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    はじめ

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    はじめ

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    ■7/28イロハ 流リョ新刊サンプル

    アメリカ同棲軸、ふんわりプロ軸、リョ誕本。
    なぜか赤ちゃんになった流川の子育てに奮闘するリョの話です。
    子育てを通して流川への想いと家族愛を再確認し、一回りも二回りも成長するリョを描く予定です…!

    部数アンケご協力よろしくお願いします!
    https://forms.gle/yNLpj6C9rD2KnRVs6

    #流リョ
    fluently
    ##流リョ

    【7/28イロハ 流リョ新刊サンプル】Baby Please Come Back かの有名な理論物理学者のアインシュタインは言った。
    『常識とは、十八歳までに積み重なった、偏見の累積でしかない』と。
     それから、『重要なのは、疑問を持ち続けること。知的好奇心は、それ自体に存在意義があるものだ』とも。
     偉大な彼なら、この摩訶不思議な状況をきちんと説明してくれるだろうか。

     低気圧の影響か、やたらと頭が重ぼったい。脳は覚醒しているが、身体が起き上がらない感覚。わずかに開いたカーテンからは明らかに曇天の空模様が飛び込んできて、リョータの気分を憂鬱にさせた。誕生日を一週間後に控えた、七月の朝のことだ。
    「…げ、雨降りそうじゃん。天気予報とぜんぜん違うし」
     たしか数日前のウェザーニュースでは「この夏一番の快晴」と言っていた気がする。それどころかこの夏一番の薄曇りですけど。
    「やっぱあのニュースキャスター、あてになんねえんだよな…」
     寝室のベッドで文句を言ったところで誰に届くわけでもない。
     今日は休息日のため練習は休みで、流川ともオフがかぶったから、ジョギングがてら近くのコインランドリーに立ち寄る予定を立てていたのに。
    「雨降る前に家出りゃなんとかなるか。てか流川どこ行ったんだろ」
     そこではたと気付く、いつもならリョータを抱き枕代わりに抱き締めてくる流川がいないことに。軽く後ろを振り返ったが、隣は無人のようだった。放っておけば昼まで寝ることだって往々にある流川にしては珍しいことだった。とはいえ、早起きをするに越したことはないので、取り立てて気にすることではなく、顔を見たら褒めてやろう、くらいの軽い気持ちだ。
     枕元に置きっぱなしにしておいたスマホを手繰り寄せて時間を確認すると、まだ朝の七時半だった。そのまましばらくSNSチェックをしてから、雨雲レーダーで雲の動きを確認する。
    「…あと二時間ぐらいは降らないかも。よっしゃ動くか」
     善は急げだ。腹筋を使って上半身を起き上がらせ、その場で伸びをすると、一晩中凝り固まった身体がぽきぽきと小気味の良い音を立てて解れていった。身体の調子は悪くはなさそうだ。たっぷり睡眠も取れたし、筋肉も良い感じに解れている。ちょっとストレッチ足りなかったかも、と思ってたから良かった。
     ほっとしたのも束の間、シーツの上にだらりと下ろした指先がふにふにと柔らかい何かに当たった。マシュマロみたいな触り心地はつるっと冷たく癖になるような滑らかさだった。
    ――なんだこれ?
     触れたことがあるような、ないような。遠い記憶のなかでおぼろげに眠る人肌の感触を呼び起こされたような感覚だった。なんだっけ、これ、言うなれば赤ちゃんみたい。いやいや、まさか。たしかに我が家にはでかい赤ん坊みたいな男はいるけれど。
