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    nmhm_genboku

    @nmhm_genboku

    ほぼほぼ現実逃避を出す場所

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    nmhm_genboku

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    声の出ない夏樹くんの話

    ##沈黙の深海魚

    愛を語らうこの話を書くまでのあらすじ

    このお話は九条夏樹がタケミチ以外の人間と言葉を話さない、をコンセプトにした作品です。会話はタケミチと2人の時だけ行い、それ以外は無言でいると思ってください。キャラが嫌いではなく、自分の声が嫌いであるからこその結果だと思ってください。この話はドラ→夏←エマ主体の、総受けで進みます。

    それでは!以下設定と内容。

    九条夏樹(♂)
    目線などで全てを終わらせる系男子
    タケミチ以外の人間とは喋らないので、現時点声を聞くのは不可能に近い
    喧嘩は強い。
    魚と虎時空の2人。
    あっくん達は九条夏樹マスター
    (視線だけで何を言っているのかわかる)

    ☆☆☆

    「夏樹の声聞くとなんか変な感じがする」
    「えっ?」
    「俺も…夏樹の声嫌い!!」
    「俺も!」
    「僕も!!」
    「な、なんでぇ?」
    「ッ!!しゃべんな!」

    お前の声気持ち悪いから喋んな!!
    幼いころ、そんな言葉を吐かれたことがある。気乗りしない学校へと向かうために制服に着替え、鏡に映る自分をジッ、と見つめながら、小さく声を出そうと口を開こうとしても、音にならなかった。アイツだったら大丈夫なんだけどなァ、なんて思いながら、今日も遅刻しそうな幼馴染を起こすため、今日も行きたくない学校へ向かうため、俺は玄関を開けて無言で外に出る。がちゃん、と鍵の閉まる音が、暗い室内の中に響いた。

    「なつ!おはよ」
    「ん。おはよ」

    ゆったりと小さい声でそう言った夏樹に、男…花垣武道は、今日の夢見が悪かったんだな、と尋ねた。

    「…わかる?」
    「んー、俺だけだと思うけど、顔色悪いよ?」
    「あ、それはもう夏バテの影響かな」
    「飯食えバカ!!!」

    ごめんね。なんてくつくつ笑う夏樹を見ながら、武道は今日こそ夏樹をタクヤ達と話させるぞ!と決意するが、人の気配が少しでもした瞬間、スンッと真顔になってしまったので、もう既に朝から前途多難である。

    九条夏樹という存在は、小学生だった武道の間でも有名だった。小学5年生にして176センチ。声変わりも他の人よりずいぶん早く小5で終わらせていた。変化があったのは、その声変わり後の次の月。あの活発だった九条夏樹が、困ったような顔で声を出すことなく学校にきていた。これは何か大変なことがあると思った武道は、タクヤの静止を振り切り、夏樹を自分たちのグループへと移動させたのだが、あの時コレが正解だったとは、今でも言い切ることが出来ない。
    夏樹からは助かったよ、と笑って言われる出来事でも、あの日彼を自分たちのグループに入れないまま、原因を解決していれば、彼はこんなに限定した範囲で言葉を話さなくてもよかった可能性だってある。

    「また変なことで悩んでる顔だ」
    「んー、ナツのカッコいい声が他の人に聞かれないのが勿体ないなァって」
    「ははッ。冗談」

    ゆったりと脳に直接クる声色でそう言われて、武道は嘘じゃないんだよなァ、と思った。低く、艶のある声色だと思う。多分10人中8人が夏樹の声と顔を二度見するだろう。すごいギャップみたいな感じ。ひなが言うには天性の誘い受けらしい。そっとナオトに被害がありませんように、と祈るしかなかった。
    そんなある日。溝中に入ってすぐに仲良くなったアッくん達が、ボロボロになって学校に来たのを見て、俺も夏樹もびっくりしてどうしたのかと尋ねても、気にすんなよって言われるだけで、どうすることも出来ないもどかしさがある。
    夏樹はアッくん達の周りをうろうろしながら絆創膏やら包帯やらを押し付けながらもアッくん達が話そうとしてくれないことに困った顔をした。

