兄はこのあと颯爽と助けに来る ひどく陳腐な手法だった。人工甘味料をふんだんに使用した余ったるい飲み物に砕いた睡眠薬を溶かし入れる。放課後、人気のない体育倉庫に呼び出されたと思えば「喉が渇いたでしょう」とジュースが差し出されるのである。千寿郎は当然のように訝しんだ。しかし、元来人を疑うことをしない性格もあり、疑いは疑いのまま差し出されたそれを受け入れてしまう。
飲めばほとんどすぐ、眠りに落ちてしまう。まったく眠れないと訴え処方されたそれを規定量の倍溶かした。効果があるかはわからない、あれば御の字。無くても、こうして彼と二人きりで話せたのだから十分だ。
少年は千寿郎を見る。千寿郎も、ほとんど話したことのないクラスメイトから向けられる痛いほどの視線に違和感を覚えていた。
666