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    nmhm_genboku

    @nmhm_genboku

    ほぼほぼ現実逃避を出す場所

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    nmhm_genboku

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    お前に出会わなければ良かった

    ##偉人の言葉を使うやつ

    お前に出会わなければ良かった◆武夏風味からタケひな
    ◆真一郎とマイキーが5歳差
    ◆真一郎くんも、マイキーくんも、イザナもちゃんと和解はしているけれど、それとこれとは別
    ◆壮大な兄弟喧嘩を繰り広げる三天
    (黒龍、東京卍會、天竺)
    ◆真一郎くんはマイキーくんが闇落ちした未来から来たタイムリーパー
    ◆九条夏樹=魚(深海魚)
    ◆この話は半年前に考えた作品です。しっかりとした知識もない状態で書く事が出来なかった作品を手に掛けることになるので、誤字脱字の添削報告はしなくて大丈夫です。私が読みたい私だけの話なので後で完結後、個人用の本にするとき行います
    ◆全部で10話前後で終わります。ヤバいと思ったら速攻で逃げてください。
    ◆作者にしか配慮しない話です。
    ◆九条夏樹以外幸せになる死ネタです



    ーーー激化する抗争ついに一般人に被害

    花垣武道と一緒に同居のような暮らし方をして早10年。九条夏樹は、うっすい壁のボロアパートの一室、1台しかないテレビの中で、中学の同級生だった橘ひなたの死を知った。

    「…今日遅くなる」
    「あ、うん」

    中学卒業後、逃げ出すように地元を出た武道を探して2年目。コンビニバイトしていた彼を見つけた時は本当に安心したし、親御さんに報告したのもつかの間。コイツの生活能力のなさに頭を抱え、どうにか2人で暮らそうと説得し、10年と誰にも会うことなくここにいる。

    俺、こと九条夏樹。かつて不良の世界でたった1人で日本一になり、その玉座に座り、僅か1日でその座から消えた、“海底の魚”である。あの時伸ばしていた髪は手入れが面倒だからと早々に切り落とし、銀の髪は黒へと変え、好んで着ていたバンカラマントは、その玉座を降りる時、道端のゴミ箱の中へと捨てやった。つまらない景色だった。負けを知らないあの無敵のマイキーをぶっ倒し、その頂きの呆気なさに憤りすら感じていた。けれどそんな中、キヨマサの奴隷として生きていた花垣武道に出会ったのだ。その瞬間、俺の記憶の奥底で眠っていた“前世”の記憶が、このくだらない人生ゲームに彩りを迎えたと言っても過言ではないだろう。だからこそ、彼を探した。共に生きてみたかったから。共に、泳いでみたかったから。

    「(昨日は肉だったから、今日は魚にしようかなぁ…)魚が安いスーパーってどこだっけ?」
    「見つけた…」
    「は?っとォ…、あっぶね!」

    背後から呟かれた言葉に思わず振り返れば、振りかざされた鉄パイプを視野に収めてしまい、咄嗟に躱す。その俺の姿を見て、ゆっくりと口角を上げた目出し帽の男共に、ゴクリと喉を鳴らした。

    「誰だテメェら」
    「ひでぇなぁ…俺らはお前を見て直ぐに分かったのに」
    「悪いけど、俺ァ興味ねぇ人間の名前は覚えねぇんだわ」

    ざりっ、と安っぽい靴の音を響かせて、ゆっくりとそう答える。聞き覚えのある声色、見覚えのある背格好。第1巻。僅かしか出てこなかったけれど、未来の彼らだ。

    「元東卍サンが、こんな所になんの用で?」
    「覚えてんだ。嬉しいなぁ…」
    「あの日からお前のことを探していたのに、まさかこんな近くにいるなんて」

    もっとちゃんと探せばよかったよ。そう言って帽子を取った彼らを視界にとらえ、口角を引き上げる。

    「なぁに?負けた腹いせに俺を殺すために探してたの?」
    「んーん。むしろ逆かな」

    迎えに来たよ。そう言って笑った彼らを見て、九条は声を上げて笑った。その声と、遮断機のカンカンと鳴き響く音が周りの人間の鼓膜を刺激して、小さい声で頼んでないんだよなぁ、と答えた。