    『何かあったら言うんだよ?俺もタケミチもお前らの味方だから』
    「なつき…」
    「俺らじゃ頼りないかもしれないけどさ、ナツもこう言ってるんだし、言えそうになったら言って。必ず助けるから!」
    「…サンキュ」
    『最近物騒なことが多いからホントに気を付けろよ?』
    「おう。大丈夫。死なねぇよ」

    目でそう訴える夏樹の言葉に、ニッ、と笑うアッくんの姿を見て、夏樹はアッくん達が負った傷に遠慮なくマキロンぶっかけた。怪我の原因を喋れ言うとるやろが!!って心である。
    まぁ、ちょっと厄介なことに巻き込まれただけだって言ったアッくんの言葉を信じた自分たちをちょっとだけ悔やんだのは、その日から僅か二日後の出来事。
    人気のない道を帰りながら、ナツと最近の不良の奴らの行動を報告していたら、少し遠くから騒ぎ声が風に乗ってやってきた。その時、一瞬だけ、“溝中”と“タクヤ”という単語が聞こえ、二人で顔を見合わせ急いでその喧騒の場所へと向かう。ザッ、と息も絶え絶えの中辿り着き、視線を向ければ、階段にはギャラリー、階下には二人のファイターが見え、一瞬で2人の脳内には“喧嘩賭博”という文字が躍った。

    「タクヤ!!」
    「ッ…!?たけみ、ち…」

    声をかけた瞬間、目を見開いてこちらを見上げてくるタクヤに、オメェ身体弱いくせに何してんだよ!!なんて言えるわけ無い。彼らが話してくれるまで待つと決めた俺らが何も言える立場ではない。ただまぁ、なんだ。

    「おいアイツら溝中の虎と魚だ!!」
    「マジかよ、アイツら倒したら実質俺らトップじゃね?」
    「お魚ちゃぁん!ぶっ殺してやるからかかって来いやぁ!!」
    「なつ、狩るぞ」

    こんな挑発を吐き捨てる奴らのためにダチを見捨てるなんて出来ないわけで。タケミチのその一言を聞いて夏樹はコクンと頷き懐から煙草を取り出して咥える。思わず声を出さないようにするためである。ついでにジッポで火をつけて煙を吸い込んでから、夏樹は動いた。何ともまぁスロースターターですこと。
    階段を一気に飛び降りたタケミチに続くように、夏樹も飛ぶ。ギャラリーを巻き込んで着地すると同時にタバコのメンソールカプセルを噛み抜き、千堂を回収。マコトは俺たちが飛び降りた瞬間山岸と一緒にタクヤの所に言ったので後で説教しておこう。逃げるならアッくんも一緒に連れていけや!!!
    ギッと目線だけでそう言えば、ごめん!とすまん!と反省しております!が混ざり合った三人の言葉が聞こえたので、二度とすんなよって目で言うだけで終わった。アッくん同年代には強いけど年上にはちょっと怖がって腰が引けちゃうから置いて行くのだけはマジでやめろ!
    はぁ、と心の中でそう悪態付きながらため息を吐いて、その言葉を飲み込むためにすぅ、とニコチンごと言葉を肺へと送る。そんな俺の行動が気にくわないのか、こちらへと向かってくる奴らを横目に、ポイっとアッくんをタクヤ達の方へと投げ捨て、すいすいと隙間を縫いながら、殴り掛かってくる人の海を泳ぐ。躱すと同時に鳩尾やこめかみ、首筋の近く等意識を狩り落しやすい場所を執拗に狙いながら、吸い込んだ煙草の煙を吐き出しながら、タンッ、とタケミチの背後を狙う男の顔面を踏みつけ、階段の手すりに着地した。個人評価100点満点の着地である。
    ある程度、というよりももうすっかり溝中の四人とキヨマサ、タケミチと夏樹以外意識がある人間がいない中、タケミチが口を開いた。

    「コレ、賭博ですよね。喧嘩賭博」
    「だ、だったら何だって言うんだよ!!」
    「タクヤは俺らのダチなんですよ。例えアンタらに喧嘩で負けたとしても、俺らに一言あってもいいんじゃないですか?」

