しあわせ 診療所の一日は、思いのほか長い。
窓辺に夕暮れの赤が差し込む頃、イファはようやく器具を洗い終えて椅子にもたれた。カクークがカウンターの上でふよふよと羽を広げ、目を細める。
「おつかれさま、きょうだい!」
「カクークも疲れただろ」
イファは十字の形に焼いたクッキーをバスケットに移し、もう一度ショコアトゥル水の鍋をかき混ぜた。
濃く溶かしたショコアトゥルの香りが、部屋いっぱいに広がる。
「んー、いい匂い。ちょうど焼けたし、食べるか」
そのとき、羽音とともに窓辺に影が落ちた。長身の影が、風に乗ってふわりと着地する。すぐに木の扉が控えめに叩かれた。
「……オロルンか?」
問いかけるまでもなく、扉の隙間から漆黒の服が覗く。腕にはいくつもの紙包みが抱えられていた。
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