    「お前と今一緒にいる男、元東卍の奴隷だったよなぁ…?」
    「役に立たねぇバカのお守りでもしてさぁ、つまんねぇんじゃねぇの?」
    「ははっ、バァカ。てめぇらと一緒にすんなよ」

    そう言葉を吐いた九条の周りから、ぱちゃん。と水の音が聞こえ、まるで泳ぐように線路の中へと入る彼のその姿を、誰も止めることが出来なかった。いや、言葉に語弊がある。誰も、彼が線路に上がったことすら気づけなかったのだ。滑らかな移動すぎて、遮断機が上がったのかと錯覚する程だった。だから、止めることが出来なかった。そんな彼らを嘲笑うかのように、九条はくるりと振り返り、声を上げた。

    「さぁ、過去を変えようか!」

    ゴォッ!と通り過ぎた電車が、その細い身体を、四肢を、跳ね飛ばした。

    世界は理不尽で出来ている。

    九条は幼少の頃からそう言葉を繋いでいた。両親には恵まれていた。頭も悪くなかった。けれど、現実的なその世界は、九条の全てを奪っていったと言っても過言ではない。友人も何もかも、そばに居ることを拒んだ。その際たる理由が、海に溺れたように息苦しく感じるのだという。そんな彼の傍を、まるで海の中だと人は例えた。けれど、その息苦しい世界の中でも、あの男だけは、あの太陽が似合う男だけは、そばにいてくれた。たった1時間だけ、彼と話していただけだった。けれど、笑ってくれた、言葉を聞いてくれた。傍を離れないでいてくれた。今までにないほど心が暖かくなった。だから九条は男、花垣武道の事が大好きなのだ。だからこそ、過去へと渡る唯一の方法。電車に惹かれて未来を、花垣武道を幸せにしてやろうと、九条は過去へと飛んだのだ。

    「面白いこと、やってんねぇ」

    肺を汚す白煙を吐き出して、男…九条は笑ってそういった。原作の始まり、喧嘩賭博のその場所に蒼のバンカラマントをなびかせて、九条は武道が声を上げたその時を見計らったかのように言葉を吐いた。

    「誰だテメェ」
    「俺が誰でも君にはどうでもいい話でしょ?まぁ、そうだね。それでも名乗れというのなら、母なる海から陸に上がった“深海魚”とでも言っておこうか?」

    俺もその賭博混ぜてよ。そう言ってコツりと階下へと降りるその姿に、誰もが目を見張る。噂で流れる深海魚。現在東卍の総長、佐野万次郎の兄である佐野真一郎が勧誘し続けている魚。

    「なんでお前みてぇなやつがコイツらを庇う」
    「庇ってないよ。強いて言うなら、遊びたい盛りって感じ?」

    俺の相手はだァれ?トンッ、と最後の階段を降りて笑うその顔を見て、この場にいる花垣達溝中の5人以外が、名をあげようと前に出た。

    「じゃぁ、俺の相手は、君にしようかな」

    すっ、と指名された赤石は、べろりと下唇を舐めた。海底の魚かなんか知らないけれど、そのビックネームを倒したとなれば、自分は上に登れると確信したからだ。

    「2対2のタイマン。きっと楽しいよ。俺が勝っても助けないけれど、大丈夫?」
    「譲れねぇもんがある。負けられねぇんだよ、俺は。お前に手を出させるほど、この賭博に声を上げたわけじゃねぇ!」

    十分。そう言って、マントとネクタイを脱ぎ捨て、さて、と声を上げた。

    「いつでもどーぞ?」
    「やっちまえレッドくん!!」
    「っしゃ!行くぞォ!!!」

    吠えて殴りかかろうと走り出した彼に、夏樹は遅いね、と声を出した。その言葉と共に、こぽり。水泡の音が、赤石の鼓膜を揺らして意識を落とした。

    「さて、前座も前座。あまりに弱いから早く終わっちゃった。そちらさんも早く試合始めなよ?」

    ゴトン、と頭蓋骨が地面に落ちた音が響く。揺らめく水面のように、きらきらと輝く銀の髪が、その場をまとめて支配する。

    「ほら、早く」

    急かす声色に我に返ったのは武道だった。すげぇ、と感心する心を置いて、叫び声を上げてキヨマサをぶん殴る。1発、2発と当てれば相手も我に返ったのか、そこからは原作のように武道はボコ殴りにされていた。体の違いもある。筋肉もそんなに着いていない武道の拳は、軽いだろう。けれど今はそれでいい。彼が最終的に幸せになってくれさえいれば、自分はどうでもよかった。この賭場に声を上げたのも、ただ彼が未来から来たのか、それとも1度目の人生なのか知りたかっただけで、興味すら持っていないのだ。そんな震える身体で、ボロボロなのに諦めていないその目を見て、九条は密やかに、笑った。欲しかった、過去から来た彼だということを、しっかりと理解出来たから。そんな歓喜に染まる九条の後ろから、こめかみにドラゴンの刺青を入れた男の声が響いた。

