フィルム映画だったらよかった映像はたくさん残っている。ライブ映像、ドラマやバラエティ番組の録画、インタビュー。プライベートで保存しているサークル活動の映像や、それこそEdenの四人で出かけた際の映像なんかもある。それでもいつも見返してしまうのは、無音の、白黒の、閣下が微笑んでいるだけのほんの十秒にも満たない動画だ。
その日は雪が降っていて、閣下はそれが心底嬉しかったらしくビデオに収めようと俺に提案した。そのまま雪原と化した中庭に走り出すものだから俺は慌ててスマホのカメラを起動してビデオ撮影を始めた。指が滑ってモノクロになってしまい、失敗したと気づいてすぐに撮り直した。その撮り直す前の映像がこれだ。
一面真っ白な中にまぎれそうな閣下の背中。銀の髪の毛とグレーのコートのせいで背景と同化しかけていた閣下が、くるりと振り返る。俺がカメラをきちんと構えていることを見とって、にこりと、無邪気に笑う。ただそれだけの、何の変哲もない動画。
この後雪だるまを作ってみたいと奮闘する閣下も、寮から見ていたのか楽しそうなことをしているねとやってきた殿下も、殿下に無理やり引っ張られてきた割には人一倍大きな雪だるまを作って満足していたジュンもすべて映像に収めているのに、なぜかいつも俺はこの失敗した動画を見てしまう。理由はわからない。でも一番好ましく思っている。
閣下の映像はたくさんある。よそゆきのものも、そうでないものも。それでも俺は、俺だけに微笑んでくれたこの映像を擦り切れるほど繰り返し眺めて、もうこの人がこの世にいないことを何度も確かめる。永遠に時を止めてしまったこの人と離れてゆくばかりの自分を認めて、何度もこの人の死を刻んでいる。