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    《 瑠璃の花は茨に咲く 》展示作品No. 1

    ショタ場地が鼻血を出す話。
    ※cp無し。涼子が出てきます

    #1 nosebleedたらり、と何かが頬を伝う感触ではっと意識が覚醒する。
    「……ぁ?」
    目の前は、まだ真っ黒な暗闇の世界だった。今夜は月の光すら入ってこない。夏なのに、ぞくりとした寒気が襲ってきて、圭介は足元のブランケットを足先で拾い上げた。寝る前に脱いだパーカーは下に落ちてしまったようで、足先で探しても見つからなかった。
    こんな時間に目を覚ますなんて珍しい。いつもは起こされないと昼までぐっすりで、起きたての頭にがんがん響く怒鳴り声に起こされるという、目覚めとしては最悪な起こされ方を懲りずに毎日繰り返している。もう一度眠ろうと試みても、なんだか今日は妙に寝苦しくてしばらく布団の上でごろごろと落ち着かなかった。やがて顔を横に向けたとき、その違和感に初めて気がついた。
    「あ、……なにこれ」
    顔の中心が何かくすぐったくて指先で鼻を拭うと、どろりとした液体が付着してぎょっとする。目が慣れてきて、暗闇でもその黒いものがぼんやりと視認できた。意識すると途端に違和感が形になって現れる。
    ひんやりとした感触、唇を舐めると口の中にじんわり広がってくるような鉄の味がやけに生々しく感じてウッと吐き気を催した。一緒に、鼻の奥からぶわあっと血が溢れてくるような感覚が一気にきて気持ち悪さも倍増だ。呼吸まで浅くなってくる。血なんて怖くないはずなのに、それが自分のものであるということ、寝惚けた頭を殴られるような驚きが重なって、感情よりも生理的反応が先行してしまった。
    血の気を自覚していてもそれは勝手に止まるものでもなく、抑えるように鼻に当てた手に粘液が広がっていくのが分かる。寝そべっていると止まらない気がして身体を起こした。でもそれほど現状は変わらなかった。
    圭介は普段、鼻血がよく出るような体質でもないからどうしたらいいのか分からなかった。指の間から溢れ出て垂れてくるような大量の血が枕や衣服、シーツまでもを汚し、辺りが血の海にでもなったかのように錯覚する。真夜中に一人で、何も分からない。混乱して、軽いパニックを起こした。涙まで溢れて止まらなくなってくる。
    「ぅ、どうしよ、これぇ」
    手首を伝って落ちてくる血が、腕の皮膚にナイフを突き立てたように冷たく、鋭い筋をつくっていく。いつ終わるか分からない暗闇がさらなる恐怖を呼び起こしてくるけれど、電気を付けてこの現場をよりはっきり見てしまうのはもっと怖い。
    圭介は押し入れから飛び降りた。暗い中進むのは怖いけれど、ゆっくりとした歩幅で歩き出し、やっとの思いでリビングへ入る。その隣の部屋へと繋がる扉も、いつもより遠く感じた。