    「おい、キヨマサァー」
    「あ!?」
    「客が引いてんぞー。ムキになんなよ、主催がよォー」

    そのセリフを聞いて、九条は時間か、と思った。このまま原作通りに進むのなら、裏で手を回して、なんの障壁もないまま楽しく不良を終わらせて、幸せにしてやろうとそう思った矢先。奥でどら焼きを食べていた男が、こちらへと走って蹴り飛ばそうとしてくるのを身体を屈めることで避け、逆にその顔面を蹴り飛ばせば、ガードしながら着地。今から楽しいことが起きるとでも言うような顔で笑って見せるその顔を見ながら、反撃は失敗だったか、と九条は理解する。

    「ねぇ」
    「ん?」
    「なんでそいつ、助けてやんないの?」
    「助けなくてもいいって言われたから、かな」

    コツ、とつま先を叩いて音を出し、そう返答した九条に、へぇ?とマイキーは声を上げた。男同士の喧嘩だ。手を出す必要すら勿体ないという話だろう。

    「なら今から俺と」
    「よぉ、マイキー」
    「!、シンイチロー!?なんでここに!?」
    「うっわ、ストーカーじゃん」

    思わず眉間に皺を寄せてそういった九条に、その場にいた真一郎以外の全員がは?と声を上げた。

    「えっ!?ストーカーってなに」
    「毎回性懲りも無くチームに勧誘してくるから、ストーカーって呼んでる」

    魚を飼ったことが無さそうな相手には興味無いんだよねぇ、なんて。鼻で笑ってそういった九条に、真一郎はゆっくりと笑うだけだった。

    「元気そうだな」
    「そっちこそ」
    「何度目かも分からない声掛けだけどさぁ、どうよ?黒龍に入る気になったか?」
    「興味ないんだよなぁ…」

    そう言って心底面倒だというような声色で中指に出来たささくれを見ながら九条は答え、はぁ、と深くため息を吐いて地面に投げ捨てたネクタイを拾い上げ、脱ぎ捨てたバンカラマントを羽織り、大体、と声を上げた。

    「弱いやつには興味ない」
    「あ?」
    「ハハッ!お前は変わんねぇなぁ~」
    「何度断っても諦めないその精神と根性は感服に値するけれど、そろそろ中坊勧誘するのやめた方が良いっすよ」

    俺なんかと一緒にその強いチームで天下取っても面白くないデショ。そう言って銀の髪を指先でくるくると弄びながら、ちらりと逃げ道を探すために視線を動かす。前にはあの“無敵”のマイキー、階段上には“伝説”佐野真一郎。面倒な布陣だな、と思いながら。コツ、と靴音を鳴らした。九条夏樹は、この世界が自分が26年生きた世界ではない別の世界に移転されたのだというのは理解していた。タイムリープという突飛な非科学的現象を目の当たりにしながら、九条はその目の前のそのわずかな事実のおかげで嫌に落ち着いたのだ。

    「そう言うなよ。俺はお前と一緒に空を泳ぎたいと思っているんだぜ?」
    「戯言をほざくなよクソ野郎。何度も言っているだろ。俺は空飛ぶ龍にはなれないって。俺は広大な海を泳ぐ魚なんだよ」

    イライラしながらそう言って、ちらりと武道達を見る。彼等をここで巻き込ませるわけにはいかなかった。自分の過去だ。数年の差が縮んだにしても、佐野の執拗な勧誘からそう簡単に抜け出せるわけではない。

    「(それに…)」

    ここに居るのは、俺と過ごした彼ではなく、原作の“花垣武道”だ。この先、彼は東卍というチームに入ることになる。そうそうなるハズの未来だ。

    「やっぱり、世界は理不尽だ」
    「九条!!」
    「はぁい♡」

    するり。まるであるべき姿を見せるかのように着ていたバンカラマントをゆらめかせ、武道の声に反応して声を上げる九条は、背後から繰り出される今牛の蹴りを避け、その横面を蹴り飛ばした。

