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    はじめ

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    はじめ

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    大人面あた
    酔っ払った勢いでベッドインするふたり。
    なんだかんだとお互いにきっかけを探してる。

    #面あた
    face
    ##大人面あた

    きっかけの夜に酔う 薄ぼんやりとした桃色の夕焼けが夏の空に浮かんでいる。空の端っこは紺色が滲み始め、ゆっくりと夜に溶けていく感じがした。
    「――あら、諸星様」
     いつも通り定刻通りに退社をし、夏の夕焼けを仰ぎ見ていると了子に声を掛けられた。凛とした声を受け、あたるの心も自然と弾む。了子ちゃんだ、と名前を呼んで駆け寄ると、了子が柔和な笑みを浮かべた。
    「いまお帰りですか?」
    「うん、仕事終わったとこ」
    「そうですか、お勤めご苦労さまでした」
     若社長の妹は、一端の社員に対しても気さくに接してくれる。社内で顔を合わせることはほとんどないため、こうして出会えると奇跡みたいに嬉しかった。
    「こんなに素敵な夕焼けの日に会えるなんて、なんだか運命みたいだね。ねえ、せっかくだしデートでもしない?」
    「あらあらお上手」
     了子の肩を抱くために身を寄せると、華麗な身のこなしで見事に払いのけられた。おほほ、と口に手を当てて了子が笑い、そういえば諸星様、とあたるの顔色をうかがうような声で続ける。
    「なんだい、了子ちゃん」
    「お兄様のことなんですけど」
    「ああ、えっとぼく、用事を思い出しちゃったな…あっ」
    「ふふ、逃がしませんわよ」
     いつの間にか腕をがっしりと掴まれ、そう簡単には逃げられそうにない。初めて出会ったあの日から数年の時を重ね、艶とふくよかさを増した了子の瞳は、はっと見惚れてしまうほど美しかった。
    「――お兄様、最近お疲れのようなんです」
     陽が陰り、了子の頬が藍色に染まる。それから囁くように続ける。
    「………お、お疲れ?」
    「そう。お仕事に根を詰めてるみたいで。だから私、言ったんです。少しは息抜きでもしたらどうかしら、と」
    「…あいつの息抜きと俺になんの関係があるのかなぁ?」
    「あら、だって、生き甲斐じゃないですか、追いかけっこ」
     どういう意味じゃ。よっぽど言い返してやりたかったが、返答が怖くて何も聞けない。口を噤んだあたるを見やり、肯定と受け取ったのだろう、了子が満面の笑みを寄越す。
    「お店を予約しておいたわ。場所はこちらです。あまり高級すぎるお店だと返って窮屈かしらと思って、手ごろな創作居酒屋を選んでおきましたの。あ、あと、お酒を飲んだあとに電車やタクシーに乗るのも億劫でしょう? ついでに宿の予約もしておきました。場所は追って黒子にご連絡させますわ」
     淀みのない話しぶりで一息にまくしたてた了子が嬉しそうに手を叩く。盛り上がってまいりましたね。無邪気な笑顔を信じられないものを見る気持ちで眺めた。
    「飲食代と宿泊代はお兄様持ちですから、お気になさらずに」
     平然と言ってのける了子が頼もしいやら末恐ろしいやら。十中八九、面堂は蚊帳の外だろう。
    「…なかなか強引だね」
    「あら、ときには強引さも必要よ。諸星様だって女の子にはいつも強引じゃない」
     了子が天使の微笑みで、しんそこ怖いことを言う。

