「ドーイツっ、やっほぉ」
ソファで寛ぎながら本を読んでいると、いつの間にか家に侵入していたイタリアに背後から抱きしめられた。今まではドア鈴を忙しなく鳴らし、騒ぎながら突入してくるのが常だったのだが、最近は合鍵を使ってこっそり入り込んで家主を驚かすのがブームのようだ。初めの頃は不法侵入だと叱りつけていたが、近頃はもはやどうでも良く思えてきて、野良猫のようだなと軽く応えるだけで済ましている。
…まあ、こいつに対して少々甘い自覚はある。
「ねーねードイツ、俺来たの気づいてた」
「いや、読書に集中していたから気づかなかったな」
「すげー ドイツに気づかれなかったしもうスパイでもなんでも出来るね」
やったーと嬉しそうに笑って、ぐりぐりと頭をドイツの首元に擦り付ける。完全に猫だ。
「その場合は相手がもっと警戒しているから別だろう」
「ヴェー、そうかなあ、残念」
頭からぴょこんと飛び出た特徴的な髪の毛を項垂れさせて、これまた特徴的な鳴き声を上げる。
「あ、でもでも」
「」
しょんぼりした様子とは一転、途端に表情を明るくしてドイツの目をワクワクとした面持ちで覗き込む。毎度毎度表情のころころ変わる奴だ。表情筋だけはドイツに勝るだろう。
「それってつまり、ドイツが俺のこと信頼してくれてるってことでしょ」
キラキラと輝かせた目はドイツの瞳を捉えて離さない。
…ああ、全くこいつは。
「…お前のポジティブさには感心する」
「グラッツェ」
首を抱く腕の力が再びぐっと強くなる。またぐりぐりと頭を擦り付けられ、えへへ〜というヘラヘラした笑い声を耳元で聞く。
「あ〜…俺今ちょ〜幸せ」
彼がだらしなく漏らした呟きは極々小さいものだったが、すぐそばのドイツが聞き取るには十分だった。
所在なく視線を宙に彷徨わせ、また小さな声で応える。
「…そうだな、俺もだ」
イタリアはふと頭を擦り付けるのを止めて、不意打ちに動揺したのか照れたようにぺしぺしとドイツの大胸筋をたたく。
「…えへへ〜」
「やめろ」
改めて今の自分の発言に恥じらいつつ、イタリアの手を抑える。
「ねぇねぇドイツー」
「何だ」
「今日は美味しいご飯食ってシエスタしてダラダラして一緒に寝よう それが1番楽しー気がするんだ」
「それは」
時間の無駄だ、と言いかけた口を閉ざす。
このなんでもない時を味わうように目を閉じて微笑みを浮かべるイタリアを見ていたら、そんなことを言う気も無くなってしまった。
「じゃあ料理を手伝ってくれ」
「りょーかい 最高のご飯にしよーね」