     ほとんど反射的に視線を下ろすと、ほぼ同じタイミングで何かがリョータのシャツを掴んだ。驚く間もなく強い力でぐいっと引っ張られ、わずかに重心が右に傾いた。視界の端っこで捉えた物体の存在を脳が把握処理する時間はまるでスローモーションみたいだった。ぎし、とベッドのスプリングが軋み、感化されるように一気に脳が活性化していく。
    「――…え?」
     振り返ると、赤ん坊がいた。一瞬、精巧な人形かと思ったが、上下に動く胸元を見てそうでないと悟る。本物の赤ちゃんだ。リョータのすぐ背後に、同じベッドの上に、妙にふてぶてしい顔で丸まり、無防備な寝顔をさらけ出している。マシュマロみたいな何かに触れてから、わずか数秒の出来事。ジェットコースターみたいな状況に思考が追い付かない。
    「えっ、ええっ、えええっ??」
     なにこれ、赤ちゃん? ほんもの? 目を白黒させている間にも、もみじまんじゅうみたいな小さな手がぎゅっとリョータのシャツを掴んでくる。なんだこの可愛い生き物。そのいとけのなさにきゅんとしながらも脳ははっきりと混乱している。いやいや、誰よこの子。なんでうちにいるんだよ。てか流川はどこ行ったよ。
     リョータの声に反応したのか、目の前の子どもの瞼がぴくぴくと動き出す。あ、泣くかも、と焦って、咄嗟に片手で自分の口元を覆ったが、リョータの心配をよそに、赤ん坊は泣かなかった。凛々しい眉を携えた利口そうな顔付きのまま、すよすよ寝息を立てていて、ほっと胸を撫で下ろした。
    「…びびった…つかどこの子だよ、日本人だし。日本人だよな? いつの間に入って来たの?」
     見たところ生後半年くらいの乳児で、おそらく男の子だった。なんとなく月齢が掴めたのは、チームメイトの第一子とちょうど同じくらいの身体発育をしていたからだ。もちろんだけど一人で歩ける年齢じゃないから、この子が自力でベッドに上がったとは考えにくい。
     その瞬間、泥棒とか強盗とか誘拐だとか置き去りだとか決して穏やかではないワードがリョータの頭を過ぎり、思わず寝室のなかを見回してみたが、荒らされた形跡はなかった。窓ガラスも割れていないし、ピッキングのあともないし、全くの無事だ。いくらスケールのでかいアメリカといえど、さすがにないか、知らぬ間に乳児が家に入ってくることなんて。
    「――ってことは、これは夢?」
     ぺちぺちと自分の頬を軽く叩いてみたが、ちゃんと実態も実感もあって普通に落胆した。常識では考えられないようなことや、科学では証明できていないことが、まだこの世界にはあるらしい。それらをロマンと呼び尊ぶ人間だって数多く存在する。夢や理想を追い掛けているのはリョータだって同じだけど。
    「…それにしてもよく寝てるわ。てかこいつ、どっかで見たことある顔してんな…」
     ようやく冷静を取り戻せてくると、赤ん坊を観察する余裕も出てきた。そこであることに気付いた。似ているのだ。この赤ん坊が。誰にって、流川に。顔立ちやパーツももちろん似ているのだが、この赤ん坊がまとうどこかおおらかな貫録そのものが流川にそっくりだった。
    「…見れば見るほど似てんだけど…」
     黒くてさらさらの髪の毛は触り心地がよくて、汗をかいているのか額にひっついている。かるく小指で掻き分けてやると、目を瞑っていても分かる端整な顔付きが目に飛び込んできた。
    「…きれーな顔…」
     きめ細かい白い肌に桃色の頬っぺたがなんとも愛らしい。下睫毛が長く、涙袋に沿って伸びる繊細な睫毛が陽光に照らされて綺麗だった。生後一年にも満たない乳児でこの顔立ちなのだから、成長したらさぞや男前に育つだろう。
     とりあえず、よく寝ている赤ん坊を起こさぬよう、そろりとベッドを抜け出して、流川に助けを求めることにした。さすがにこの状況を、一人で処理かつ解決できそうにない。
    「――流川、なんか知らない子どもいるんだけどお前の知り合い? ……って、あれいない…」
