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    Hi_nu333

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    No.4 《 瑠璃の花は茨に咲く》

    高熱を出した圭介の話。

    ※ふゆばじ

    #4 high fever「え……今日場地さん休みっすか」
    「なんか昨日から調子悪いみたいでさぁ。悪いけど今日期限のプリント代わりに渡してもらっていい?この馬鹿、ギリギリにしか出さないから」
    息子が体調不良だというのに、涼子がいたって変わらない様子で千冬を迎えた。自分で出迎えられないほど圭介の症状は重いのだろうか。色々聞きたいことはあるけれど、ゆっくりお喋りしている時間もない。あまり居座るのもよくないと思い、千冬は簡単な挨拶を交わして、一人きりで階段を降りた。

    週明け月曜、誰もが学校や仕事に行くのに億劫になる呪いの曜日だが、無遅刻無欠席を貫いている圭介に限ってズル休みでないことは確かだろう。しかし、圭介、と病気、という二つの単語が千冬の中であまりにも結びつかない。以前、あまり風邪は引かない方なのだと圭介が言っていたのを思い出す。けどたまに熱が出ると酷く悪化して、丸二日ほど寝込んでしまうときもあるのだという。今回はその酷いとき、なんだろう。
    授業も昼休みも登下校も、圭介のいない学校生活は何も楽しくない。時計を見つめていても、秒針の進みの遅さにイライラする。時間潰しに昼寝しようと試みても、圭介に送ったメールの返事が来ているかもしれないと思うと寝付きが悪かった。
    今日の放課後、見舞い品でも持って家に寄ってみよう。そう自分の中で計画し、プランを練っていると少しばかり時間が早く過ぎた。