    ギリッ、と拳を作る片手に力を込め、キヨマサを階段上から睨みつけるタケミチを見下ろしながら、ふと人の気配を感じ、そちらの方へと見れば、こちらへとゆっくり歩いてくる二人組が見え、タケミチの肩を叩く。

    『2人組の男が来るよ』
    「2人組?」

    パチリ。そう目で語ればキョトンとした顔の後、タケミチは俺の誘導する視線で彼らの存在を認識した。今一番出会いたくない人間ツートップだわ。やっべ、今日だっけ?原作通りだったらここでタケがフルボッコされてたけど、されてないしな、友達にはなれんだろうな。なんて脳内で思いながら彼らの行動を見やる。
    俺ら二人が自分ではなく違うところに目線をもっていっていることに気づいたキヨマサが、どこ見てんだゴラァ!とか言ってきたのでとりあえず指さしておいた。

    「おい、キヨマサァアー!!」
    「は、はひ!!」
    「うわコッワ…」

    それな。めっちゃ怖いよね。ドラケン君なんであんなに怒ってんだろって思ったけれどここに居る奴ら全員東卍だからなァ。みっともねぇ事すんなって所かなぁ。そのまま止まることなくキヨマサの腹に蹴りをぶち込み、東卍の名前汚してんじゃねぇよって言ってきた。ドラケンくんこんなにキレやすかったっけ?皆の兄貴肌じゃなかったっけ???
    んんん???と二人で首を傾げていたら、後ろからマイキー君が今日のケンチンちょー不機嫌じゃん。って言ったから、珍しいこともあるもんだなァと。実際不機嫌な理由がタケミチと夏樹の襲撃なのだがまぁそれは後で話すという事で。
    ゴッ!とキヨマサの腹を蹴りつけ総長来てんだよ、腰落とせや、なんて言ったのを見て、最近の不良はガラが悪いなぁ、なんて思った。声に出さないけれど。

    「ねぇ、お前ら名前は?」
    「……………」
    「あ、花垣武道です。こっちは九条夏樹」
    「たけみち…じゃぁタケミっち」
    「タケミっち?」
    「夏樹はなっちね!お前ら今日から俺のダチ、な♡」

    ニッコリと笑ってそういったマイキーくんに、ドラケンくんがマイキーがそういうんならそうだろ、と困惑する俺らに追撃を加える。それを聞きながらじっと自分の指をいじる夏樹に、マイキーは首を傾げた。

    「(帰りたいなぁ)」
    「…なっち喋んないね?声出せないの?」
    「あ、いえ、その、人前で喋れないだけです」

    指のささくれを見ながら手すりを足場にしているというありえないその体幹に、感心しながらもじっとマイキーは2人を見る。黒の長ランと、青い空のような瞳、金髪のリーゼント、蒼のバンカラマントと軍服に銀の髪の2人組。東卍の間でも噂になっていた2人だ。

    「溝中の魚と虎ってタケミっち達のことでしょ?東卍(俺ら)に喧嘩売りに来た感じ?」
    「えっ!?ち、違います!!知り合いがこの賭場に出されてて…」
    「あ、そういうことかー。じゃあ、ごめんね?」

    今回はお互い様ってことでいい?と聞いたマイキーは、コクコクと頷いたタケミチを見て、ニッコリとありがと、と笑う。その姿を横目に見ながら、夏樹は肺に入れた煙を吐き出し、トンっ、と手すりから降りて、困ったような顔をするタケミチの袖を引き、立ち去るために身体を動かそうとすれば、目の前に辮髪の男…ドラケンが立ち塞がった。何かしたかなぁ、なんて思いながら見ていれば、喋れねぇの?なんて聞かれたのでチラリとタケミチを見る。視線はマイキーくんの方に向いているので、こちらに気づいてくれないらしい。スッ、と千堂達を見ても首を横に振るだけなので、咥えていたタバコをポケット灰皿へと入れて、ドラケンの手を取り、喋ると死ぬとだけ書いておく。

