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    上一/神隠し
    #上一版マンスリー企画

    学園都市第一位の能力者、一方通行が学園都市から姿を消したらしい。

    もともと都市伝説のような存在だったこともあり、第一位不在の噂は瞬く間に学生たちに広がった。しかし同時に「以前に第一位が無能力者に敗北したなんて噂を信じて喧嘩を売った人間が全員返り討ちに遭った」なんて噂も囁かれており、とりあえず表面上は大きな変わりもなく日常は坦々と過ぎていった。
    街の空気に逆らうように未だ熱心に一方通行の行方を探している御坂妹と打ち止め曰く、MNWと一方通行の接続は継続していることが確認できているから、生命の危機に瀕しているわけではないようだ。「また一人きりで無理をしているんじゃないかって、ミサカはミサカはあの人の身を案じてみる……」とこぼした打ち止めの声は寂しげで、そんな打ち止めの手を握る御坂妹の睫毛も小刻みに震えていた。
    無神経すぎるかとも思ったが「あいつのことだからそのうち戻ってくるよ、そしたらみんなで怒ってやろうぜ」と声をかけると、二人はわずかに表情を緩ませて笑った。
    軽く挨拶をして二人と別れ、帰路を急ぐ。途中でコンビニに寄り、メモ用紙に書かれた銘柄の缶コーヒーを買えるだけ買い占めた。ビニール袋の中で缶と缶がぶつかってがしゃがしゃと騒がしい。何度も破壊されては建て付けた、ここだけ妙に真新しい自室の玄関の扉に鍵を差して開錠したところで、思い出したように上条は呟いた。

    「まあ、ここにいるんだけど」

    普段と変わらない様子で玄関をくぐり、閉じた扉を後ろ手で確実に施錠する。がちゃん、と響いた施錠の音に反応した一方通行は部屋の奥からこちらをじっと見つめていたが、やがてゆっくりと立ち上がった。裸足のまま、ぺたぺたと音を立てながら上条のもとへまっすぐ歩いてくる。

    「ただいま一方通行。何時間ぶり?ちゃんといい子で待ってた?」
    「ン」

    両手を手錠で繋がれている一方通行が腕を持ち上げる動きに合わせて、上条が身を屈める。両腕でできた輪の中に上条の頭を通すようにして身を寄せると、上条は嬉しそうに一方通行の体を抱き返した。

    「頼まれてた缶コーヒー、とりあえず全部買ってきた。また飽きたら教えてくれよ」
    「おォ」
    「晩飯にしようぜ、準備するから待っててなー」

    先程と同じように上条が身を屈めると、一方通行が腕を上げる。一方通行の腕の中から抜け出した上条が頬にキスを落とし、倣うように一方通行からも上条の頬へキスをする。鼻歌まじりで夕飯の準備を始める上条からビニール袋を受け取った一方通行は、缶コーヒーを一本だけ抜き取ると来た道を再びぺたぺた歩いて部屋へ戻って行くのだった。

    ---

    「そもそもやり方がぬるいンだよ、徹底的にやりてェならこンなおもちゃ持ち出す前に俺の両足の骨を折るべきだった」

    翌朝。単位がどうとか課題がどうとか言いながら上条が飛び出したあと、一人残された一方通行は静まり返る部屋の壁に吐き捨てるように呟いた。
    気怠げに持ち上げた手首のあたりで、繋がれた鎖同士が擦れる高い音が鳴る。ジョークグッズの域を出ない粗末な作りの鎖は一般的な手錠よりも長く、所々歪んでいるのが見てとれた。拘束の意味を成していないだけでなく、これなら容易く鎖ごと捩じ切ることができそうだ。
    そっと自分の首筋に指を当てる。チョーカー型の電極は正常に作動していた。どうやらこの部屋の住人であり誘拐犯は、一方通行が眠ってからこっそりと電極の充電を行い、一方通行が目を覚ます前に元に戻しているようだ。おかげでほとんど負担を感じることなく、能力の発動にも十分な余力が与えられている。
    上条は一方通行に何も禁止しなかった。この部屋から逃げ出すな、とさえ言われていない。ただ、しばらく一緒に暮らしてくれと言われたから頷いたら手錠をかけられた、それだけ。

    「……何やってンだろなァ、俺達は」

    せっせと世話を焼く上条に、世話を焼かれることを選んだのは一方通行だ。生命線であるバッテリーに触れることすら、一方通行は上条に許している。ごっこ遊びの監禁生活で、なぜここまで許してしまうのか。言語化するのが億劫で、一方通行は締め切られたカーテンの隙間から空を見上げた。建ち並ぶ学生寮の合間に見えたわずかな空は雲ひとつなく、天高く澄み渡っていた。
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