     てっきり流川はリビングにいると思っていた。ほぼ百パーセントに近い予感を抱いていた所在のあてが外れて、リョータは面食らってしまう。バスルームやトイレも確認したが、そこに流川の姿はなかった。不審者が隠れている可能性も考慮して、武器になりそうなものを忍ばせていたが、結局肩すかしを食らった気分だ。
    「…走りにでも行ってんのかな」
     なんだか胸を突くような寂しさを抱えつつ玄関へ向かう。玄関は無人で、流川のランニングシューズがリョータの隣にお行儀よく並んでいた。念のため革靴やスニーカーなども確認したが、流川が外出した形跡は見つからなかった。
    「…あいつ、どこ行ったんだよ」
     しんと静まり返ったリビングに戻るも、胸がざわついて仕方ない。それというのも、どうしたって脳裏にちらつく流川そっくりな赤ん坊の存在があったからだ。あの顔立ち、あの風貌、どう考えても血縁の可能性が色濃い。年の離れた弟がいた、っていうのならまだ笑い話で済ませられるけれど、もしそうじゃないとしたら。たとえば、隠し子的な。それはさすがに想像でも笑えなかった。咄嗟に頭を振って最悪の想像を打ち消す。
    「…まさか、流川に限ってそんなこと…」
     ないとは言い切れる。言い切れるし流川のことを誰よりも信用しているけれど、本人不在のうえ赤ん坊だけが取り残されているこの状況で、いっさいの不安がないと言えば嘘になった。
     仕方なく寝室に戻ると、先ほどと寸分たがわぬ感じで赤ちゃんが寝ていた。ダブルベッドのちょうど中央を陣取り、我が物顔で安らかに。暑いのか先ほどよりも赤みの増した頬っぺたが心配になり、慌ててキッチンに水を取りに行った。
     ペットボトルの水を引っ掴み、素足のままとたとたと長くはない廊下を駆け足で戻る。てか赤ちゃんって水飲めるのか? 冷えていても大丈夫なのか? 一回沸騰殺菌させた方が良いのか? 分からないことだらけだ。
     ベッド脇の棚に水を置いて、どちらにせよ水を飲ませるにはストローかプラスチック製のカップがいることに気付いた。あいにく、どちらにも我が家に常備はない。
    「お前誰なんだよぉ」
     なんでうちに来たの。聞いてみても、赤ん坊は答えない。彼から何かしらの情報を聞き出すのはどう考えても現実的ではないけれど、投げ掛けずにはいられなかった。どこから来たの、どうしてここにいるの、誰の子どもなの、オレの流川はどこへ行っちゃったの。起こさないよう慎重に、やわらかそうな頬っぺたをつんつんと指でつついてみる。
    「とりあえず警察かな…」
     かわいそうだが彼の素性を知れる手がかりのひとつさえない状況だ。リョータがなにか出来るとは思えないし、公的機関に頼るほかない。しばらくその寝顔を眺めながら、流川のことを思った。やっぱすげえ似てる、流川に。というか、瞳の形も虹彩の色も耳の角度も、なにもかも瓜二つだった。
     その時、赤ちゃんの首のうしろ、襟足の部分にちいさなほくろを見つけた。普段は髪の毛で隠れているけれど、流川もまったく同じ場所にちいさなほくろがある。恋人であるリョータだからこそ気付けたしるしでもあった。
    「…こんなとこにほくろあるじゃん。はは、お前ひょっとして、本当に流川なのか?」
     自分でも馬鹿なことを言っていると思う。でも、他人のそら似とかそういうレベルではないから、そうと決定付ける方が一番しっくりきた。すると、先ほどまで寝ていた赤ん坊がうっすらと目を開けて、「う」とだけ言った。
    「――え?」
    「あ、う」
    「え、え、まじで流川なの?」
     かえで? とファーストネームで呼んでみると、赤ん坊が瞬きで反応した。言葉を理解しているようには見えなかったので、タイミングはまったくの偶然だろう。でも、リョータにとっては奇跡にも必然にも感じられた。