    「ふーん、不便じゃねぇの?」
    「…………………(そこまで感じない)」
    「へぇ?」
    「ケンチンなにしてんの?」
    「オハナシ」

    ひょいっと後ろから現れたマイキーにも動揺すら見せず、変わりにタケミっちが慌ててすみませんと言葉を出す。
    両極端だな、と2人はおもった。月のように静かな夏樹と、太陽のように騒がしいタケミチ。サラサラと風で揺れる夏樹の髪の毛を見ながら、星のようだと、思った。

    「なっちは声を出さないの?出せないの?」
    「あ、出さないだけです」
    「じゃぁ慣れたら出してくれる?」
    「さぁ…?俺も夏樹も小学校の頃からこうなので…」
    「ふぅん?」

    不思議な子だな、なんて思いながら、マイキーはじっと夏樹を見る。声を出す気がない。けれど、会話はできる様に何かで補えるように行動はしている。

    「タケミっちがいない時なにしてんの?」

    そう尋ねたマイキーの言葉に返すように、すいっ、とタケミチの方へと視線を向ければ、あー、とタケミチが声を出す。

    「外に出ないらしいです」
    「今のでわかるんか」
    「まぁ…」

    長い付き合いですから。そう言って笑うタケミチを見て、マイキー達は思う。彼の声を、いつか聞いてみたいな、と。



    夜。彼らは本日の集会の為にと武蔵神社に集まっていた。その際、今日の出来事を不意に思い出したマイキーは三ツ谷達にそういえばさーと軽い声色で彼らに声を投げる。

    「お前ら聞いてよ~。今日ケンチンめっちゃ不機嫌でさぁ!!」
    「珍しいな。ドラケンが不機嫌になるなんて…」
    「キヨマサが悪い」

    全部キヨマサが悪い。そう言って舌打ちしたドラケンに、何があったんだ?と三ツ谷はマイキーに尋ねた。そこで三ツ谷もバジも、集合し始めた東卍の奴ら全員、マイキーとドラケンから聞いた内容に、ヒュッ、と息をのんだ。

    「マイキー、ホントに何もねぇんだな?」
    「え?何?何もねぇよ」
    「…おいドラケン」
    「多分、大丈夫だろ。魚と話したけれど、意思疎通は出来ていた」

    くっ、と小さく眉間にしわを寄せてそういったドラケンに、ならいい、と三ツ谷は答える。例えそれが甘いと言われる結果になったとしても、その片鱗が無いのなら、東卍は大丈夫だろう。

    「え?なっちとタケミっちそんなに有名なの?」
    「有名っつーか、不良の世界に入るなら絶対すんなって言われてるやつがあるんだよ。マイキーは興味ねぇと思うけどよ」

    虎の尾を踏むな、魚腹に葬られる前に罪を認めろ。不良には不良の生き方があるように、その道を外すことは許されない。今回、2人はそんなに機嫌が悪いわけではなかったおかげで助かった。それだけだ。

    「へぇ?でもそこまで強い感じしなかったんだけどなぁ…」
    「俺もなつもそんなに強くないんでそこまで警戒しなくてもいいですよ?」
    「いや、火のねぇ所に煙は立たねぇから、注意しておくに越したことは…」
    『よっす!』

    ピッ!と片手を上げてニコニコと笑う夏樹を見て、ピシッ、と固まるドラケン達を置いて、タケミチが忘れ物届けに来ました、と声を出して、夏樹がいつの間に落としたのかマイキーの学ランを入れた紙袋を渡した。

    「あの場に忘れてたんだ〜。さんきゅ!」
    「いえ。探していたら大変かな、と」

    ドラケンくんが。そう言いそうになった最後の言葉を飲み込んでそれじゃぁお疲れ様でしたと声を上げて帰る2人に、マイキーはまたねーと手を振った。

    「…ケンチンたち露骨すぎだから」

    俺もびっくりしたけどさすがに声出そうよ、なんて言われて、全員がお前はアイツらの怖さを知らないからそう言えるんだよ、なんて思いながら深いため息を吐いた。


    美しい星が降る夜だった。
    マイキー達は今回のキヨマサの件について話し合っていた。隊長、副隊長が集うそこに、第参部隊を任されているパーちんが面目ねぇと声を上げた。

