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    あまや

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    あまや

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    SSS/凪砂と創とねこ
    最近見かけない茨を探している創くんと行方を知っている凪砂
    ⚠︎S(すこし)F(ふしぎ)

    ##凪茨

    創が空中庭園に顔を出すと凪砂が一人ベンチに腰掛けて空を眺めていた。他には誰もいないようできょろきょろと視線を彷徨わせても人影は見当たらない。少し落胆しながら、けれどそんな様子をおくびも出さずに創は凪砂に声をかけた。
    「こんにちは、乱先輩」
    「……創くん、こんにちは」
    「寒くはありませんか?」
    まもなく冬が訪れようかという木枯らしの中、羽織ものの一つも持たずにいる凪砂の姿は寒々しかった。創は今朝天気予報を確認してきたから知っているがこの後気温は徐々に下がり、夜には雨が降る予定になっている。凪砂がいつからここに座っているのかは分からないが、曇り空で陽光も届かず、風除けになるような遮るもののない場所ではあっという間に体温を奪われてしまうだろうと心配になった。
    凪砂が自身に無頓着であることはサークル活動を通して親睦を深める中でなんとなく察していた。けれども彼の隣にはいつも赤毛のユニットメンバーがいて、甲斐甲斐しく彼の世話を焼いていたからこれまで心配するようなことは起きなかった。しかしここ数日、その人の姿を見ていない。やはり噂は本当なのだろうか。創はその真偽を確かめるために渦中の彼を、あるいは凪砂を探してESを歩き回っていたのだ。
    「よかったらハーブティーいかがですか? 最近冷え込むので体が温まるように茶葉をいくつか試してみてるんです」
    「そういえば、ちょっと寒いかも」
    「うふふ、丈夫なことは良いことですけど、次からは上着も着て来てくださいね。きっといばにゃ……七種先輩も心配していますよ」
    「……」
    いつもなら優しい相槌が返ってくるのに今日は無言だ。創はあえてそこには触れず、失礼しますね、と凪砂の隣に座りトートバッグから水筒を取り出した。本当は茨に渡そうと思って作ってきたホットティーと茶菓子だったが、こんな寒空の下ぼうっとしている凪砂のことを無視することはできなかった。コップに注ぐとふわりとジンジャーとカモミールの香りが漂う。どうぞと凪砂の方を向いて初めて、創は彼の影に隠れて一匹のネコがいることに気がついた。
    「ここにネコさんがくるのは珍しいですね」
    「……ああ、うん、この子は特別」
    創とは反対側の凪砂の隣の席に暗い色の毛をしたネコがくるりと丸まっていた。一瞬目があったけれど、人見知りなのかすぐに前足の隙間に顔を埋めてしまった。その背を宥めるように凪砂の手が優しく往復する。
    「乱先輩が飼ってるネコさん、じゃないですよね」
    「うん、私のネコだったらよかったんだけど、そうはなってくれなくてね。でも、とっても大事な子なんだ」
    その声があんまりにも残念そうで、とても愛おしそうな甘い声だったものだから、創はそっと伺うように凪砂へ視線を移した。凪砂は寂しそうにしつつも言葉の通り大切なものへ向けるたいそう優しい眼差しでネコを見つめていた。普段きりりと釣り上がった目尻を柔らかく緩め、まるで恋人にでも向けるような甘い顔つきをしていたものだから、創はなんだか見てはいけないものを垣間見てしまったような気恥ずかしさを感じた。そんな創の様子など気にすることなく、凪砂は変わらずネコを見つめてその短い毛を優しく撫でている。心地いいのか、ネコの尻尾がゆらりと揺れていた。
    「ね、ネコさんはなんてお名前なんですか?」
    「名前……は、ナイショ」
    「えっ」
    「ごめんね?」
    凪砂はこてんと首を傾げて仰ぎ見るように創の方を振り向いた。それから、差し出したままで固まっていた創の手からハーブティーの入ったコップを受け取り、その香りをくんとかいでから一口口に含んだ。味わうように一口目を飲み下した後はあっという間飲み干してしまって、ほう、と小さくため息をつく。
    「……あったかい」
    「やっぱり冷えますよね、ぼくの上着をお貸しできたら良かったんですけど」
    「ううん、それでは創くんが風邪をひいてしまうから、大丈夫」
    「上着はクローゼットにありますか? 今日お部屋に戻られるようなら持って来た方がいいかもしれません。夜にかけて冷え込むそうですよ。あ、傘も、持って来ていた方がいいかもしれません。雨も降るみたいなんです」
    コップに二杯目を注いでやりながら創が伝えると、ぱちぱちと瞬いた凪砂がそうなんだ、とぽつりとこぼした。
    「全然知らなかった、ありがとう創くん」
    「いえいえ、今朝天気予報で言ってたんです。……それに、その、七種先輩からは聞いていませんか? こういうのはいつも先輩がお話しされてたような気がしていたんですけど」
    「……茨のこと、聞きにきたんだね」
    「えっと……」
    コップで暖を取るように大事そうに両手で抱えた凪砂が言葉に詰まる創にふっと笑いかけた。
    「心配しないで、怒ってるわけじゃないんだ。むしろあの子のことを心配して声をかけてくれる人がいて嬉しい、と思うんだけど……」
    言葉を探すように凪砂の視線が曇天へ向けられる。複雑そうな顔をしている凪砂が答えを見つけるまで創も同じように遠い空を眺めながら待っていた。