    「俺はさぁ、欲しいもんは絶対に手に入れる主義なんだわ」

    バサッ、とそう言いながらマントを払い、花垣武道、と彼の名前をゆっくりと読み上げ、なぁ、と声を上げる。

    「俺と天下、取ろうぜ?」

    今ならここから逃がしてもやれるよ?そう言って笑う九条を見て、万次郎は駆け出した。ここで逃してはダメだと本能が告げる。その行為すら誘っていたかのように、九条はぐるりと顔を向け、その襲ってくる蹴りを受け止め、はじき飛ばした。

    「邪魔」
    「ッ!?」
    「マイキー!!」
    「夏樹!」

    ドゴッ、とお返しにとその胴体に蹴りをぶち込んだ九条の冷めついたその瞳に、マイキーは思わずぐっ、と喉を鳴らした。

    「ここから、逃がして!」

    金髪の少年…武道が慌てながらそう声を発する。その声に、にぱっと笑いながら、いーよぉ、と九条は間延びした声を上げた。
    そこからはあっという間だった。水の中を泳ぐように尻もちを着いていた少年を担ぎあげ、千堂達に走れ!と声を上げたのを皮切りに、立ち塞がる人間を蹴り飛ばし、賭場から一瞬で姿を消した。

    「…あいつ、なに?」
    「深海魚。マイキー達に知られる前に勧誘終わらせたかったんだけどなぁ…」

    はぁ、とため息を吐いて頭を掻く自分の兄、真一郎を横目に、マイキーはゾクゾクとした身震いを感じながら、ニヤリと笑った。

    「ケンチン!」
    「無理」
    「はぁ!?なんでだよ!!」
    「あいつは、そんな簡単に仲間にしていい存在じゃねぇんだよ」

    お前はそういうの覚えねぇから言ってねぇけど、と前置いて、あの魚の凶暴性を口にする龍宮寺に、真一郎はニッコリと笑ってそういうこと、と声を出した。

    「あれは万次郎のチームより、俺らの方が性に合ってんだよ」
    「真一郎みてぇな弱いやつを守らせるためなんて勿体ねぇよ!」
    「ウッ…お兄ちゃん傷ついたぁー!!!」

    お前今日の晩飯にピーマン入れてもらうわなんて言って笑う真一郎に、万次郎はやめろ!!と声を上げた。



    九条夏樹(♂)
    さぁ、未来を変えようか!と意気込んだは良いけれど、やべぇ、この世界知ってる世界じゃねぇってなって実は慌ててた。
    この後武道達と一緒に新しいチームを作る





    「始めまして、と言えばいいかな?」
    「ばはっ…海底の魚がなんの用だよ」
    「んー、忠告?君らの行動が目に余るから、もういっその事死んでもらおうかなって」

    コツコツ、と気だるげにそう答えた九条に、男…半間はゴクリと喉を鳴らした。
    逃げても逃げなくてもこの目の前の巨悪に勝てるだろうか。ふ、と脳裏に浮かんだその疑問に答えるように、目の前の男…九条夏樹はゆっくりと笑って見せた。

    「…俺の計画の邪魔をする、とそう捉えていいってことだな?」
    「邪魔ってそんな言い方なくない?まぁ、邪魔するために声掛けてんだけどさ」

    がり、と首に手をやって、伸びた爪で引っ掻きながら稀咲の問いかけに対し、そう答えを出す九条を見て、稀咲はチッ、と舌を打った。どこから情報が漏れたか分からなかったけれど、この九条の様子だと全てを見通してやってきたと言っても過言でもないだろう。息苦しい。そう思わせるほどの空間。まるで、溺れたかのような、感覚。

    「ッ…!」
    「最初は息苦しさを感じるんだって」

    こつ。黒のストレッチパンツと、その足元を飾る高そうな靴が、嫌に目に入る。

    「その後頭が痛くなって、立っていられなくなる。それが、深海魚と呼ばれる俺と話す際に起きる弊害。さて、そろそろ頭が痛くなる頃じゃないかな?」

    くっ、と口角を上げる九条の顔を睨むように見る半間と稀咲、長内含めた愛美愛主の人間の大半が、膝を着いて、頭を抑えた。痛みがひしひしとまるで足元から這いずってくるような、そんな不気味な感覚を覚えながら、九条を見る。まるで興味すら無いかのように彼らを見下ろしながら、俺はさぁ、と声を上げる。その声が鼓膜を揺らす際、まるで水の中のようにぐわんっ、と鼓膜が揺れた。