    「パーのせいじゃねぇよ」
    「今回は下の奴らを見れてなかった俺らにも責任はある」
    「だけど俺のせいで“魚”に見つかったのは確かだろ?」

    その言葉にシンっと静まる。魚腹に葬られる前に、どうにかしてキヨマサと東卍の関係を説明したいのだが、如何せん彼らを見つけることが難しいのだ。オトモダチと称する奴らの存在もいた気がするが、あの後すっかり東卍から抜けられたせいで今や繋がりという繋がりすらない。どうしたものか。そう思っていた矢先。ピクリと三途が反応を示しながら、後ろを振り向けば、コツン、コツン、と靴音を響かせ、セットされた銀の髪を風に遊ばせながらこちらへと歩いてくる九条に、全員息を飲んだ。彼が引き摺って来た男に見覚えがあるからだ。
    “愛美愛主”8代目総長・長内
    少し前から仄暗い噂を聞いていたが、まさかやられるとは誰も思わなかったのだ。彼はそれなりに強いと噂があったから。けれど、そう思っている時点で自分たちは彼の力量を甘く見ていてたという事だろう。
    ボーっとしながら彼を見ていれば、パーちんの所へと長内を放り投げ、カコカコと携帯に文字を打ち、それを見せる。は…?と声を上げてしまったのは、仕方ないと思った。

    九条の言い分はこうだ。
    人気のない橋の下で男女が暴行させられそうになったから、助けた。その際に男がパーちんの友人であることを知り、長内をどうするか聞くために持ってきた、と。
    持ってくんな。せめてそっちで解決しろ。なんて言えないので、マイキーはパーちんの方を見れば、ホントに俺の友達か?と健闘違いなことを聞いていたので、全員がそっと長内を回収した。

    「………(多分。俺の友達に東卍の参番隊隊長がいるんだぞって言ってたし)」
    「あー。ちょっと待ってろ。女と歩いていたんだよな?」

    携帯の画面を見せながら彼にそう記せば、少し悩んだ後携帯を取り出しそうパーちんは尋ねた。恐らく該当する人間に連絡を入れるつもりだろう。そう理解してコクリと頷けば、わかった、と言ってどこかに電話をかけ始める。
    その姿を見た後、とりあえず長内どうしようかなぁと思っていれば、東卍に回収されたことを思い出し、彼をどうするのか、と携帯に打ち込んで尋ねる。悪いことをしたら海底に沈めるのが俺流なので。まぁパーちん君が制裁を加えるというのであれば、俺は関係ない因果律だから身を引くけれど、彼以外が制裁を加えるというのであれば、それは俺の獲物である。ちょっと待ってろ、なんて言った場地サンには悪いけれど眠たいのでさっさと結論を出してほしい所でもある。くあっ、と欠伸を漏らしながら、ポケットからタバコを取り出し、カチンッと響きのいいジッポの蓋を開けて火をつける。まだ中学2年の癖に妙に様になるその姿をドラケンと三ツ谷は見つめた。

    「連絡取れた。俺のダチだったわ。悪ぃな、アンタに尻拭いしてもらう形になって」
    「………(別にいいよ。見つけたのは俺だから)」

    カコ、と携帯を打ちながらそう書き込んだ夏樹に、声出さねぇの?とパーちんくんから尋ねられるもんだから、困ったように笑って、“出せないんだよ”と打ち込んだ。

    「ん?出さない、じゃないの?」
    「………(タケが近くにいると、声を出そうってなるんだけど、今いないから)」
    「ふぅん?」

    カコカコと携帯に打ち込むその姿を見ながら、マイキーは不便だな、と思った。タケミチや、あの時居た4人組は視線だけで彼の言葉を理解できるのに、自分は媒体を通さないと彼の声を理解出来ない。それが何故か嫌だと思った。傍に置くための最低条件すら手に出来ないと言われているようで、悔しかった。

    「なっち」
    『はい?』

    ついっ、と上げられた目から届く彼の言の葉に、パチンッ、とマイキーの目の奥で星が瞬いた。

    「俺、多分なっちの言葉わかると思うよ」

    そう言ってゆるりと笑った彼の瞳にキラキラと星が舞う。それを見ながら、夏樹はふむ、と考える動作を取り、パタン、と携帯を閉じて、ポケット灰皿の中にタバコを入れ、ぐっ、とマイキーと目線を合わせる。夏樹の前髪がまるで星のカーテンのようにその空間だけを閉ざし、2人だけの世界を感じながら、マイキーは夏樹の視線から溢れる声だけを聞いた。