    五日ほど前から茨の姿を見かけないという話を創が聞いたのは昨日の夜のことだった。どういう話の流れだったかは忘れてしまったけれど茨と同室の光が心配そうにぽつりと呟いたのだ。茨が忙しい身の上であることは皆承知していたし、これまでも寮室に帰ってこれないことは度々あることだったが、朝も昼も見かけないとなると話は別だ。Edenの他のメンバーは見かけるし、ロケに行っているような様子でもない。連絡を入れてみても最初に心配いりませんと返信が来たきり、あとは既読がつくだけだということだ。だから心配しているのだと言われて、そう言われてみれば創もここ数日、寮の共有ペースでもES内でも茨と言葉を交わした記憶がなかったことに気がついた。午前中にコズプロに顔を出してみたが、いつも茨が座っているスペースは空っぽだった。
    「複雑だね。あの子の世界が広がることを私は願っていたはずなのに、こんな時に、たぶん、嫉妬、しているんだ。あの子の心配をしてくれる創くんに。私たちだけの茨じゃ無くなってしまうような不安を覚えている、のだと思う。茨は茨で、誰のものでも、もちろん私のものでもないのに……そう頭では分かっているのに、心はままならない。人間は不合理だね」
    「……乱先輩と七種先輩は仲良しさんだから、ちょっとだけ他の人より寂しくなってるんですよ。ぼくもちょっと分かる気がします。友也くんが日々樹先輩とすごく楽しそうにしてるのを見ると、なんだか心の奥の方でちょっとだけ、もやっとすることがあるんです」
    空を見つめたまま話を聞いていた凪砂が、不思議そうな顔で視線を創へと向ける。
    「創くんみたいな人もそんなことを考えることがあるの?」
    信じられないことを聞いたかのように、本当に心の底から驚いたといった顔で凪砂が尋ねてくるものだから、創はなんだかおかしくなってくすりと笑ってしまった。とても純粋な人だと思っていたけれど、創の想像よりも無垢なところがあるようだった。
    「ぼくもひとりの人間ですから、嬉しいことも悲しこともたまにはちょっとムッとすることも、もちろんありますよ」
    「いつもにこにこしているからそんな風には見えなかったな。創くんは大人なんだね」
    「いえいえ、ぼくもまだまだ未熟で、特に友也くんのことになるとすっごく不安になって取り乱しちゃうこともありますし……でも、まだぼくたちはそれでいいんだと思うんです。急がなくてもいつかは絶対に大人にはならなくちゃいけないんだから、まだこれから練習していく時間があるというか、そういうの出せる時に出しといた方がいいというか……えっと、その、うまく言えないんですけど」
    伝えたいことを表現する言葉が出てこずにわたわたと創が焦っていると、ナア、と場違いに緩やかな鳴き声がした。一瞬顔を見合わせた創と凪砂はそっとネコがうずくまっていた方を見やる。ネコは眠そうにくあとあくびをした後、凪砂の膝の上に移動して再び丸くなって目を閉じた。
    「ふふ、寒くなって来たから、ネコさんも暖をとりにきたんでしょうか」
    「そうなのかな。でも、確かにそろそろ部屋に戻った方がいいかもしれないね」
    時刻を確認した凪砂は二杯目のハーブティーを飲み干してご馳走様でしたと丁寧に挨拶をした後コップを創に返した。膝の上のネコを抱き上げて立ち上がる。創も水筒をトートバッグにしまい、凪砂にならって立ち上がる。
    「創くん、茨はね、大丈夫。今はちょっと別のところでお仕事をしているんだけど、夜には帰ってくるから、何かあれば伝えておくよ」
    「本当ですか? じゃあ、光くんたちがすごく心配していたので、なにかメッセージを返してあげてほしいと伝えてもらえますか? お仕事が忙しいことは分かっているんですけど」
    「分かった」
    必ず伝えておくね、と凪砂が微笑むのに合わせて、腕の中のネコが再びナアと鳴いた。それがなんだか面白くて可愛らしくて創も笑ってしまう。
    「ネコさんも七種先輩に伝えてくれるんですか?」
    「もう、私が聞いてもちっとも答えてくれないくせに」
    「そうなんですか?」
    「頑固なんだ」
    凪砂が不服そうにしながら、腕の中のネコの顎をくすぐる。ネコは嫌がっているのか首を伸ばして逃れようとするので、ほらね、と凪砂が肩を窄めた。
    「でもね、私は会いたいよ、茨」
    慈しむような声で凪砂がネコに語りかけ、その額に触れるだけのキスをした。