     タダ飯とタダ酒、さらには高級ホテルでの宿泊付き。加えて了子のご機嫌も満足させることが出来るのなら、吝かではない案件だった。
     指定された店はなかなか雰囲気のある店構えで、間接照明に照らされた控えめな看板とシンプルな暖簾がやけに上品さを際立たせていた。かく言う引き算の美学だろうか。
     入店すると、穏やかな笑みを浮かべたウエイターが出迎えてくれた。緩やかなにジャズの流れる店内は薄暗く、ウエイターに案内されつつ、細い廊下を進む。
     店の奥にある小上がりの座席は個室だった。襖を開けるとすでに面堂がいて、あたるを見るやり、顔が不機嫌に染まる。
    「どうして貴様が」
    「だって、了子ちゃんの頼みだから」
     四人掛けのテーブルは掘りごたつだった。背負っていたリュックを乱暴に置き、面堂と向かい合うように席に座る。空洞に足を入れると面堂の爪先と一瞬触れ合ってびっくりした。動揺は悟られないように、努めて平然に、壁に立て掛けてあるメニュー表を広げる。
    「面堂、なに食べる?」
    「待て諸星、話はまだ終わっとらんぞ」
    「うん、でもさぁ、お腹空いちゃったし。あ、タコのから揚げと、タコの刺身なんてのもあるぞ?」
    「貴様、喧嘩売っとんのか」
     オーダーを取るまでに何度か小競り合いがあって、面堂は息が上がっているようだった。息抜きどころか、余計に疲れてるじゃないか。面堂はどことなく気だるげで、目元にはうっすらと隈が浮かんでいた。
     クールビズと言われて久しいが、面堂は律儀にネクタイを締めていた。どんなに忙しくても日課のトレーニングは欠かしていないらしい。張りのある二の腕と自分の貧相な手首を見比べて、舌打ちをする。それから、了子の言葉を思い出す。
    『――お兄様、最近お疲れのようなんです』
     そんなことを言われても、あたるの知ったこっちゃない。放っておけば良いだろ。そう思うのに、落ち着かなくて腕時計のレンズのふちを何度も指でなぞった。
    「――寝てないのか」
     あたるが口を開いたのは、図らずも店内を流れるジャズの曲調が変わったタイミングだった。少なからず心配を込めた意味合いで尋ねると、誰かさんのおかげでな、と嫌味ったらしい返事が返ってきたので気まぐれなんて起こすんじゃなかった、と後悔した。日頃の行いの悪さ、と言われればそれまでだが、万が一にもあたるに心配されるとは思わないらしい。
     程なくしてやってきた店員に酒と料理を注文する。オーダーは全て面堂が取ってくれたので、あたるは手持無沙汰な気分でその光景を眺めた。面堂からは汗とコロンの交じった色っぽい香りがして、ちょっと反応に困った。耳馴染みの良い声をBGMに、こんなことが息抜きになってたまるか、と人知れず思う。
     悪戯好きの了子のことだから、きっと兄を困らせてやろうとの目論見はあれど、今回に関して言えばそこまで悲惨なことにはならなさそうな気がした。なんだかんだと言いつつ兄妹仲は悪くないように見える。きょうだいのいないあたるにとって、その絶妙な距離感は想像することしか出来ない。
     運ばれてきた料理はどれも美味しそうだった。小洒落たサラダは見たこともないほど豪勢で、ふぐのから揚げと一緒にオクラのお浸しとホタルイカの塩辛が突き出しで出てきた。
    「ほっけの塩焼きも食べたい」
    「あとで頼めば良いだろう」
    「あ、そう」
     図々しいやつと文句を言われるかと思いきや、案外すんなりと受け入れてくれたので面食らった。瓶ビールはよく冷えていて、小さなグラスに注ぐと泡ばかりが目立つ。黄金色のなかで小さな気泡がふつふつと揺れる様子を横目で見る。
    「――面堂、仕事は終わったのか?」
     シャツのボタンをひとつ外し、乾杯もそこそこにグラスに口をつけた。今更改まって、面堂とグラスを交わすのは、なんだか気恥ずかしくて嫌だった。
    「終わってないが、了子に無理やり連れて来られた」
    「ふうん」
     その言葉通り、有無を言わさぬ形で連行されたのだろう。喚いたり暴れたりする面堂を想像すると、自然と笑いが込み上げてきた。
     空になったビールに手酌で注ぐ。面堂のグラスにはまだ半分ほど残っていたが、ついでに注ぎ足すと怒られた。
    「あほ零れるだろ」
    「零れたら舐めたら良いよ」
    「そんな貴様みたいなこと出来るか」
     凛々しい眉を寄せながら、面堂がグラスに口をつける。隆起した喉仏が上下に動き、右手の甲に血管が浮かんだ。それらがすべて穏やかなオレンジ色の照明に照らされている。二人で食べる料理は、素直に美味しい。
     ほんのちょっとだけ、悪くはない夜かもしれない、と思う。
     ほんのちょこっとだけ。