    『わかる?』
    「うん、少しだけど、分かるよ」
    『今回の件は君らに任せるけれど、パーちんくんが納得いく答えになったら教えてもらってもいい?』
    「分かった。俺らの総意、じゃなくて、パーの決定でいいって事ね?」
    『うん。人に言われて揺るぐ内容にしたら怒るからね』

    そう言われて、マイキーはキョトンとした顔をしたあと、分かった、と再度言葉を吐いた。その答えに満足したかのように夏樹は薄く笑い、するりとマイキーの頬を髪の毛が掠めながら離れる。
    目線で会話するなんて初めてだな、なんて思いながら、マイキーはパチパチと目を瞬かせて、夏樹の方を見れば、先程の視線での会話が嘘のように何もわからなくなっていた。

    「なっち何したの?」
    「………(なに、とは?)」
    「またお前の言葉分かんなくなった」

    そう言うと、あぁ、というジェスチャーをとり、スイッ、と顔を近付ける。多分距離が離れたからだよ、と薄く笑いながら語るその目に、マイキーは言いようもない感情を抱いた。するりと視線が離されるまで、その時間ごと、勿体ないと思うほどに、マイキーは青を滲ませた黒々とした美しい瞳から目を離せなかった。まるで魚が行うエコーロケーションのようだと思った。脳に直接響くような、水の中で話すような、そんな不思議な感覚だ。

    「マイキー?」
    「ははっ、すっげ…」

    思わずずっと話していたいと思うほどのその魅力に、マイキーは片手で口を覆いながら笑った。もし、彼らのように遠くにいても分かるようになったなら、きっと至近距離で話す以上に楽しいだろう。そう思わずにはいられなかった。降り注ぐどこかの星のひとつが君を認めたんだ、と後から言われるその現象は、マイキーが九条夏樹という人間に執着したひとつの分岐点でもあった。これからきっとほかの東卍の人間も彼との会話を可能にするだろう。けれど一番最初に自分が彼の言葉を理解出来たという事実が、マイキーにとって酷く特別な感情を生み出すきっかけにもなった。

    目を合わせて、会話をする。声を聞きたいのに、その目線から紡がれる言の葉に溺れていたい。そう思うことはきっと罪とは言えない。彼が星を纏い続けるまで、きっとこれは続いていく。

    「ケンチンもバジも、三ツ谷も、きっとハマるよ、これ」

    パーはきっと夏樹と目線で会話出来たとしても、なんとも思わないだろうけれど、他のやつらはきっとハマる。その視線を自分だけに向けて欲しいと言いたくなる。

    「ふーん?」
    「あまり想像がつかねぇなぁ…」

    三者三様そう言って首を傾げるその姿を見ながら、マイキーは直ぐに分かるよと声を出した。その言葉に、ドラケンと三ツ谷だけは、キュッと唇を噛む。実の所、夏樹の言葉をしっかりと理解出来ずとも、少しだけならわかっていた。けれど、1歩踏み出せなかったのも事実。その視線が自分たちに向かないことに苛立ちを覚えるぐらいなら、聞かなくてもいいと、そう思っていたから。けれど先程マイキーに先を越されて、あの銀のカーテンに閉じ込めるように見つめ合う二人を見てしまえば、舌打ちしたくなった。その権利は、俺が先立ったのに、と。

    「なぁ、三ツ谷」
    「言いたいこと分かるぜ?」

    ちらり。お互い目を合わせてニッと笑う。いつもなら手を引くだろう。マイキーの為にと身を引くこともある。けれど、何故か彼だけは取られたくない、と2人は思った。だから、少しの間共同戦をはろう。目線で会話する権利を最初に渡したから、彼の声を聞く最初の権利ぐらいは貰ってもバチは当たらない。

