪の、葬儀を執り行うのか? 妹の死に目に会って……姪と、その子供たちが……っ」
パンドロはその後、ふらふらした足取りで、自室へと戻っていった。
普段は礼儀にやかましい老守人も、その残酷な宣告と憔悴した様子に声をかけることができずにいた。
リュールは内心の喜びから一転し、ひどく悲しい気持ちになってしまう。
(パンドロの苦悩を、私はまったく理解していませんでした)
永劫に等しい生。
竜族ならば当たり前のそれ。
パンドロが何を恐れるのかも、リュールには想像できなかった。
パンドロとともに生きると誓ってから……いずれ独りになるのでは、という不安が常に付き纏っていた。
自分とパンドロには寿命の差があり、いつか必ず置いていかれる。
リュールには、母親の違うきょうだいが3人いる。魔竜の仲間もいる。眠っている時間の方が長いとはいえ腕輪の紋章士もいる。
その上でリュールはパンドロの長命を欲している。それはパンドロへの執着心が、リュールの心を縛っていることを示していた。
「ふう……これは、いけませんね。パンドロが苦しんでいるというのに、私は……」
リュールは自らの不甲斐なさを嘆きながらも、パンドロの部屋へと急いだ。
部屋の中でパンドロは、わずかな私物を机の上に並べていた。
子供が使うようなアクセサリーや玩具。
姪の生まれた日が刻まれた日記。
リュールを象った小さな人形などだ。
それらは、全てパンドロの愛する家族の思い出だった。
「リュール様……」
パンドロは、リュールの姿を見つけると跪き、祈る。
「リュール様、神竜王様……いや、神様。ありがとうございます。あなた様のご好意に深く感謝申し上げます」
「いえ……いいのです、私の願いなのですから……」
リュールもまた、その傍らに跪いた。
「私は……自分が思っていた以上に欲深いようです」
リュールはぽつりぽつりと呟くように、自らの心の内を打ち明けた。
永劫を生きる竜の孤独と焦燥感。そして恐怖を吐露する。
かつてソラネルに招き入れた者は、幾人か看取った。殆どが老人か病人だった。
廃墟となった村で家畜とともに生き延びていた老婆。異形兵が徘徊する異なる世界のブロディアで、奇跡的に生き延びていた山奥の村人たちの1人。
邪竜教徒ながら神竜軍に参戦してくれた老賢者。
そして、リュールの最初の友となってくれた国王。
あの国では王位継承者が未成年で、王妃が貴族出身だった場合、王妃が女王となる。それを避ける為に、友は弓使いとの婚姻を諦めた。そして国王でありながら死の床につくまで独身のままだった。
リュールは、彼の葬儀に参列した。彼の妹が無事に新女王となったので即位式にも参列した。リュールは、きっと愛する人間の死に耐えられなくなってしまったのだろう。
パンドロは、それから年をとらなくなった。
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リュールの懺悔を、パンドロは何も言わずに聞いていた。
やがてリュールは立ち上がり、パンドロに手を差し伸べた。
「行きましょう、あなたの妹の元へ」
「はい……」
パンドロはその手に縋った。
以降、パンドロは、折に触れて実家に帰ることとなる。
幸いソルムの風習として、男性が姉妹の子供を育てるのはそう珍しいものでもなかった。
妹は高齢出産ながら無事に子供を3人も生んだ。
しかし、甥姪の肌はみな濃かった。
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パネトネの結婚が遅れたのは、彼女がリュールと兄以外の男性を避けがちな人柄も一因ではあった。しかし、それよりも遙かに『神竜王の義妹』という肩書きを得てしまった事が大きい。
彼女自身、実家の教会を運営するつもりがあった為、司祭の夫を望んでいた。
そのせいもあって、エレオス中の有力者が身内の若者を彼女の入り婿にしようと躍起になっていた。
パンドロは、そんな縁談は全て焼き払い、妹自身の答えを待った。
そしてパネトネは、同僚でもある王城神官の男性を選んだ。
その男性はかつての自警団の一員であり、まっとうな女司祭の弟であり、ソラネルに招かれた人物でもあった。
つまりリュールもパンドロもよく知っている人物で、実家の教会と、妹を任せるに足る誠実な男だった。
*
***
甥姪の肌は義弟に似て色が濃い。
これでは甥姪が大きくなっても、自分と血縁だとは思われないかもしれない。
子孫ともなれば、ますます自分に似なくなるだろう。
その事を思うだけでパンドロは気が滅入った。
いつか来るであろう最愛の妹との別れは、辛くてたまらなかった。
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パンドロが数ヶ月ぶりに神竜王城に帰還すると、そこには……
「きゃっきゃっ」
と楽しそうなな幼い声が響いていた。
見ると、髪玉……もとい体積の半分は髪の毛なんじゃないかと思うほどの、長い長い緑色の髪を持つ女児が、大きな玉にしがみつくようにして遊んで……いや、よじ登ろうとしていた。
その女児を見守るかのように、エルが側にいる。
あっけにとられて、しばらく見ていると、コテンと転がった女児にエルが駆け寄るも
「大丈夫ですよ、エル。エルはやさしいですね」
と言い、それを聞いたエルはうわごとのように「神竜様、神竜様」と呟く。
