140字SS 5本『バトルはできないし文字も歪むけど、貴方は全部分かるらしい』
「誰も気づかなかったよ」
紙とペンを持つより先にクダリがそう言いました。体を起こしたわたくしをベッドへ押さえつけ、クダリは今日あった全試合の内容を事細かに語ってくださいました。
「早く喉治そうね」
黒の制帽を脱いでクダリは言いました。わたくしの代わりに体温計がピッと返事をしました。
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『この後めちゃくちゃ奢らされた』
休憩室に入るとそこは修羅場だった。白ボスは背筋を伸ばしてガチガチに凍りついているし、黒ボスはその横で仁王立ちだ。あんな顔は久しく見ない。
一体何のインシデントが……と血の気が引いたが、ふとテーブルを見やれば、黒三角が書かれたヒウンアイスの空の容器があった。
「有罪です」
「ごめん」
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『あのね』
走りたかったけど我慢して、かなりの大股でホームを突っ切った。ぼくらの足が長いだとか動きが機敏すぎるだとか、ネットで話題にされてることは知っていたけど構っていられない。
「ノボリ!」
改札口に後ろ姿を見つけて叫んだ。だって今日のバトルは一段とすごかったんだ、早く話したくてたまらない。
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『復讐』
大口を開けて残りすべてを流し込むと、ぎゃあと悲鳴が上がった。
「ホントに食べた!全部!」
「わたくしが買った菓子ですし」
普段こんな下品な食べ方はしないが、見せしめには丁度良い。
頭を殴られたので殴り返してやった。以前勝手に食べられたチョコも報われるだろう。食べ物の恨みは恐しいのだ。
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『乾杯』
視界に星が飛んで、なんてことはないけど、頭がふわふわする感じは嫌いじゃない。もう一缶開けたらノボリが無言でグラスを差し出してきた。飲み会じゃ人に注がせたりしないくせに。
「あしたへーきなの」
「あしたはお休みですよ」
そうだっけ。じゃあ良いのか。グラス同士をぶつけたら少しこぼれた。