    「おえっ…」
    「んはは!!じゅーぶん!じゅーぶん!!可愛そうになぁ…。俺に目ェ付けられなかったらあんたらはそこにいる長内を利用して東卍に付け入れられたのに」
    「テメェ…ッ!」

    ギリっ、と睨みつけながら、膝を着く稀咲を見て、すんっ、と真顔になる九条に、誰もが息を止める。ここにいては殺されると思った。ここはもう既に海底で、この目の前で王者然とした態度を見せる男、九条夏樹のテリトリーだと脳が警告をしめしている。

    「もう一度言うよ。お前らの行動は目に余る。今ここで俺に殺されるか、不良を辞めて一般人に戻るか、2択に一つだ。どうする?俺はどっちでもいいけど?」
    「舐めんじゃねぇぞ魚風情がぁ!!!」
    「OK。じゃぁ死ね」

    稀咲達のそこからの記憶は、まるで地獄だった。腕を折られ悲鳴をあげる人間が、脳天を直撃する蹴りが、内蔵にしなやかに打ち付けられる蹴りが直撃し、血を吐く者など…。そんな彼らの痛々しい姿と声が、3人の視界を、鼓膜を揺らし、息が出来ないほどの殺気の中で溺れるしか無かった。とうとう自分たち以外意識を保って居られないと気づいた時には、もう既に何人かは病院に連れていかないと危ない状況で、リーダーの長内は息苦しい海底の波に溺れながら辞めてくれと声を上げた。

    「愛美愛主は…解散する」
    「意外と決断が遅かったね。でもまぁいいや」

    自分の犬の躾もできない人間が総長なんてやるべきじゃないよ。
    そう言って今まであまり動いていなかったバンカラマントが、九条がくるりと立ち去り際に振り返った瞬間、空気を孕んで膨らんだ。魚の尾鰭すら動かせなかった自分達に、これ以上強くなどなれない。それを見せ付けられたような、そんな気がした。

    「あぁ、そうだ」

    忘れていた。そう言ってこちらを振り向いて、稀咲に指を差した九条は、ゆっくりと声を出した。

    「稀咲鉄太。お前だけは、見逃せない」
    「な、に言って…」
    「俺はお前の計画を知っている。お前の行動理念を知っている。お前が、1歩でも未練がましくこちら側(不良の世界)へと踏み込んだ瞬間、お前を俺は殺しに行くよ。あぁ、隣のお前も同じだから」
    「ッ…!!」
    「橘ひなた、だっけ?遠くから見るだけの存在のくせに、良くもまぁ自分のことを知ってもらおうと思ったよね。少しは行動することを知った方がいいんじゃない?」

    まぁ、おこちゃまなお前には一生無理だろうけれど。そう言ってゆったりと笑った九条に、稀咲は目を大きく見開いた。そんな事は無いと声を荒らげたかったのに、声すらあげることが出来なくて稀咲は歯噛みした。

    「ほら、かのショーペンハウアーは言っているだろう?我々は、他の人たちと同じようになろうとして、自分自身の4分の3を喪失してしまう、って。お前はさも自分自身の夢のように花垣武道の夢を語るじゃないか。その時点でお前はもう“特別”じゃない。お前自身はたったの4分の1しか存在しないのに、何をそんなに悔しがってんの?」
    「…は?」
    「さも、自分は悪役ヒーローのような存在として生きるっていう夢を見ているみたいだけどさ、もう少し現実ってもんを知った方がいいよ」

    悪役ヒーローは俺だけで十分なんだから。ゆったりとそう声を上げて九条は笑う。
    世界は理不尽に出来ている。
    いつもそう言って詰まらなさそうに生きる自分は、多分世間一般で言う“いい人”にも、“普通の人間”にもなれないだろう。
    生まれながらに人とは違うことを理解していたし、僅か失われない僅かな4分の1を体内に収めることも出来ない人間。

