『日々紡ぎ』「そういえば、一ノ瀬、真ん中バースデーとは、どのようなものか知っているか?」
食事が終わり、他愛もない話をしている途中で真斗がふと思い出したようにトキヤに聞いてきた。
飲もうと思って持ち上げたほうじ茶が入った湯呑みを再びテーブルへと置いて、トキヤは真斗が発した単語を繰り返した。
「真ん中バースデー、ですか? 確か……友人や恋人同士などでお互いの誕生日の中間にあたる日を祝うこと、だったと思いますが……」
知りたかった答えがすぐに返ってきて真斗は関心したようにほう、と感嘆の声を漏らす。
「さすがは一ノ瀬。博識だな」
大げさですよ、とトキヤは小さく笑ってほうじ茶を一口飲む。
喉を通るあたたかいお茶にふうと一つ息を吐くと、梨を堪能している真斗へちらりと視線を向けた。
「……ところで、真ん中バースデーなんてよくご存知でしたね? 一般的なお祝い事ではないと思うのですが」
そう疑問を投げ掛けると真斗は食べる手を止めて、そうなのか? と驚いた顔をした。
「以前、コラボした愛らしいキャラクター達がいるページを四ノ宮がスマートフォンで眺めながら“今日はこの子たちの真ん中バースデーなんですね”と言っていたので、てっきり俺が知らないだけだと思ったのだが」
その後、すぐにスタッフに呼ばれてしまったためにそれがどんなものなのかまでは聞けず。そして収録終わりにはその事を忘れてしまっていたらしいが先ほど急に思い出したのだという。
「なるほど、そういうことだったのですね」
納得した表情を見せたトキヤだったが、なぜだか落ち着かない様子で両手で持つ湯呑みに視線を落とす。
「しかし、そうか。……友人や……恋人同士、か」
その呟きにトキヤが視線を上げると真斗は壁に掛けられたカレンダーを見つめて、言葉を続けた。
「……俺と一ノ瀬の真ん中というのは、いつにあたるのだろうか」
その表情はちゃんとは見えなかったが、少し照れているように思える。
トキヤは湯呑みから右手を離し、スマートフォンを掴むがすぐに元の場所に戻すと口を開いた。
「……10月17日。明日です」
そのトキヤの言葉に振り向いた真斗は、一瞬驚いたような表情をしたが、すぐに笑顔を見せてくれた。
「ふ、そうか。一ノ瀬はすでにわかっていたのだな?」
先ほどまで真斗が見ていたカレンダーの10月17日は丸で囲われて『レストランで外食』と予定が書かれている。
その予定がきまったのは先月のこと。
『聖川さん、個室があってリーズナブルな良いレストランを見つけたのですが、来月予約が空いているようなので行ってみませんか?』
そんな何気ないトキヤの提案で明日はすでにそのレストランで食事の予約が入っていた。
「そういうことだったのだな」
「はい。実は、あのコラボが決まって色々と調べていたときに公式サイトで真ん中バースデーを調べることが出来て、そこで初めて知ったんです。黙っていてすみませんでした」
「謝ることはないだろう?祝うことが出来たら嬉しいと思っていたところだ」
トキヤはその言葉に胸を撫で下ろす。
何でもなかった日が二人にとっての特別な日に変わるのなら祝いたいと思ったが、一般的ではないためになんとなく真斗には言い出し難かったとトキヤは説明した。
「一ノ瀬との記念日が増えるのは嬉しいものだな」
「はい」
笑い合って互いの手に触れ、椅子から腰を浮かせると唇を重ねた。触れた箇所が熱を持ち、吐息が切なげに漏れる。
「聖川さん、明日レストランに行く前に買い物に行きませんか?」
「買い物……?プレゼント交換でもするのか?」
「ええ、どうですか?」
「楽しそうだな、そうしよう」
しっかりと指を絡めて、再び唇を重ねた。
ーーー日々をひとつ、ひとつ重ねて、記念日もそうでもない日も。二人でいつまでも……