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    はじめ

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    はじめ

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    面あた(後天性♀)
    ※性転換なんちゃらによりあたるくんが女の子です。
    若をからかうあたるくんホント可愛い。あたるくんにからかわれる若も可愛い。面あた永遠に"純情な火遊び"して欲しい。

    いつかちゃんと(?)えっちな話も書きたいと思ってます。

    #面あた
    face

    本音は胸に隠して。「これを着とけ」
     と肩に掛けられたのは、制服の上着だった。突然の夕立に足止めをくらい、なぜか面堂と二人、学校近くの商店で雨宿りをしている時だった。ふわりと香るのはコロンだろうか。上品な甘い香りは花屋のショーウインドーを彷彿とさせる。気障なやつめ。心の奥でふつふつと苛立ちが暴れ始める。
    「…なんだよ、これ」
    「良いから着とけ。見てるこっちが寒くなる」
    「じゃあ見なきゃいいだろうが」
    「………うるさい」
     至極当然の返事を突き返すと、面堂があからさまにしまったという顔をした。居心地悪そうに顔を顰め、「着とけ」と一言、同じ台詞を繰り返す。 
     雨脚は弱まるどころか強くなる一方で、地面のいたるところにはいくつもの水たまりが浮かび上がっている。屋根や軒下に落ちる雨音を聞きながら、ほんの数ミリ程度、面堂の方に体を寄せた。
    「…お前に優しくされると何か裏があるんじゃないかと勘繰ってしまう」
    「一言余計なやつだな。人の好意を無駄にするつもりか?」
    「………まあお前がそこまで言うのなら、着てやらんこともないけど…」
     素直に従うつもりは、はなからあたるにはない。只より高いものはないとよく言うが、それでも只は只だ。あたるに言わせてみれば、只に勝るものはない。でももし面堂が只で手に入るなら、あたるは欲しいと思うだろうか――。
    「――それにしてもよく降るなあ」
     面堂の呟きにはっと我に返った。俺は今何を考えていた? 誤魔化すように制服に腕を通した。それほど体格に差はないと思っていたが、面堂の制服はあたるには大きかった。合わない肩幅、二センチほど余る袖。胸元が痛い。これは、物理的な話。
    「…というかお前、傘はどうしたんだよ。それと迎えの車は? どうしてこんなひなびた商店で雨宿りなんかしてんの」
    「はあ? お前に巻き込まれたの!」
    「…あれ? そうだっけ?」
    「そうなの!とぼけるなよ」
     ご機嫌ななめの面堂をなだめつつ、また空を見上げる。空を埋め尽くす灰色の雲。またしても校内で性転換の騒ぎがあり、まんまとあたるも巻き込まれ、女性の姿に変えられていた。それなりにトラブルの多い人生を歩んでいる自覚はあるが、こうも頻発するといっそ笑える。なんとか騒動から逃げ出したは良いものの、なぜか面堂と二人きりになっていた。
    「…はあ」
     しんそこつまらなさそうに面堂がため息をつく。すぐに雨音でかき消される。
    「…どうして僕がお前と二人にならんといかんのだ」
     面堂の声が雨音に紛れていく。声を聞くためと勝手に理由をつけて、体を近付けた。深まる甘い香りは、危険信号のサインだ。
    「…それはこっちの台詞だっての。俺だって女の子と一緒が良かったわい」
     こんな男。居たくて一緒に居るわけではないのに。
     ふと視線を感じて顔を上げると、面堂があたるを見ていた。はっきりとかち合う視線。その顔が動揺に染まっていくのを、不思議なものを見るような気持ちで眺めた。それも束の間、面堂はすぐに視線を逸らす。
    「どうしたんだ?」
    「…別に。おい諸星、上着をちゃんと着ろ」
    「はあ? 言われた通り着とるだろうが」
    「もっと、もっとちゃんとだ」
    「ちゃんとってなんだよ」
    「…その、見えないように、だ…」
    「はあ?」
     煮え切らない態度を不審に思い自分の胸元を見ると、雨でシャツが素肌に張り付いていた。くっきりと浮かび上がる体のラインに、つい先ほど強引に渡された制服の上着を思い出した。
    「………ほう、なるほど」
     まるでパズルのピースがはまったように、合点がいく。なるほどそういうことか。勝ち誇ったように呟けば、面堂の眉が寄った。
    「…なにがなるほどなんだ」
    「いやあ、終ちゃんったら意外と純情ね」
    「…気色わるい声を出すな」
     見ても良いわよ、と猫なで声で耳打ちすると、面堂の耳が赤く染まる。素直に反応されればされるほど気分が良い。面堂の腕を両手を絡め、胸を押し付ける。面堂の喉仏が上下に動く様子を至近距離で眺めた。死ぬほど興奮する。
    「…やめろ、男に興味はない」
    「あら、あたし、いま女よ」
    「お前は男だろ」
    「あらやだ面堂くん、あたしの体べたべたと触ったじゃない、女だったでしょ?」
    「…人聞きの悪いこと言わんでくれ」
    「うふふ」
     さっきたくさん触ったでしょう。耳たぶを食む勢いで努めて艶っぽい声を出すと、面堂が片手で顔を覆う。
    「――もしかして触り足りなかった?」
     からかいとお誘いのちょうど中間くらいの声色で、含みのある笑みを向ける。凛々しい瞳に涙が浮かび始めたために、そろそろ潮時かな、とも思った。冗談はやり過ぎたらいかんのだ。何事も、ほどほどがちょうど良い。 
     ふっと耳に息を掛けると、鬱陶しそうに手で払われた。面堂に剣呑な雰囲気が帯び始めたところで、今日の遊びは終わりだ。
    「…お前の体なんぞ見たくないわ」
     低く突き放すような声とともに腕を振り解かれる。名残惜しいなんて感じる間もない。
    「………あ、そ。言われんでも誰が見せるかボケ。俺の体は高いんじゃ」
     いつの間にか上がった雨は通り雨だったようだ。空を見上げ、欠伸をひとつ。そろそろ帰るぞ、と独り言のように呟き、軒下から出る。ほとんど無意識に、面堂の上着で胸元を覆った。
    「…お前の思わせぶりな態度がしんそこ気に食わん」
     後ろから聞こえる嫌味たらしい質問に、答えるかどうか迷って結局口を開いた。
    「…誰に対して?」
    「ラムさんに決まっとろうが」
    「…ふうん」
     特に会話もなく辿り着いた交差点で、振り返って「じゃあな」と言った。
    ――また明日も遊ぼうね、面堂くん。
     本音は胸に隠して。
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