     ふわりふわりと面堂の頭が左右に揺れていることに気付いたのは、入店して一時間半後のことだった。瞼はやけに重そうで、今にも閉じられようとしている。繊細な睫毛が面堂の涙袋のあたりに影を作った。
     テーブルの上の料理はおおかた平らげてしまっていて、あとは締めかデザートか。とはいえ面堂は限界のようだ。
     こいつがこんなに酒が弱いとは予想外だった。肉体的にも精神的にも疲労が溜まっているとはいえ、かなり酔っているように見える。
     仕方なく店員を呼び、面堂の財布からカードを抜き取って勝手に会計を済ませた。軽く伸びをすると肩甲骨がぽきぽきと音を立て、からだが解れていく感覚がした。
    「おい面堂、立ち上がれるか?」
     壁にもたれかかったままの面堂に声を掛ける。前髪の隙間から胡乱な目が覗く。
    「………馬鹿言うな、僕に出来ないことはない」
    「ほうか、ではそろそろ帰るぞ。………って、立ち上がる気ゼロじゃないか」
     テーブルの下で面堂の膝あたりを足の指先で突く。面堂は鬱陶しそうに目を瞑っただけで、そのままずるずると床に倒れてしまった。
    「これは相当酔っとるな」
    「…お連れ様、大丈夫でしょうか?」
    「ああ、大丈夫大丈夫。こいつ送迎車があるから。面堂、お前、迎えの車はどうした」
     ついでに俺も送ってもらおう。そう思った拍子に、記憶の端っこで何かが引っかかった。あれ、でも確か、了子が何か言っていたような――。
    「――あっ、ホテル」
    「――お待たせいたしました」
     あたるが了子の言葉を思い出したのと、勢いよく開いた襖から黒子がにゅっと顔を出したのはほとんど同時だった。視線を移すと深々とお辞儀する黒子と目が合う。
    「…いや、別に待っとらんが」
    「いまお宿にお連れしますね」
    「おい、俺の話聞かんか」
    「大丈夫です。安全運転で向かいますのでご安心ください」
    「話が全く通じん!」
     頼みの面堂は泥酔中。抵抗なんて出来たもんじゃない。あっという間に部屋から連れ出され、気付いたときにはだだっ広いホテルの部屋にいた。
     部屋一面に見える煌めく夜景。鏡に映る絶望を滲ませた自分。悲惨なことにはならないと思う、などと余裕さえ抱いていた数時間前の自分を殴ってやりたい。
    「――ん」
     瞬間、くぐもった声にはっと息を飲んだ。先ほどベッドに叩きつけた面堂がシーツの上で苦しそうに呻く。部屋を見回してから、もう一度面堂を見た。
    「………嘘だろ」
     あたるの嘆きが壮観な夜景に溶けていく。

     ホテルの場所が分からなかったので、ここから自宅までどれほどの時間が掛かるのか見当がつかない。面堂が起きていれば迎えのひとつやふたつでも寄越してもらうが、あたる一人で今から帰るのは得策ではない気がした。
    「…しょうがない。一晩だけ我慢しよう」
     幸いにも部屋は広く、ベッド以外にも布団代わりになりそうなソファーがあった。
    「どうして俺がこんな目に…」
     キングサイズはあるベッドの端っこに腰を下ろして、ベルトを外す。金具の部分が擦れるたびにかちゃかちゃと高い金属音がした。ウエストから抜き取ると、緊張していた体が弛緩していく。
    「とんだ災難だ…」
    「――ん」
     独り言のようなあたるの呟きに、面堂が小さく反応した。先ほどよりもいくぶん安らかな寝顔に、少しほっとした。酒に呑まれたおかげでぽっくりいかれてしまった日には、さすがに夢見が悪い。
    「………たく、お前のせいだぞ」
     ワックスで固まった前髪を視線でなぞる。トラブルメーカーめ。自分のことは棚に上げて、旧友を見やる。思えば、こうしてゆっくりと面堂の寝顔を見ることなんて今までなかった。なんの因果か大人になってもこうしてそばにいる。
     じっと見ているのも馬鹿らしくなってきたので、ツンと尖った面堂の鼻先を指で弾いて、ヘッドボードの照明をつけるために手を伸ばした。前屈みになったことであたるの手のひらがシーツに沈んでいく。ベッドが鈍く軋んだタイミングで、かっと手首を掴まれて心臓が跳ねた。
    「――…んっ、ここはどこだ」
    「っくりしたぁ…おい面堂、驚かすなよ、寿命が縮まったぞ」
    「…つー…頭が痛い…」
     手首を掴んだまま身を攀じるものだから、あたるの体勢も崩れた。文句を言う間もなく、長い腕で抑えこまれ、そのまま腰を抱き寄せられる。興奮と拒絶と快感と、決して相成れないはずの感情が綯い交ぜになって、背中が戦慄いていく。
    「お前、どこ触っとんじゃ、んっ」
    「………お嬢さん、どうして僕はあなたとここへ?」
    「あほか俺じゃばかもん! や、やめろ、あっあっ」
     きつく握られた手首が面堂の口元に運ばれていく。あっと思った時には手の甲に口づけされた。あまりの衝撃に声も出ない。
    「お、おまえ、なにして…」
    「ここ以外にもして良いですか?」
    「…は?」
     いまだに面堂は寝ぼけているらしい。だめに決まっとるだろ。言い返してやりたいのに、口のなかで言葉がまごつく。睫毛が触れ合う距離で見つめ合っていると、脇腹を撫でられた。優しくて大きな指が体のラインをゆっくりとなぞり、あたるの骨盤のあたりで動きを止める。
    「――面堂、これ以上は…」
     押し返すつもりで面堂の胸元に手を当てたが、その指先の力のなんと弱いこと。明らかに熱を持ったそこをぐりぐりと押し当てられ、耳まで赤くなった。
     ふっと微かに笑った面堂がうなじに吸い付く。甘い蜜のような香りが鼻孔を掠め、脳が痺れて何も言えなくなる。

