1月10日。玲音は一つの紙袋を下げて家を出た。
誕生日だからと代わりを申し出たが「先輩と一緒にバイトしたいっす」と言われれば玲音に断れるはずもなく。つい思い出して頬と耳を染めながらグラスを磨きなおす。
ふと玲音がホールの方を見ると、蒼斗が接客をしながら周りの常連たちに祝われており、可愛がられている姿に笑みがこぼれる。高校で同年代といるとしっかりしているのもあり、大人っぽく見える蒼斗だが、こうやって年が離れた大人たちに囲まれているとまだ16歳になりたての高校生である。
玲音が穏やかな表情をして眺めていると、不意に蒼斗と目が合う。蒼斗は玲音に見られていたことに気付き、少し視線を迷わせた後にはにかんだ。
そんな顔に玲音がドキッとしている間に、蒼斗が崇に何かを伝えられたのか玲音の方に近づく。
「玲音先輩、たか兄が上がって良いって」
「っあ、ああ。わかった」
「大丈夫っすか? 顔少し赤いっすけど」
「大丈夫だ」
誤魔化すために玲音は顔を少し下げて首を振る。蒼斗を納得させ、崇に上がることを伝えて蒼斗と一緒に裏に引っ込む。
着替えて店を出て、分かれ道までの数分。たわいもないことをポツポツと話す。お互い話す方ではないため会話が切れる時もあるが、玲音は不思議とその沈黙を心地よいと感じていた。
「じゃあ、また学校で」
「ああ……望月」
分かれ道で名前を呼ばれて首を傾げる蒼斗に、玲音が紙袋を差し出す。
「これって……」
「クッキー。まあ、菓子はほとんど作ったことねえからちょっと不格好かもだけどな」
「先輩が作ったんっすか」
「まあ……」
「あざっす。すごい嬉しいっす」
紙袋に入っているラッピングされたクッキーを眺めてから、蒼斗は玲音に礼を言った。
誰かにプレゼントをしたのなんていつぶりだろうか。久々の感覚に渡す直前、少し不安を抱いていた玲音だったが、蒼斗の嬉しそうな顔を見てそっと胸をなでおろした。
また明日、と分かれて家までの道のりを歩いていた蒼斗は、先程もらったクッキーに手を伸ばす。
「うま……」
サクッと口の中で鳴る音と少し控えめの甘さ。玲音の律義さやその優しさに、蒼斗は知らぬ間に笑みがこぼれてた。