ともだちきねんび 好物のパスタを美味そうに頬張りながら、イタリアはふと首を傾げた。
「どうした」
「んぅー」
もぐもぐと頬を動かす様子を見ながら飲み下すのを待つ。そのついでにティッシュを手に取ってイタリアの口元に付いている赤いソースを拭ってやる。
「う〜ん……」
「何なんださっきから」
傾げた首の角度をさらに深くして、珍しく真剣な面持ちで小さく唸っている。つい先ほどまではいつも通りの腑抜けた顔で下らない話をべらべらと並べ立てていたものだが。相変わらず表情がコロコロ変わるな、などと思っているとイタリアが口を開いた。
「ほら、俺たちが友達になった時にした約束あるじゃん。お前に助けてもらう代わりに、お前が辛い時は俺が助けるよーってやつ」
「ああ、そうだったな」
「でも俺ずっと助けられっぱなしだからさぁ、約束果たせてないなって」
「ほう。珍しく謙虚だな」
「珍しく、ってなんだよー」
イタリアは心外だとばかりに頬を膨らませた。
約束したは良いものの、俺はこいつの観察日記を付け出した頃からこの情けない同盟国に助けてもらえるだなんて期待は捨て始めていたのだ。時代が変わってあの約束が無効となった後も、イタリアの世話を焼くのもすっかり日課となってしまったというのに。なぜ今更こんなことを言い出したのだろうか。
長い付き合いをしてきたが、こいつの考えることは未だに分からないままだ。
「俺役に立てないのに、いつも一緒にいてくれてありがとドイツ! なんか……なんかの形でいつか助けるよ!!」
そう言うとイタリアは朗らかにニカっと笑って、満足げに頷いた。
「ところでこないだ映画見に行ったんだけど〜」
そして、再びいつもの世間話に戻っていく。すぐに話題の変わる会話や止まることのない身振り手振りに初めの頃は振り回されてばかりだったが、今ではもう慣れたものだ。
「でね、その場面で出てきたおっさんがすっげぇ口悪くてさ〜」
「イタリア」
「ゔぇ?」
話を遮られたイタリアはきょとんとした顔で俺を見やった。
「さっきの話だが、わざわざ俺に何かしようとしなくていいからな」
「えー、なんで?」
「なんでもだ」
なんでなんでと子供のように迫るイタリアを無視して炭酸水を口に含む。こうして友人として共にいる、それ以上に何かを望んでいるわけではない。これで十分なのだ。
「ちぇ、教えてくれないのかよー。まあいいや、今度俺んち来る時は美味しいご飯用意するから楽しみにしててね!」
「そうか、期待しているぞ」
「はーい!」
相変わらず元気な声だ。これからもそのままでいてくれ、と心の隅で小さく祈った。