     流川によく似た赤ん坊は、短い手足をじたばた動かしながら、必死になにかを訴えようとしている、ようにも見える。呆気に取られたような気持ちで暫くの間その動きを眺めていると、自力で寝返りを打った。ぼてん、と鈍い音とともに小さな身体が反転。そのまま、う、あ、と短い音を発しながら、リョータの服を掴んで離そうとしない。勝手に掻き立てられた庇護欲と、なんともいえない懐かしさがぎゅうっと胸に押し寄せてきて、鼻の奥がツンとなった。
     なんというか、本当におかしな話だが、そこで確信した。この子が、流川だって。なんの因果かSFか知らないが、乳児化した流川がいまリョータの目の前にいる。
    「………うそでしょ…流川、赤ちゃんになっちゃったの?」
     前からでかい赤ん坊みたいだなって思ってたけどさ、なるか普通? ほんとに赤ちゃんに。混乱しすぎて馬鹿みたいな台詞しか浮かんでこなかった。摩訶不思議奇想天外すぎる状況に、なぜか乾いた笑みが溢れてきた。
    「つかなんでだよ、なんか変な薬でも飲んだ? えー… どういう状況これ… はは、はは… わけわかんないんだけど…」
     さすがにキャパオーバーだわ、リアルベンジャミンバトンかよ。とりあえずまずは、警察よりも病院かもしれない。そこまで思って、ようやく力が抜けた。ラグの上に膝立ちのままベッドの上に突っ伏して、流川の頬っぺたを指先で撫でる。すると流川がリョータの指を握り返してきた。ちいさな手なのに案外握力が強い。力つえーわ、と一人でつっこんで、一人で笑ってしまった。
    「はは、気が抜けたぜ…」
     流川だったら抱っこしても良いだろうか。よそ様の子どもに勝手に触れるのは憚られたので、抱きかかえられずにいたが、流川だったら良いかもしれない、と急に親近感が沸いた。良い意味で緊張感なく、ファースト抱っこを捧げられそうだ。
     まさか初めて抱っこする赤ちゃんが、恋人になるとは思ってなかったけど。
     そっと流川を抱きかかえ、胸のなかに包み込む。乳児の抱き方に自信なんてなかったけれど、頭と首が真っ直ぐになるように、身体を密着させてみた。あったかいし、なんか甘ったるい。うすめたミルクやパンケーキみたいなやさしい匂いがして、胸が締め付けられた。両腕に抱えて実感したが、乳児といえど予想以上に重い。いのちの重みだ、と咄嗟に思った。
    「なあ抱き方これで合ってんのか? なんか不安定じゃね?」
     流川に聞いてみたが返事があるわけもなく。とはいえ、居心地は良さそうにしているので、不正解ではないのだろう。
    「えー…どうしたら良いのこれから、つかどうしたら元に戻るの…」
     赤ちゃんになった原因も分からなければ解決策も分からない。なんの手立てもない状態。でも、リョータがどうにかするしかない、とはっきり思った。この広い世界で流川を守れるのは確実にリョータしかいないのだ。子育てなんて、はじめてなんですけど。
    「はあ、とりあえずオレが世話するしかないよな。ほんとオフシーズンで良かったぜ。てかオレ、あと一週間で誕生日なんですけど」
     お前それまでに戻れんのかよ。人差し指の腹で流川の頬を撫でてやるも、流川はにこりともしない。なぜか悠然と構えたまま、ふてぶてしい顔で欠伸をする。
    「はは、ほんと、生意気なやつだぜ。赤ん坊のときから変わんねえんだな」
     その瞬間、窓から光が射し込んできた。雨雲レーダーで雲の動きまで確認したっていうのに、また予想は外れたらしい。まあ人生ってそんなもんか。
    「…とりあえず、朝飯でも食べるか」
     独り言のように呟くと、心なしか流川が頷いた気がした。
     誰が信じるだろうか、こんな話。
     朝起きたら、恋人が赤ちゃんになっていたなんて。(本文につづく)
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    1970