    結局、放課後まで返信がくることはなかった。そこまで酷い症状なのか、ただ面倒で返していないだけなのかはわからない。日頃から丸一日返事がない、なんてこともザラにある。
    少しだけ緊張しながら圭介の家のチャイムを鳴らす。が、誰も出てこなかった。そういえば朝に会った涼子は仕事着だったから、突然仕事を休むのが難しかったのかもしれない。試しにと思い、ドアノブを回してみると、案外簡単に扉が開いた。
    「不用心すぎるだろ……」
    病人を残した家の鍵をかけ忘れるなんて、とは思うが、涼子ならやりかねない。それか、単にすぐそこのコンビニに出ているだけなのかもしれない。そーっと中を覗いてみても、しんとして人の気配はなかった。お邪魔します、と一人で呟きながら中へと入り込む。起きていたら食べるかもしれない、とコンビニで買ってきたプリンとポカリと、一応ペヤングも一緒に持っていく。
    圭介の部屋に入ると、押し入れに詰まった布団がこんもりと盛り上がって小さく上下していた。壁に顔を向けてぐっすりと眠っているようだ。声をかけようとして、一瞬立ち止まる。病人を無理に起こしてもいいのだろうか。病気の友人の家を訪ねるなんて初めてでいちいち戸惑ってしまう。でも、無言で部屋に入って見舞いだけ置いて帰るのも変だろう。
    どうしようかと棒立ちで固まっていると、突然ごそごそと布団が動いて圭介の顔がこちらを向いた。静かな寝息を立てながら、安らかな表情で眠り続けている。額に貼られた冷えピタと無防備な寝顔が見慣れなくて、いつもより幼く見えた。
    「ば、ばじさ〜ん……」
    ここで起きたら、部屋の中にいきなり自分がいてびっくりさせてしまうだろう。驚かせてしまう前に意を決して声をかける。が、少し距離があることもあって、圭介には全く届いていないようだった。
    おそるおそる近づいて、顔を覗き込む。いつもはしっかりと見ることのできないまつ毛の長さや、唇の乾燥をついつい凝視してしまう。あまりにじっと見過ぎて視線を感じ取ったのか、圭介の瞼がぴくんと上がり、ゆっくりと開いた。
    「ん…………だれ……」
    「ぁ、起こしちゃってすいません」
    まだ夢と現実の途中にいるのか、返事をしても、んん、と喉を鳴らすだけでまともな言葉が出てこない。
    「場地さん?眠いっすよね、また出直してくるんで、」
    帰ります、という言葉は、圭介の突然の行動によって阻止された。振り向こうとする腕を掴まれて、足が止まる。触れた指先は、熱のせいかとても温かい。
    「え……な、なんすか」
    「どこ、行くんだよ」
    圭介の様子がおかしい。口調もなんだか緩いし、とろんとした瞼には薄い水膜が張って、本当に子どものように見えた。
    「えー、と、場地さんまだ眠いのかなって、」
    「眠ぃ、から、いっしょにねる」
    「わ、ちょっと」
    ぐい、と腕を引っ張られて、腕を抱き枕のように抱えられた。シャツの上から頬擦りするように身を寄せられて、千冬の心臓が大きく音を立て始める。
    圭介のことを、そういう意味で好きだと気づいたのは最近だった。東卍にいた時代の隊長・副隊長の肩書きはなくなり、今では仲のいい同級生として一緒に時間を過ごしている。でも、ふとしたときの仕草とか、たまに見せてくれる笑顔とか、自分にしか見せない表情をいつしか、可愛い、と感じるようになっていた。同性の友達には決して抱かない感情だ。恋心を自覚してからは今までの気持ちが吹っ切れて夜な夜な圭介とのあらぬ妄想をしては元気に抜いている。こんなシチュエーションを望んだことがない、とは言い切れなかった。
    「ま、待って、ダメです場地さん」
    「千冬のにおいする……」
    好きな人に自分のにおいを嗅がれて、興奮しないわけがない。当たった鼻の感触ですら敏感に感じ取ってしまって、左手に持った袋を床に落とした。冷蔵庫に入れなければいけないとは分かっていても、この状況と天秤にかけてどちらが勝つかなんて決まっている。
    上がってしまった自分の熱を覚ますためしばらくそのままにしていると、布団からはみ出た肩がぶるっと震えた。大きめのスウェットははだけて、ほんのり赤くなった肌が外気に触れている。
    「寒いんですか?」
    「ん、さみぃ……」
    ちょっと待って、と布団をかけ直すために動こうとすると、腕を掴む力が一層強くなった。
    「ぎゅって、してほしい、前みてえに」
    「へ…………」
    圭介の突然の甘えに、気の抜けた声しか出なかった。誰かと勘違いしているのかとも思ったが、圭介の指す前、というものがいつのことか、千冬には心当たりがあった。
    固まる千冬を急かすように、圭介は言葉を続ける。
    「ダメなん?」
    「や、ダメじゃねえっすけど」
    「じゃあ、はやく。寒い」
    しがみついていた腕を解放し、ん、と布団をめくってくる。前みたいに、と言っておきながら、正面からはさすがにやったことがない。己の理性と必死に戦うが、据え膳なんとやら、だ。この機会を逃したら次はない、と自分を正当化して、覚悟を決めた。
    「お、お邪魔します……」
    初めて入った押し入れは思っていたより硬くもなく、シーツのおかげで意外と寝心地はよかった。高校生二人だとどうしても狭いけれど、布団を被って身を寄せ合う。しかし、圭介の匂いに包まれた空間で身体を密着させて、千冬は煩悩を追いやるのに必死だった。そんなこととはつゆ知らず、圭介はどんどん距離を詰めて、千冬の背中に手を回しながら胸のところに顔を埋める。
    「んん、千冬のにおいすげー」
    「さっきから、オレの匂いってなんすか」
    「んー?なんか、ぶわーってあったかくなって、すげえ安心する」
    すん、と自分の匂いを嗅がれてしまってはたまらない。千冬は下半身だけをどうにか離して、ちょうどいい位置にある圭介の頭を撫でた。
    「そんなの、今まで言ってくれたことないじゃないですか」
    「……お前も、言ってくんねぇじゃん」
    「え?」
    何を、って、聞くより先に、圭介は目を瞑って規則正しい寝息を立て始めてしまった。とんでもない爆弾発言を言い残して夢の世界へと旅立ってしまった圭介に、千冬はもやもやとした気持ちを拭えないまま生殺し状態だ。腕の中で好きな人が寝ているなんて、夢に見たまでの状況なのに、手を出せないとなると話は別だ。早く布団から抜け出さないとダメだ、と思う反面、この心地よさを手放したくない自分もいた。
    絶対に寝られない、と思っていたはずが、しばらくすると二人で夢の中に落ちていた。玄関先の物音にも気づくことができず、現場を目撃した涼子から、しっかりとお叱りの言葉を受けることになるとも知らずに。
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