    「お前の敗因は、花垣武道をライバル視したことかなぁ…。お前みたいな人間が、あいつの敵になるなんて、許されることじゃない。アイツの憎悪は俺のものだし、アイツの嫌悪も俺のものだ」
    「は…」
    「俺はたったひとつでいい。喜怒哀楽の中で、怒りの心を俺にだけ向けてくれれば、俺はそれでいいんだよ。お前みたいに全てを奪いたいなんて、俺は思わない。喜びも、哀しみも、楽しさも橘ひなたと東卍のもの。けれどさ、あの優しいあいつの怒りだけは、俺にくれてもいいと思わない?」

    その4分の1を手にするために、俺はあいつと今仲良くなってんのに、邪魔しないでよ。ゆっくりとそう言って笑う九条に、稀咲は無意識にゴクリと息を飲んだ。

    美しいと、思ってしまった。
    母なる海の中を生きる魚のように、世界の約4分の3の中で息をしている彼の、唯一欲しい世界が、そんな僅かな感情だなんて誰が思うだろうか。どうやって手にするつもりだ、とか、あいつはそんな感情をお前に出さないだろ、とか言いたいことは沢山あったのに、何故か。何故か、彼のその言葉の行く末を見てみたくなった。彼が生きた証というものを知りたくなった。

    「…はばっ…♡」

    そんな稀咲の感情とは裏腹に、一人の男はそんな九条の言葉に、姿に、頬を染める。近くで見たいと感じた。手を出せなくてもいい。けれど、彼が彩る世界というものを、近くで見てみたくなった。それが罪と言われようと、それが自分自身の罰と言われようと、彼の、九条夏樹という男の生きた存在証明を、終焉を、自身の目で見届けたいと思ってしまった。

    「なぁ、九条夏樹」
    「ん?」
    「広大な母なる海から狭い陸に上がったのには、それが一番の理由かァ?」
    「そだよ。俺は欲しいものは必ず手に入れたい人間だからね」
    「どんな手を使ってでも?」
    「うん、どんな手を使ってでも」

    ゆっくりと笑って吐いたその言葉に、半間は人知れず笑みを見せた。綺麗な世界で生きていた男が闇へと足を踏み入れるその行く末を見続けるのも良かったけれど、 海底奥深く、広い世界から狭い陸に上がってきた目の前の魚の行く末を見るのも、悪くないと、そう思った。

    「ならよぉ、俺たちがこの世界から足抜けする対価に、お前が海に還るときは、その欲しいもん全部手に入れた時っつーのはどうだ?」
    「いいよ。その約束、受けてあげる」

    短い間の約束事になるけれど、よろしくね。そう言って笑った九条に、半間はゆっくりとどうやって邪魔してやろうかな、と考えながら笑った。






    九条夏樹
    その真意はどこにあるのか。

    愛美愛主
    九条夏樹に目をつけられ壊滅された可哀想なチーム

    稀咲鉄太と半間修二
    この度不良の世界から足抜けさせられたけれど、九条夏樹の行く末を見届けるまでは色んなところで顔を出す予定の、なりそこないの悪役ヒーローと部下。

    副タイトル
    3/4の世界で息をする、を回収したかのように見えて、実はまだ回収していない。

    ショーペンハウアー
    ドイツの哲学者
    名言多いからぜひ調べて見てね

    世界の約4分の3
    海は地球全体で約71%だけれど、そうすると書いている話しが全部合わなくなるので、約4分の3(75%)にしています。





    「ま、マイキー君!?」
    「タケミっち!?」

    なんでここに!そう二人が声を上げた別の場所で、銀糸の髪を簪で纏めた少年もまた、そう言うのは要らないんだよなぁ、なんて言いながら天を仰いだ。

    九条夏樹が花垣武道と手を組んだ。その噂は瞬く間に不良界隈へと広がった。
    気難しい海の王が、一人の人間を懐へと招き入れたことに、淡い期待がはびこる。自分も、その懐の中へと招いて欲しい、と。されど、そんな期待など聞く耳もないと言っているように、九条の世界は依然と狭いままだった。九条の行動は一般人の思考では到底理解できない程、自由に、時に大胆だった。花垣武道という人間のストッパーが出来ただけで、彼の其の生き方は、変わりはしなかった。そうして迎えた8/3。本来ならこの場で行われる東卍と愛美愛主の対決は、先日九条の手によって潰えた。火種の原因ともなるあのカップル暴行事件すら、新聞に上がる前に姿を消した。
    だからこそ、九条は雨雲が飛行する空を見上げながら、芭流覇羅のことを考える。長内の件は未然に防いだ、と油断していたせいか、それとも原作のようにはならないと高を括っていたからか。鉢合わせる。東卍の副総長、龍宮寺堅…通称ドラケンと、彼の思い人である少女、佐野エマと。

