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    ぎぃ。

    @gigigigiiiii
    ぎぃ。だよ!!!
    ポケモン絵と創作絵と過去絵とかもなんかアップ出来たら見やすいんじゃないでしょうか?

    二次創作SSもおいてるよ。ラッシャイ!!

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    ぎぃ。

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    居ることと、居ないことと。

    しずく、しずか、しずむ【延長/二】時代の流れが早いからさ、ついこの間まで最新だったものがすっかり古い、みたいなこといっぱいあるよね。
    俺だって昔はさ、なぁんて……この話はいっか。

    それよりも、だ。出張で5日間留守にしたあと五日五千秋とか言ってくる怪異が、俺の家に住んでいる。

    で、たまたま電気屋に寄ったんだ。今は中古のスマホも売ってんだね。それで大したやつじゃないけど型落ちのやつを買って帰った。
    「どうしたんですか、これ」
    「ほら、この間の出張中によ、お前と連絡とれなかっただろ」
    固定電話は結構昔に取っ払ってしまい、今の俺のスマホしか持ってない。
    ウサミは普段から俺のスマホ操作は慣れたもんだし、ノートパソコンとかも触れるし、現代っ子怪異だな。だから、使い方は問題ないはずだ。
    「いつでもってわけにはいかないが、電話したら少しは気が、その、ラクにならないか、って」
    つまり、まあ、5日間連絡もしないっていう薄情なのはよくなかったかなと。
    でも正直、こいつにスマホを渡すってなると、監視なりされそうでこわいんだけど、な……。
    受け取ったスマホをスイスイ、慣れた感じで操作していくのだが──
    「むずかしい、と思います」
    「えっ!? あー、うーん……」
    ポリポリ頭を搔く。
    「電話なんかじゃ、満足できねぇのはわかってるんだけどよ……」
    妥協案とか、代替案としてだ、と言おうとしたのだが。
    「そういうのじゃないです」
    きっぱりと否定された。ウサミはスマホを指さす。
    「かけてみてください」
    「お、おう」
    テストもかねてメッセージアプリを起動し、それを通話状態にしてから渡した。部屋の中で距離をとり、
    「もしもし?」
    そういえば、電話越しにこいつと会話するのはじめてだな。なんて思っていると

    「門倉さん」
    ︎   『────』

    耳に当てているスマホのスピーカーからはなにも聞こえない。
    しかし、部屋の中で、ウサミの声は確かに俺の耳に届いている。
    (電話に声が乗らない……のか?)
    もっと早く気付くべきだった、そもそもカメラに映らないんだから、そういう可能性もあったよな。
    「……ああ、そっか。 悪かったな」
    マフラーに続き、また不要なもんを贈ってしまった。回収しようとしたのだが、それをパッと後ろに隠される。
    「ん?」
    「これは、僕が、門倉さんからもらったんです」
    不可逆っていうか、なんていうか。 返しません、という強い意志。
    まあ、とにかく、その日を境に怪異は自身のスマホを手に入れたわけだ。

    後日、急に残業しなくちゃならなくなった日だ。
    そういえばと、ウサミにその旨を伝えようとアプリを開く。短いメッセージと、たぬきが謝るスタンプを送った。
    あいつ、住み始めた頃、識字がなんというか微妙だったんだよなぁ……と、思い出す。
    字を字ではなく、図や画として認識してそうな時期があった。それがまあ、日々映画やインターネットをやってるお陰か、問題なく……いや、問題はたまにあるけど。
    とにかく、このくらいなら読めるはずだ。それに、あいつがどう返信してくるかなんて、ちょいとばかし楽しみにしている自分もいた。
    しかし、待てど暮らせど返事どころか既読もつかない。俺は仕事を終え、なんだかんだで帰路についてしまった。
    「ただいま」と言えば「おかえりなさい」と、いつも通りのやりとり。帰りが遅れたことに怒った様子もない。不気味なほどに。意を決し、そのことをを聞いてみることにした。
    「なあ、さっきメッセージ送ったんだけど……」
    「はい」
    「見なかったのか?」
    「ああ……、なんていうか」
    珍しく言い淀むようにしてから、