    床にぺったりと敷いた布団の中、すぅすぅと寝息を立てて眠る涼子を揺り起こす。
    「かーちゃん、かあちゃん」
    「ぁ……なに、けぇすけ?」
    声をかけると案外すぐに目を覚まし、寝ぼけ眼を擦りながらも涼子は、圭介の異変に気がついた。そもそも、こんな時間に起こしてくることなんて珍しい。頭上にあるリモコンを手繰り寄せ、電気を付けると思わず「うおっ」と声を出してしまう。そこにいたのは顔も服も手も、全身にべっとりと血を付けた圭介だった。べそを掻きながら顔の中心を小さな手のひらで覆っている。
    「っひ、ぐ……どーしよ、かあちゃ、止まんない…っ」
    「あー……何ごとかと思ったら」
    顔をぐちゃぐちゃにして身体を震わせる我が子の姿を見て、可哀想だと思わない母親はいないだろう。大きくなってきて生意気にも親に反発をしてくるようになっても、まだまだケツの青い子どもであることに代わりはない。小さい頃は苦労させられた泣き虫の顔を久しぶりに見て、涼子は申し訳ないながらも少し懐かしさを感じていた。
    「ほらおいで、圭介」
    両手を広げて呼ぶと、今日ばっかりはかわいくない抵抗なんかせず素直に胸の中に飛び込んできた。母親にとっては、まだ大きな赤ちゃんだ。昔の抱き心地とは全く別のものになってしまったけど、それは立派な成長の証。久しぶりの体温を感じて安心するのは母もまた同じだった。
    まだ止まりそうにない血を指の腹で拭ってあげると、不細工な顔で必死に涙を堪えようとしているのが見える。素直なのか強がりたいのか、そういう不器用なところも、昔から全く変わっていない。
    「ほーら、怖くない、怖くない」
    「う、あぁ〜〜っ」
    一度泣くと、もう歯止めが効かなくなってしまったようで、圭介は大口をあけてわんわんと泣き出してしまった。次々に溢れてくる涙と血は、涼子のパジャマの上と下の布団にもいくつかの点々を作り、それを見て圭介はさらに泣き出してしまう。ここまでの出血量は異常だと、近くに干したままにしていた乾いたタオルを圭介の顔に当て、軽く圧迫しながら止血を試みる。
    「んん……かーちゃん」
    鼻にかかる曇った声で呼ばれる。かわいい一人息子の珍しい姿、さらに隠そうとせずちゃんと自分を頼ってもらえたのが嬉しくて、今日だけはうんと優しい母親の顔になってしまう。
    「ん?なあに、圭介」
    「あの、あのさ……もーちょっと、近く、いってもいい?」
    圭介がきゅう、とパジャマの布地を掴んでくる。今年二桁の年になる圭介でも、まだまだ甘えたは健在で、普段隠れている面が表に出てきてしまっているのだろう。
    「よし、かーちゃんとぎゅーしような〜」
    「そ、そこまで、言ってない」
    反論しながらも、涼子の腰に手を回してコアラのようにぎゅっと抱きついてくる。恥ずかしそうに唇をム、の形にして顔を赤くしていた。少し背は伸びたけど、まだ涼子よりも頭ひとつ分は小さい。涼子は残った強がりの隙間を埋めるようにぎゅっと腰を引き寄せて、上を向かせながら鼻にタオルを当てていた。

    しばらくすると、ようやく出血は治まってきたようだった。タオルを離してみると、もう顔中が血だらけで酷い有様だった。思わずぷっと吹き出すと圭介が怒ったように眉をしかめる。
    「ごめんごめん、怒るとまた血出てくるぞー?」
    「誰のせいで……」
    「とりあえず、綺麗にしないとね。風呂……はよくないか」
    濡れタオルがいっか、と新しいものを引き出しから取りだした。血だらけの服も着替えた方がいい。夜中もてきぱきと母親業をこなす涼子を、圭介はじっと見つめていた。最近は外に遊びに行くことも増えしっかりした会話をすることも減ってしまったが、母親はいつまで経っても自分の母親なんだと再認識する。
    学校で、親孝行だなんだと先生が言っていたのを思い出した。小学生のうちは、物で返そうなんて思う必要はない。ただ日頃の感謝を伝えるだけで親は嬉しいものなんだ、と先生はそう言っていた。
    圭介は、人より鋭い八重歯で唇を噛む。恥ずかしいときの癖のようなものだ。そうやって一度飲み込んで、心の中でシミュレーションしてから、やっと口を開くことができる。
    「か、かあちゃん!」
    「ん、なに?」
    背中を見せていた涼子が振り返る。見れば、上の服に自分の血がいっぱい付いていて、申し訳なさがぐっと込み上げてくる。でも今言うべきは、ごめんなさいなんかじゃなくて。学校で習った言葉が、初めて日常で役に立ったと思った。
    「あり、がと……」
    血だらけの手で、自分の服の裾をきゅっと掴む。涼子は数秒固まって、にやけた顔で圭介を抱きしめにかかった。
    「んも〜!アンタまだまだかわいいとこあるじゃん、今日は一緒に寝よっか?」
    「は、離して」
    ぎゅうぎゅうと抱きしめられる苦しさが実は心地良いなんて、涼子には絶対に内緒だ。でも今日は、オヤコーコーの日だから、と圭介の甘えスイッチもオンになる。
    「一緒には、寝る。自分の布団汚れたから……」
    さっきとは違って顔が隠せるからいい。抱きしめながら頭をぐりぐりと擦り付ければ、涼子はくしゃくしゃと髪をかき混ぜてくる。
    「ふふ、そうね、汚れたからねぇ」
    「も、うるさい!」
    母親のからかい癖に苦労しつつも、こうやって友達のような関係でいられることのありがたさと、それでもちゃんと頼れる母親の面を改めて実感する。
    久しぶりに隣に体温を感じて眠れたその日は、いつもより目覚めがさっぱり……なんてこともなく、しっかりと叩き起こされた。いつもと違うのは、涼子の怒鳴り声が響かなかったことくらいだ。

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