    「…いやな予感がするなァ」
    「嫌な予感?」

    なんだ、それ。と首を傾げて尋ねてきたドラケンを横目に、九条は構っている暇はない。と声を投げた。もしかしたらそれなりに頭が回るやつが居る可能性がある。そんな僅かながらの可能性を視野に入れ、もしかしたら、という可能性も脳裏を過ぎらせる。稀咲が俺の襲撃前に、彼らへ計画を話していた、そんな可能性を。

    だがまぁ、どのみちこの雨の中、傘を差しているとはいえ女の子をほったらかすわけにもいかない。だから、九条は声を放つ。おめぇの彼女だろ。家まで送ってやれ。
    そんな言葉の端を彼方において、ぽちゃん。髪から滴る雫が、地面に落ちて跳ねた瞬間、目の前から魚が泳いで消え、長ったらしい髪をまとめていた簪が、カランっ、と乾いた音を立てて地面を舐めた。

    「九条!!」
    「俺の事は気にしなくていい!早くその子を連れて離脱しろ!!」

    そう言って後ろへと飛んで避けていた身体を無理やり立て直すべく、バシャン、と雨溜まりへと片足を叩きつけ、同時にそれを反動にするべく重心を前へと傾け、九条は反撃へと走った。泥で汚れた特攻服が、まるでその反撃を無造作に受ける彼らの心情のように不幸だと言わんばかりの色味を帯びていたせいで、九条は思わず密やかに、知ってるか、と声を上げた。

    「世界の不幸や誤解の四分の三は、敵の懐に入り、彼らの立場を理解したら消え去るらしいぜ」

    そう意気揚々と言葉を吐いて、相手の懐に入る九条には、その有名なガンジーの言葉すら、理解出来るわけがなかった。だって、目の前の男どもの不幸など、九条にとってはどうでもいいから。

    海のさざ波が、辺り一面に木霊する。海の王たるその姿に、人々は恐れを抱きながら、その荒波になすすべもなく飲み込まれていくだけ。殴りつけながら、少しだけ口角を上げたその顔を見せつけながら、九条は少し手荒にはなるが、と声を上げた。

    「襲撃したってことは、反撃される覚悟、あるんだろ?」

    そう言葉を繋いだ瞬間、なめらかに泳ぎ始めた彼を視認した人間なんて、この場にどれほどいただろうか。ザパッ、と魚が陸に上がる水しぶきが、鼓膜に広がる。美しい、白と黒の皮を着こなす海の王たるあの魚が、波で揺らぐ海の表面を飛んだ気がした。

    「綺麗…」

    思わず。そんな感覚の声色だった。そんな声色を放ったエマに、ドラケンは確かに、と声を放った。雨が降り注ぐこの場所で、彼は美しく泳ぐ魚を連想させた。不意に、目の前で倒される人間を見ながら、ドラケンは首を傾げた。噂される息苦しさすら感じない世界。海の安心感すらをももたらすその空間に、彼は不意に安堵を浮かばせた後、ギクリと心臓が跳ねた。喧騒蔓延るその世界を前にして、気を抜いた自分の感情に、得体の知れない気味の悪さが、腹を煮つめた。

    「なつ!!」
    「タケ!伏せろ!!」

    うわぁ!?と声を上げながらサッと頭を伏せるタケミチを横目に、トトッ、とバックステップで目の前の“愛美愛主”から距離を置き、チッ、と舌を打った。

    「タフだなァ」
    「くそガキがァっ…!!!」

    ボロボロのその姿を見て、くっ、と口角を上げながら着ていたバンカラマントに夏の夜風と、雨で湿った空気を中に孕ませ靡かせながら、人の感情というのはさ、と言葉を吐いた。