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    あまや

    TRAINING習作/凪茨(主人公ジュン、下二人メイン)
    ⚠︎パラレル。アイドルしてません
    三人称の練習兼、夏っぽいネタ(ホラー)(詐欺)

    登場人物
    ジュン…幽霊が見える。怖がり
    茨…ジュンの友達。見えない。人外に好かれやすい
    おひいさん…ジュンの知り合い。祓う力がある(※今回は出てきません)
    閣下…茨の保護者
    三連休明けの学校ほど億劫なものはない。期末テストも終わりあとは終業式を残すのみではあるのだが、その数日さえ惜しいほど休暇を待ち遠しく思うのは高校生なら皆そうだろう。ジュンはそんなことを思いながら今日もじりじりと肌を焼く太陽の下、自転車で通学路を進んでいた。休みになれば早起きも、この茹だるような暑さからも解放される。これほど喜ばしいことはない。
    「はよざいまーす」
    所定の駐輪場に止め校舎へ向かっていると、目の前によく知った背中が現れた。ぽん、と肩を叩き彼の顔を覗き込むとそれは三連休の前に見た七種茨の顔とはすっかり変わっていた。
    「ひええ!?」
    「ひとの顔を見てそうそう失礼な人ですね」
    不機嫌そうな声と共にジュンを振り返ったのはおそらく七種茨であろう人物だった。特徴的な髪色と同じくらいの背丈からまず間違いなくそうだろうと思い声をかけたのだから、振り返った顔はジュンのよく知るメガネをかけた、男にしては少し可愛げのある顔のはずだった。が、見えなかったのだ。間違った文字をボールペンでぐるぐると消すように、茨の顔は黒い線でぐるぐる塗りつぶされていた。
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