部活がオフの日、蒼斗は玲音の家に訪れていた。蒼斗に教えるがてら、2人で一緒にお昼ご飯を作って食べる。これはいつの間にか玲音の家に来た時の常になっていた。
「ごちそうさまでした」
「望月、大分上達したんじゃね?」
「そうっすかね……そうだといいんすけど」
「おう。……っふは」
「玲音先輩?」
「いや、最初のみじん切りのこと思い出してよ。あれはマジでびびったわ」
「あれは……忘れてください」
くっつりやで初めて見た蒼斗の調理技術のことを思い出して、玲音はつい思い出し笑いをしてしまう。蒼斗は悔しいが、当時の酷さは自分でも自覚しているため、なんとも言えない顔をしている。
「悪い悪い。俺、飲み物入れてくるわ」
「あ、俺やりますよ」
「いーから客人は座ってろよ」
少しバツが悪そうにしている蒼斗が可愛くて、玲音は立ち上がり蒼斗の横を通り過ぎるタイミングで、頬にキスを落とした。すぐに離れたが、振り向いた蒼斗と目が合った状態で無言の時間が経過していく。
「っえ」
「……あ」
普段滅多にない玲音からのキスに驚く蒼斗と、慣れないことをして首まで赤く染まった玲音。
先に動きだしたのは、我に返った玲音だった。
逃げるように蒼斗から離れるが、そんなに広くもない家で、玲音よりもリーチがある蒼斗に捕まるのは、そんなに長い時間はいらなかった。
「玲音先輩」
「……んだよ」
「俺、嬉しかったっす。先輩から、キスしてくれて」
「そーかよ」
「玲音先輩」
「……なに」
「こっち向いて」
おずおずと蒼斗と向き合う玲音は恥ずかしさで下を向いてしまう。しかし、上からでも真っ赤に染った耳はしっかりと蒼斗の目に映った。
蒼斗の大きな手で玲音の頬と耳に手を添え、ゆっくりと蒼斗と目が合うように上げていく。優しい笑顔で見つめる蒼斗に余裕を感じてしまい、ずりぃ、と言葉を漏らす。
「何がっすか」
「なんかお前だけ余裕そうで腹立つ」
「先輩、手、貸してください」
「あ?」
玲音の手を取って、自身の胸に当てさせる。そこから感じる鼓動は、玲音の身体中から訴えてくるものとよく似ていて、蒼斗も自分と同じなのだと知った。
「玲音先輩にあんなことされて、余裕ある訳ないじゃないですか」
「望月……っん、ふ、ぁ」
「は……先輩……」
啄むように重ねていた口付けは、次第に深いものへと変わっていき、2人の鼓動をさらに早め、消えかけの余裕を奪っていく。混ざり合った唾液が、玲音の首筋をなぞっていった。
「あの、玲音先輩」
「なんだ」
「次はこっちにも先輩からしてくれるともっと嬉しいっす」
「……は!?」