    『それじゃぁ、また』

    緩やかにそう目で伝えて、帰っていくその背中を見ながら、海の王者を思い出す。いつかその声帯を震わせて、鼓膜を震わすために放たれる言葉を想像しながら、彼らはバンカラマントを着た美しい星を纏う魚を見送った。

    「そう言えば長内くんどうなったの?」
    「東卍に引き渡したよ?」

    朝。マイキーくんと目線で会話したあの後、しっかりと帰って寝たのでタケに報告を後回ししていたのをすっかり忘れていた。

    「なつ」
    「んー?」
    「タクヤ達と話すの、怖い?」
    「………まだ、少し」
    「そっか…」

    じゃぁ、また今度だね、と悲しい顔で笑うタケを見て、ごめんね、と声を出した。人通りのない時間と場所を選んで進む通学路も俺のわがままで、毎日眠たい目を擦りながらも一緒に行ってくれるタケは、やっぱり彼らと一緒に投稿したいよな。そう思っていれば、違うから、と頭を叩かれた。

    「…いたい」
    「お前が、アッくん達と声を交えてくれるのが見たいだけだよ」
    「…無理だよ」

    俺の声、気持ち悪いって言われる。そう言って困ったような顔を見せれば、あっくん達がそう言うと思ってんの?と呆れた顔で見られた。

    「皆、なつの声を聞きたいと思っているよ」
    「…うん」

    でももう少しだけ、待って。泣きそうな声色でそう呟いた夏樹に、いつまでも待つよ、とタケミチは答えた。震わせた夏樹の艷めくその声に、まぁ、びっくりはするかな、と思ったのは秘密である。

    「あっ!なっち!タケミっち!!」
    「ま、マイキーくんとドラケンくん!!」
    「おはよ」
    「はよ」
    「………(はざます)」
    「おはようございます…」

    どうしたんですか?こんな早朝に。そう尋ねたタケミチに、マイキーはなっちに用があってね、と答える。昨日の今日だ。きっと長内くんの事だろうと思って、こくんと頷けば、マイキーはこて、と首を傾けた。

    「また聞こえねぇね」
    「………(昨日は星が瞬いてましたから)」
    「?、どういう?」
    「あっ、あー…。いまは朝なので“雑音”が多いから余計に聞きにくいんだと思います」

    夜の方が聞き取りやすいので、今は申し訳ないですけれど、と答えるタケミチに、むっ、とマイキーは顔を顰めながら、聞き取れっし!と言いながらジッと夏樹の顔を固定して顔を近づける。一瞬キスしているように見えるが、健全に視線を合わせているだけである。

    「(うーん…)」
    「なっち!目ェ逸らさないで!!」
    「(えー…)」

    仕方ないなぁ。そんな顔をしながら、マイキーの額にコツン、と自分の額を合わせて目を閉じ、縛っていた髪の毛を解く。キラ、と銀に染めた髪の毛がマイキーを閉じ込めて、ゆっくりと目を開き、目線を合わせる。そんな夏樹の行動に、マイキーはちかちかと星が瞬いているような感覚を味わいながら、彼の声を聞こうとジッと見つめるけれど、全く聞こえる様子がなく、はくり、と息を止めた。

    『無理っぽい』
    「あー、うん、だろうね…」

    するり。合わせていた額を離しながら、キロ、と視線をタケミチに向けた夏樹に、タケミチがそう言葉を返す。それを見て、2人はきょと、と目を瞬かせた。

    「タケミっちはやっぱわかんの?」
    「まぁ、年期が違いますからね!」

    にっ、とドラケンの言葉にそう答えれば、マイキーは、ずるい!!と地団駄を踏んだ。昨日のようにまたあのキラキラとした世界が聞こえると思っていたのに。あの夜の特別な感覚が消えた気がした。
    そんなマイキーを見て、夏樹は、彼の手のひらを取り、文字を書いていく。

    「………(夜に聞こえたなら、直ぐに聞こえますよ)」
    「…今じゃねぇじゃん」
    「チャンネルが合ってないだけですよ」
    「チャンネル?」
    「視線で会話するのもちょっと波長とか、色々あるので」

