タイトル何も考えてない)^o^(ボクの巻き込まれ体質は今に始まった話じゃないけれど、今回の人助けはちょっと特殊だった。正確に言えば人助けではなく"うさぎ"助けかも。
ふらっと買い物に来たショッピングモール。広場のイベントに遊びに来ていた"うさぎさん"がやけにふらふら揺れるなと思った矢先、ふっと倒れかけた所に駆け込みなんとか支えた。大事には至らなかったが、恐らく熱中症だろう。その後は他のスタッフさんと一緒にうさぎさんをバックヤードに運び…代わりに今、ボクがうさぎさんになっている。
うさぎさんの仕事は小さい子供に風船を渡して、一緒に写真を撮ってあげるくらいの簡単なものだった。とは言え季節は夏。ショッピングモール内はエアコンが効いても着ぐるみの中はかなり蒸し暑く、汗が止まらない。夏の着ぐるみはキツイって聞いていたけれど、確かにコレはかなりキツイ。熱中症になっても仕方ないなと思う程の暑さだ。
「あの、すみません。写真良いですか?」
後ろから声を掛けられ、いつもより大きくリアクションを取って振り向くとそこには小さい男の子を連れた美奈子ちゃんが立っていた。え、と思わず声を出しそうになるのをグッと堪え、彼女と男の子の間に立ち撮影に入る。今のボクは可愛い"うさぎさん"で、イベントのお手伝い中なのだからしっかりしないと。
「ありがとうございました!ほら、おれい。いえる?」
「うさぎさん ありがと!」
撮影を終えると、男の子が足元にぎゅっと抱き付いてお礼をしてくれた。どういたしましての意味を込めて手を振り、二人に風船を渡す。
「えっ私も良いんですか?ありがとうございます!」
「ふふ、どういたしまして」
…やってしもた。先程自分に喝を入れたばかりだというのに、思わず声を出してしまい急いで口元に手を当てる。幸いな事に声は彼女にしか聞こえていないようで、男の子は気付いていないようだ。
「え、その声…空也さ」
マズイ。そう思った瞬間、反射的に体が動いて彼女の口元にモフモフの手を当てていた。
「みなこちゃんたち、どうしたの?」
男の子の声にハッと我に帰り、彼女と距離を取る。
「あっご、ごめんね?行こっか」
「うさぎさん、ばいばーい」
その後の時間はやたらと長く感じた。それに代理で入ったとは言え仕事でミスをしたのは結構痛い。彼女の前でしか声は発しなかったが、ミスはミスだ。
ふぅ、と小さくため息をこぼし帰路に着く。こんな日はソフトクリームパン食べれたらなァ、と考えながら歩いていると目の前に人が飛び出してきた。
「あ!空也さん!良かった、会えました!」
「えっ美奈子ちゃん。あれ、男の子は?」
「もうバイバイしました。従兄弟が遊びに来ていて」
彼女曰く久しぶりに会えた従兄弟で、皆でご飯を食べに来ていたらしい。
「もう、びっくりしましたよ!まさか空也さんだったなんて」
「はは、ボクも。思わず声を出しちゃったよ」
本当は喋っちゃいけないんだけどね、と言うと彼女は申し訳無さそうに謝った。
「ごめんね、君のせいじゃないから気にしないで?」
「…すみません、ありがとうございます」
君にこんな顔させるつもり無かったんだけどな。今日はもしかしたら厄日かもしれない。
「そういえば、どうして此処に?さっきの口振りだとボクの事を探してたみたいだけど」
「あ!そうでした。暑い中、お疲れ様です。コレ差し入れ渡そうと思ってたんです」
そう言うと彼女はイオンウォーターと塩飴を渡して来た。そうだ、今のボクは代理で着ぐるみを着た後。タオルは貰ったけれど、シャワーは浴びてないし、もしかしなくてもかなり汗臭いかもしれない。
「嬉しいな、ありがとう」
表面上では笑顔で差し入れを受け取り、直ぐに彼女からほんの少し距離を取った。
「あ…すみません。急ぎでしたか?」
「え、そんな事ないよ。本当に嬉しいし」
「でも、空也さんさっきより距離が…」
彼女には何でもお見通しなのかな?距離を取ったと言ってと、先程より少しだけ離れたつもりだった。でもそれが彼女を傷付けてしまっていたとは。
「…ごめんね。かなり汗かいたから、臭ったら嫌だなって思ってつい、距離を」
「…んふふ」
「あ、笑ったね?」
「ふふ、すみません。空也さんも汗かくんですね?」
いつも涼しい顔してるから、と彼女は目を細めて微笑んだ。
「ボクの事 妖怪か何かだと思ってる?」
「えぇ、まさか!どちらかといえば吸血鬼ですかね」
どちらにせよ人間じゃあないのか、と心の中でツッコミを入れる。
「ふふふ、そんな吸血鬼さんに朗報です。今日ソフトクリームパンのキッチンカーがこのショッピングモール内に来てるんですけど、今から行きませんか?」
やはり彼女には全てお見通しなのかもしれない。
「喜んで。じゃあ、今からデートだね」
「エッ?!」
「あれ?違った?デートお誘いだと思ったのに」
「デッ…もう!行きますよ!」
厄日撤回。うさぎさんに感謝しなきゃ。