「あの子は新しい神竜王族候補です。」
とリュールがやってきた。
「逆転の発想です。私は最後の神竜王族。ですから半永久的に生きるしかないと思っていました。しかし、後継者を作れば良いのだと気づいたのです」
パンドロは話が見えず
「それとあの子に何の関係が?」
リュールはよくぞ聞いてくれたと言わんばかりに
「あの子はエレオスの竜族の中でもっとも神竜王族に近い竜です。秘境で大事に育てられていたと聞いています。おそらく、私の産みの母も同じ竜族の出身だったのだと思います。だから、母さんの愛が奇跡として成就した。私も同じ事をすればいいのです。」
完璧な手筈だと思っていた。しかしパンドロは飛び出さんばかりに止めてきた。
「リュール様!いけません。寿命を犠牲にしてはなりません!」
「しかし、パンドロ」
「オレの事はいいのです。ただ覚悟が足りていなかっただけなんです。ずっとリュール様のお傍で、リュール様の御心の赴くままにお仕えできることが幸せです。ですから、そんな悲しい顔をしないでください」
「パンドロ……」
リュールの頬を伝う涙を拭う。
その手はひどく冷たかった。
――結局、双方が折れる形で決着がついた。
神竜王族がリュール1人というのは宜しくないので、2人で彼女の父親になって、永い永い時間をかけて、ゆっくり育てていくのだと。
「ああ、神竜様」
「どうしてだろう?こういうお姉ちゃんがいた気がする」
「ふんっ。妙に神竜に似た女だな。……力持つ竜となりそうだ」
「エル様。とても似ておられますか、この方は竜族の幼生体。生まれて間もないのですよ。百歳に届いているかどうか」
もとい、女児の親候補はもう4人ほどいそうだった。
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上品な筆跡の手紙がいつの間にかリュールの机の上に増えていった。
「鍛錬の間にて待つ」
果たし状だった。
ソラネルに移動して、鍛錬の間に入ると
「待っていたわ、リュール」
そこには三鼎の紋章士が……男2人は沈んでいた。ディミトリに至ってはブレイクからの無慈悲でも食らったのか気絶している。
紋章士エーデルガルトはアイムールを片手に仁王立ちしていた。とても威厳があり、恐ろしい。
今の彼女ならきっと、スキル「男嫌い+」(男性と闘うとき命中と必殺が+20)くらい持っていてもおかしくない。そんな恐怖をかき立てる姿だった。
「まずは話を聞いてあげるわ。パンドロに血の儀式をして不老長寿にしたのは、本当かしら?」
……後にリュールはこう振り返る。
「今でも無傷で帰還できたのが不思議でなりません」
エーデルガルトの世界の竜族は、世界の危機にさっぱり気づいてなかった。
それでいて独断で他国の人間の死刑を決定して執行できる権限を有しており、”闇にうごめく者”によるトカゲの尻尾切り作戦に見事に引っかかり続ける。
さらに教団幹部に”紋章”を付与させて、いざという時はエレオス大陸でいう復活の石代わりに使っていたというとんでもない話だった。
決してディミトリには聞かせられない話なので気絶させたらしい。
要するに紋章士エーデルガルトの逆鱗に触れてしまったのだ。
「……これは困りましたね」
情報を整理した結果、『パンドロはリュールが暴走してしまうと復活の石代わりに使われてしまうかもしれない』という推測が立った。
エレオス大陸における人間の長命化など前例があるとは思えない。
パンドロを守る為にもリュールはリュール自身すら守る必要が出てきてしまった。
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ソンブル討伐から80年が経過したある日のこと。
リュールは待つしかなかった。パンドロが、リュールの元に帰ってくる日を。
パネトネの葬儀は、パンドロ以外の人物によって執り行われた。
パンドロは遺族として立ち会った。
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リュールの懸念は外れた。パンドロが、帰ってきたのだ。
上の空といった風情だったが、やがてこう語り出す。
「オレは、そのうち故郷では伝説の司祭になるんでしょうか」
話が見えないと困惑するリュールに、パンドロは続ける。
「6代先7代先のソルム女王の冠婚葬祭を、オレが司祭として執り行う事になるのでしょうか。オレ、男なのに」
リュールはパンドロを抱き寄せる。その肩は震えていた。
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パンドロが、元気な姿を見せるようになるまで10年かかった。
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今日の神竜王城では、気持ちを切り替えることができたエルが竜族の恋人を連れてきていた。しかしイルが姉の恋人にモラハラマウントしていた。
別の日では、新グラドロン国王を決める会議が紛糾していた。ヴェイルが固辞し続けているため終わりが見えなかった。
さらに違う日では、大教会から矢継ぎ早に使者が来ていた。
それらの対応に追われつつも、女児が「お父さま。私と遊んでください」というので、パンドロは娘を肩車して、遊んでやっていた。
パンドロは、間違いなく、幸せだった。