シガーキスする二人が見たい　オフィスの屋上へ出る扉を開けると、そこにはすでに先客がいた。ナデシコは薄く笑顔を浮かべてゆっくり近づきながら声をかける。
「こんなところで何してるんだ、モクマ」
　屋上からブロッサムの眠らない光をぼんやりと見つめていた彼は、緩慢に振り向いてから「あれっ」と驚いたように声をあげる。初めから気付いていただろうに、いつもそんな無意味な芝居をするのだ。
「ナデシコちゃんこそ、どしたの？」
「ちょっと一服な」
　ヘラリと自分に向けられた質問を受け流すモクマに、ナデシコはくたびれた煙草を懐から取り出して見せる。
「そんなの吸うようになったんだ」
　どこか悲しげに笑う昔馴染みに、一本どうだと差し出すと、彼は逡巡したあとそれを摘まみ取った。
　ナデシコも自分の口に一本咥え、使い古したライターに火をつける。屋上は少し風が強く、揺らめく小さな炎を守るようにモクマがあいた手を添え、二人は肩を寄せあうようにしてジリジリと熱を灯した。
　あの日の夜よりも遠く、けれど離れていた20年間よりも近い。
「なんだか共犯者になった気分」
「ふっ……今さらだろう？」
　そりゃそうだと肩を震わせて笑ったモクマはその拍子に激しく咳き込む。酒は飲めるようになってもこれを吸えるまでには汚れきれていないのかと、ナデシコはゆっくりと煙を吐きながらそう思った。