しずく、しずか、しずむ【一一】一日の中であいつのことを考えている時間が長くなった。
──恋人を想う歌詞みたいなフレーズだな、と思った。
でも実際は、そんな甘くてかわいいもんじゃない。
今も家にいるであろう、怪異のことだ。
大人しくしてるのか、とか。 悪さをしていないか、とか。 実は抜け出してどこかに行ってるんじゃないか、とか。
そういう、家でペットがちゃんと留守番できてるか気になる感情に近い。
家に帰って、こいつがそこにいると確認できると、よそ様に迷惑かけてなくてよかった、と思う。
(いや、そもそもこいつの行動の責任って俺が負わなくちゃならないのか?)
家にいても、結局あいつのことを考えてしまう。 スマホをいじっていると、“ペット見守りカメラ”の広告が目に飛び込んできた。
これがあれば、日中の家の中も見られるのか。 そんなに高くないし──と、購入ボタンに指を伸ばす前に、ふと思う。
(あれ、こいつって……)
そのままカメラモードに切り替えて、ソファでテレビを眺めていた宇佐美にレンズを向けた。
──映らない。
レンズ越しにあるのは、ウサミがいるはずのソファだけ。 ふっとスマホを下ろすと、ウサミの目がこっちを見ていた。
「なんですか」
「え、いや……こっちの台詞……」
さっきまでテレビ見てたよな?なんで今こっち見てんだよ。
「……なんでもない」
そう返すと、満足したのかウサミはまたテレビに視線を戻した。
無駄な買い物をしなくて済んだだけ、よかったと思おう。
俺はペット見守りカメラの注文ページを閉じた。