    いまはなつに合わせてやって下さい。そう言って綺麗に笑うタケミチに、仕方ないなぁ、とマイキーは思った。

    「今回だけだよ」
    「はい!」

    ありがとうございます!そうニッコリと笑ってそれで、どうしたんですか?と尋ねたタケミチに、長内の件でね、とマイキーは声を出した。

    「なっちかボコボコにして倒したけれど、俺らに譲ってくれたでしょ?あの後話し合って、パーちんがぶん殴って俺らの傘下にしたから、伝えに」
    「は?」
    「(やっべ!)」
    「おっま!?おいコラなつ!!!」

    お前話し合いしたって言っただろ!!と怒りながらそう言うタケミチに、耳を塞ぎながら首を振る夏樹を見て、あっ、言っちゃダメだったやつかな?とマイキーは首を傾げた。

    『だって止まってくんなかったんだもん!』
    「それでもボコボコにする必要ねぇだろ!」
    『いやいやいや、俺だってボコボコにしようとは思わなかったよ!?でもお話聞いてくんなかったもん!仕方ないじゃん!!』
    「仕方ないじゃねぇんだよなぁ~~!!!」

    このバカ!と怒るタケミチにぶーぶー文句を言っている九条を見て、ドラケンはふはっ、と笑いをこぼした。

    「めっちゃ喋んじゃん」
    「えっ!?分かるんですか!?」
    「ん?あー、断片ぐれぇだけどある程度は」
    『マイキー君に振り回されてる結果的な』
    「お前それ本人には言うなよ?」

    言うわけないじゃん。そう目で語れば、マイキーくんがなんて言ったの!?と声を上げたので、いろいろ大変なんだねって言ったんですよ、と携帯のメモ機能を使って話す。嘘は言っていない。

    「そういや、お前ら結構有名じゃん?何したの?」
    「えっ!?なに?」
    「俺は知んねぇけど、昨日ケンチン達が意思疎通出来てて良かったなって」
    「あっ、あ~…」

    ちょっと過去にやらかしまして。そう言って困ったような声色で言ったタケミチに、マイキーは首を傾げた。なにしたの、と聞きたくてもくあっ、と欠伸をもらす九条を見て、聞いたらダメな話か、と何故か思ってしまった。

    「あ、俺らここ右です」
    「ん、じゃぁまたね」

    バイバイ。そう手を降って、各々学校へと向かう道に別れた時、マイキーはドラケンにケンチン知ってるでしょ、と尋ねれば、眉間に皺を寄せながら、黒龍を1度壊滅に追いやった奴らだよ、と声を出した。

    「は?」
    「シンイチローくん達が抜けたあとで、今は仲良いけど、あのイザナとの確執があった時だから俺らも隠してた。7代目かな。そいつが勢力拡大しようとなっちとタケミっちに喧嘩ふっかけて、壊滅寸前に追いやられたんだよ。イザナに継いでもらう前に何とかなったけど…」
    「待って待って?7代目の時って言っても、あん時ってまだ400ぐらいいたよな!?」
    「そ。そんとき、出来たんだよ。虎の尾を踏むな、魚腹に葬られる前に罪を認めろって。黒龍の名前使って悪いことしてたヤツらもいたらしいから、余計にな」

    タケミっちがなっちの名前を呼ぶまで続いた蹂躙は、この界隈で大きく広がっていた、だからあの時、ドラケンは焦っていたのだ。喧嘩賭博という場所に、彼らがいた事に。

    「あー…じゃぁ、ケンチンがあん時ブチ切れてたのって…」
    「さすがにあんなゴミのせいで東卍潰させる訳にもいかねぇだろ」

    意思疎通が出来ると分かって酷く安心したのを今でも覚えている。あのゾッとする空間の中、しっかりと受け答えした彼の存在を見て、アイツらの誰かが質問に肯定の声を上げたのだろう。バカはバカなりにちゃんと行動しているようなのでそこは許そう。

    「…なっち達俺の兄貴達に会わせないほうがいいかな……」
    「んー、別に確執あんのは7代目だし、いいんじゃねぇの?」

    そういうの、気にしねぇと思うぜ。そう言って校内に入っていくドラケンを見ながら、マイキーは無理があるって。と思わず声を上げた。






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