     スラックスを脱がされ、シャツのボタンもすべて外された。抱き合ったまま、素肌を密着させて、隆起した面堂の肩甲骨を指で撫でる。引き締まった体に抱かれていると思うと興奮した。
     あたるのなかで面堂が動くたびに、今まで出会ったことのないたぐいの感情で胸が詰まった。ゆっくりとしたストロークと激しい腰つき、突かれている間中絡まる指。あ、あ、あ、と正気では聞いていられない自分の甘ったるい声をこぼすたびに、面堂がキスをねだる。
     痛いからか気持ち良いからか恥ずかしいからか、出所の分からない涙はかんたんに舌で舐め取られる。後ろ手で面堂の前髪を梳くと、熱いキスが降ってきた。仕草も声もいちいちさまになっていて、悔しいくらいに心が乱されていく。

     熱を放ったあとも繋がったままベッドに横たわる。腰に回された手は火照ったように熱く、軽く身じろぐたびに、自分のものがきゅっと締まる感覚がした。
     恥ずかしさのあまり枕に顔を埋めると、むき出しの耳たぶを食まれて変な声が出る。
    「――順番が違うだろ」
     喘ぎすぎたおかげで声が掠れていた。精一杯の強がりを面堂は感心したような顔つきで受け取る。
    「貴様に理想の順番があったのか?」
    「理想というより一般論だ」
    「一般論」
     諸星には似つかわしくない言葉だな。首筋に口を付けられ、もう今日は出来んぞ、と項垂れると、面堂は「そうか」と言って、含みのある笑みを浮かべた。
    「今から順番通りにやるか?」
    「あほか。もう遅いわ」
    「遅い?」
    「いっぺんしてしまったものはもう遅い。巻き戻せないんだよ、人生は」
     だから、と続けて、面堂の胸ぐらを掴んだ。近付いてきた上唇を甘噛みし、至近距離でにらみ合う。
    「――あべこべでも良いから、お前の気持ちをちゃんと言え。それで許してやる」
     唇が重なる前に言い返すと、面堂が目を見開いた。
    「脅しじゃないか」
    「あほか、寛大と言え」
    「…くそ、お前なんか嫌いだ」
    「俺だって、大っ嫌いだよ」
     こんなに熱烈な台詞があってたまるか。面堂が観念したようにため息をついて、あたるの背中に手を回す。その指先が少し震えていたので、ちょっと感動した。ゆっくりとまぶたを下ろすと唇が触れる。
    「――何かきっかけが欲しかったのかもな」
     俺も、お前も。強引な了子のおかげで、まんまと乗せられてしまった。
     甘い吐息と呼吸の合間に呟くも、面堂は何も言わない。それでも手だけは握っている。
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    はじめ

    DOODLE面あた
    名前を呼べばすっ飛んで来る関係。

    あたるくんの「面堂のばっきゃろーっ」を受けて0.1秒ですっ飛んでくる面堂くんも、呼べばすぐに来るって分かってる確信犯なあたるくんも大好きです。
    恋より淡い 校庭の木々の葉はすっかり落ちて、いかにも「冬が来ました」という様相をしていた。重く沈んだ厚ぼったい雲は今にも雪が降り出しそうで、頬を撫でる空気はひどく冷たい。
     期末テストを終えたあとの終業式までを待つ期間というのは、すぐそこまでやってきている冬休みに気を取られ、心がそわそわして落ち着かなかった。
    「――なに見てるんだ?」
     教室の窓から校庭を見下ろしていると、後ろから声を掛けられた。振り向かなくても声で誰か分かった。べつに、と一言短く言ってあしらうも、あたるにのしかかるコースケは意に介さない。
    「…あ、面堂のやつじゃねえか」
     校庭の中央には見える面堂の姿を目敏く捉え、やたらと姿勢の良いぴんと伸びた清潔な背中を顎でしゃくる。誰と話してるんだ、などと独り言を呟きつつ、あたるの肩にのしかかるようにして窓の桟に手を掛けている。そのまま窓の外の方へと身を乗り出すので危なっかしいたらありゃしなかったが、落ちたら落ちたときだ。
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