    「僕、“できない”んです」

    返された言葉に目を丸くする。
    「でき、ない…… って?」
    でもスマホの操作はできている。
    「打ち方が分からないのか?」
    「なんて言えばいいですか?」
    「いや、分かんねぇから聞いてんだけど……」
    うーん、と互いに悩むようにしていたが、ふと気づく。
    「おまえの手を、こうさ」
    画面に指を重ねるようにしてスマホを操作する。
    「このアプリの…… ここ……で、スタンプを」
    と、タップする。 したはずだ。
    ウサミがタップしたはずの画面は、何も反応を示さなかった。
    重ねたウサミの指が画面に沈み込むよう、すり抜けていく。俺がその上から同じ場所をタップすると、ようやくスタンプが送信された。
    シュポンッ、俺が選んで、俺が押したスタンプ。それが表示される。
    何がおきた? できない、ってのは触れない、という意味なのか? でも、操作はできてるし、俺のスマホを見てたし、えっ、でも、今のは?
    電話に乗らない声、使えないアプリ、すり抜けた指、映らない姿──
    (いや、でも……)
    俺は今、ウサミの指を触っている。会話しているし、ここにいる存在として、居るものとして、認識している。
    でも、それを他人に証明出来る術が、ない。
    声も、写真も、履歴も残らない。
    そもそも、“自分で何かする”という自由意志みたいなもんが、こういう媒体を通じては認識されないのかもしれない。
    俺は自分のスマホを開き、ウサミが触っていた筈の時間帯、検索履歴を確認する。でも、残っていない。 なにも。
    今まで俺のスマホに残るメッセージのやりとり、ウサミにとって気に入らない相手をブロック出来ていたはずだ、でもしていなかった。

    干渉“できない”から。

    「また考え事ですか?」
    「あ、ああ…… おまえのことを、少々……」
    「門倉さんが、僕のこと考えてくれて…… うれしいです!!」
    いつものように尾が絡みついてきて、手は腹を撫でてきて──うん。機嫌はめちゃくちゃいいみたいだな。
    「あの、よ。 俺がいない間、留守してるのが嫌で、外に出かけたいとか、その…… そういうの、あるか?」
    「ないです」
    「あー、そぉ……」
    たぶん、世の中にはこいつが見えない奴もいて、逆に異質さや、あるいは整いすぎた顔、それに振り返る人もたまにいる。
    でも大体が、大勢の中にいる今日すれ違った、しかしすぐに忘れてしまう、背景の“だれか”であって、こいつを“ウサミ”だと認識して触れているのは、おそらく俺だけで──
    「門倉さんが、言ってくれましたから」
    「俺が? なんて……」
    「ずっと家にいてほしい、って」
    そんなこと言った覚えは……、いや、以前にアルバイトしたいとか、突拍子も無いことを言い出した時だったか。
    下半身蛇のヤツを外になんか出せない、俺の預かり知らぬところで何かしでかしたら、だから無茶せず家にいてほしい、なんて曖昧に場を収めようと零れた言葉だ。
    俺がそう選んでしまったせいで、怪異は閉じ込められて、より“俺にしか証明できない存在”になってしまった。
    「だから、僕、ここにいます」
    いい子でしょう?と言わんばかりに、擦り寄ってくる。
    俺がこの怪異を育てている。
    証明する手段を持ってるのも、隠し通せるのも、全部──俺だけだ。

    家、という箱の中。そこでどうしてるかも確かめる術のない俺は、ある日にウサミのスマホの位置情報アプリを入れた。
    今日も自宅からぴたりとも動く様子がない。
    五日五千秋だったと言ってたけど、あいつには本当にそういう感覚だったかもしれないな。
    ただただ俺の帰りを待っている”だけ”の、止まったように遠く長い時間。

    怪異に監視されるかもしれない、と思っていた。それなのに丸っきり逆のことをしてると気づいて、俺は早々にアンインストールすることにした。
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