「ヴェストォ〜ッ!!」
ドアが乱暴に開け放たれる音と普段以上にけたたましい兄の声に睡眠を中断され、慌ててベッドから飛び起きる。と同時に激しい破裂音が鼓膜を突き刺した。
「何事だッ!!」
一体何が起こった? 慎重にあたりを見渡すが、この部屋には心底楽しそうな顔の兄貴とその手に握られたクラッカー、そして床一面に散らかるポップな紙吹雪とリボン……
「これは……」
「誕生日おめでとうだぜヴェスト〜!!」
パンパンと再びクラッカーを鳴らされ、頭と肩の上にヒラヒラと紙吹雪とリボンが舞い降りる。まるでプレゼントそのもののような姿になってしまった俺を見て、兄さんはさらに機嫌の良い笑い声を上げる。
「兄貴……」
俺はただ呆然としたまま、兄さんに近づきその腕に手を伸ばす。睡眠を妨害された恨みのまま腕を引っ掴んでベッドに放り投げてしまおうか。いやしかし方法はどうかとしても、兄さんはただ純粋に俺を祝おうとして……
「あっ待てあんま動くなよ、写真撮っていろんな奴に送りてぇからな!!」
「やめてくれ」
「あっちょっ待ておいやめっ……うわっ?!」
カーテンの隙間から漏れる淡い光がふわふわと舞う塵を照らした。
「急に投げんなよびびるだろー!!」
「こっちのセリフだ」
ぶつぶつと文句を言っている兄さんをよそ目に床に落ちた紙吹雪を拾い集め、机の上に移動させる。
「毎年同じ祝い方でもつまんねぇしな、たまには刺激的なのもいいだろ!」
「それはありがたい動機だがな、」
しかし、と続けようとするのを遮られる。
「だろ?そのために今日は早起きしたんだぜすげーだろ!俺様すごい!その弟君のお前はもっとすごい!!めちゃくちゃカッケーぜ!!ケッセッセッ!!」
「今年も記念日を祝ってくれて感謝する。だがクラッカーを顔面に向けるのは危険だから来年からはやめてくれ」
「おうよ!」
騒ぎで目が覚めたのか、開いたドアから三匹の愛犬たちが顔を覗かせた。室内の煙の匂いに怪訝そうに鼻先を震わせている。
「お前らも早起きだな!じゃあもう飯食うか!」
すっかり機嫌を直した兄さんは鼻歌混じりに三匹の頭を順番にわしわしと撫でて、ついでに俺の頭も撫でてから台所へと消えた。
「……俺たちも行くか」
愛犬たちは返事をするように小さく鳴いて、電気のついたリビングへと駆けて行った。
「おっヴェスト帰ったか!どうだった、俺様のアイディアは?!」
「よくあんなことを考えついたものだな…」
今日の会議での気恥ずかしさといったら。
というのも、ワイシャツの背にバースデーケーキのイラストのカードを貼り付けられていたのだ。例年は祝いの言葉を貰う程度のものだったはずが、会議は途中からほぼ俺の誕生日会と化してしまった。
「イタちゃんとかフランスあたりが食いついてくれるだろって思ってよ」
「その通りだ、よく分かっているな」
「流石だろ?よかったなー祝ってもらえて」
「あれほど大規模でなくていいのだがな…まあなんだ、ありがとう兄さん」
「おうよ!」
いつのまにか兄さんの手に握られていたジョッキを押し付けられ、ドボドボとビールを注がれる。
「プロースト!!」
ガチャンと激しい音を立ててジョッキをぶつけ合い、兄弟の記念日を祝う酒を飲み下した。