しずく、しずか、しずむ【四】最近は猫がメニューを運んできてくれる。
正確には、猫の配膳ロボットだ。
24時間の営業もなくなった。時代かね。
まあ、そういうチェーン店のレストラン。人がまばらな時間帯に、俺とウサミはやって来た。
混んでいないからか、料理は次々に運ばれてきて、テーブルはあっという間に皿で埋まった。
「──で、それ全部食うのか?」
「はい。門倉さんも一緒に食べましょう」
「いや、俺は」
「どうぞ」
遮るように差し出されたフォークの上に、ハンバーグがひと口分。
渋ってこぼすのも悪い気がして、そのまま食べた。
「どうですか」
「ああ、美味いよ」
「もっと食べますか?」
「いや、いいよ。おまえが食べて。俺に遠慮しなくていいから」
「そうですか」
それきり、ウサミは黙々と食べ進めていった。
ひと皿、またひと皿。
空になっていく皿の山を、俺はコーヒーをすすりながら見ていた。
食べっぷりがいいとか、見ていて気持ちいいとか言う表現はあるけど、それらも超えると──まあ気味が悪いよな。
俺は、見ているだけでおなかがいっぱいになった。
最後のひと口を飲み込んだウサミは、空の皿に視線を落としていた。
「足りなかったか?」
「はい」
「もっと頼むか?」
「いいえ」
「今日、一番美味しかったものは?」
「……」
「好きなもんとか、なかったか?」
少しの沈黙のあと、
「門倉さん」
伏せられていた視線がゆっくり上がり、俺を捉える。
「──が、いちばん美味しいと思います」
その目は俺の指を、鎖骨を、そして喉元をなぞるように見て、最後に目が合った。
ウサミが人間の料理なんかで満足できないと分かっていた。
それでも、何か少しでも足しになれば。
“満たせてやれたら”なんて、そんなふうに思って連れてきた。
「……そう、か」
俺は、ウサミに対してなんて答えればいいのか分からない。
何が正解なのか──わからない。
「ああ、でも」
と、ふと思い出したようにウサミが言った。
視線の先には、最初に食べたハンバーグ。
今は空になって、鉄板もすっかり冷えている。
「これは美味しかったです」
肉だからか?と、勝手に連想してた考えは
「門倉さんが、美味しいって言ったから」
その言葉で、簡単に崩された。
「これが門倉さんの好きな味なんですよね?」
じわり、と
口の端からこぼれたコーヒーが
シャツに垂れて、ゆっくりとシミになった。