    「人間の感情の四分の三は、子供っぽいものだ。残りの四分の一はもっと子供っぽい」

    有名なロマン・ロランの名言だ。好きな言葉でもある。納得出来るその言葉に、ゆるりと笑って、俺はその四分の一を今ここで発揮してもいいんだよ?と挑発を滲ませながら言葉を吐く。長い髪が雨を落として、ポタポタと雫が地面を弾き、そこから海が広がるように雨音が踊る。ぞわりと広がる不穏な空気に、じゃり、と目の前の男達が音を立てて足を引いた。

    「なっち!!」
    「…佐野くん、まずはその子を避難させろ!」
    「エマ!?」

    ちょ、なんで逃げてねぇんだよ!!とびっくりした声を弾かせながら、更にこの後自分たちのチームと彼の兄であるチームが来ると伝えられた。俺たちと、彼らを鉢合わせて、俺を含めてチームを潰すつもりだと言われて、なぁるほど、と声を上げた。

    「つまり俺はそのつまんねぇ作戦にまんまとハマっちゃったってことね!」

    やっちまったわ。そう言ってカラリと笑った九条は、目の前のしてやったりな顔をする男たちを横目に、ぱちゃ、と雨溜まりを足で弾かせた。次いで、はぁ、とため息を吐いて、多分これの主犯って、佐野くんのお兄さんでしょ。緩やかにそう声を出して空気を孕ませたバンカラマントに腕を戻した。

    「マイキーくんのお兄さん?」
    「ほら、あん時ストーカーって俺が言った…」
    「あの人が!?」

    なんでそんなこと、とびっくりしたような声で尋ねるタケミチに、夏樹は目的は俺だからね、と声を上げた。

    「目的の人物がチームにいる場合、潰した方が傘下にさせやすいからね」

    そう言って地面に落ちた簪を拾い、マントで泥を拭って、綺麗になったその簪で九条は雨で濡れた髪をまとめた。するりと纏められた髪先を指で撫で付け水を払いながら、面倒なことになったな、とまたため息を吐いた。

    「愛美愛主も潰したのにいつの間にか黒龍と手ぇ組んでるし…。もう少し叩けばよかったな…」
    「潰した?いつ?」
    「ついこの間。カタギの人間襲うって話してたから、病院送りしたんよ。長内から解散するって言葉も聞いたんだけど…」

    きな臭いな。そう言って眉間に皺を寄せ、とりあえずここを離れようか、と声を投げれば、オイオイオイ!とイキがったような声が背後から聞こえ、その場にいる全員が、その声の主へと視線を向けた。

    全身包帯を巻いて、ボロボロの特服を着こなしてこちらへと歩いてくるその姿に、あぁ、やっぱり嫌な予感は当たるもんだな、と九条は思考を飛ばした。

    「理不尽って服きて歩いてるってよく聞くけどまさにコレだわ」

    そう言ってまたため息を吐いた九条に、目の前の男たちはクソったれと叫びながらこちらへと走って来るのを見て、骨おった方が早いかも知んねぇな、と呑気に思った。
    体の向きを変え、先程なぶっていた男どもに背中を向け、お前らは後回しだと言うように全身を包帯で巻き付けた男たちに向き直ったその瞬間、パァンッ!と弾けた音響が、耳をつんざき皮膚を焦がす。

    「は…?」

    べしゃ、と倒れ落ちるその身体にまとわりつく痛み。右下の腹から溢れる血を見て、今度は口から胃からせり上がってくる血を吐いた。

    「なつ!!!」

    はじける夏の空を連想させる瞳を大きく見開いて声を上げる男の顔を横目に、嫌な予感ってあたるもんだな、なんて九条は呑気に意識を遠くへと追いやった。

    泣きそうな彼の顔を網膜に焼き付けながら、さすがにまだ彼の4分の1も貰っていないここで死ぬなんて勿体ない人生だな、と薄れゆく意識の中、そんな言葉を脳裏に吐いた。



    九条夏樹(♂)
    まさか原作では刃物だったからチャカが出てくるとは思わないじゃん。

    花垣武道(♂)
    次回!リミッター解除案件!!
    (暴力に走る武道くんが嫌いな人はそっ閉じ案件)

    ガンジー
    インド独立の父。
    名言いっぱいあるから気になった人は調べてみるといいよ。哲学という名の証が、彼を彼たらしめていると思う。

    ロマン・ロラン
    愛の国、フランスの作家。
    ノーベル文学賞の人。作者の初めて読んだ彼の作品は「愛と死の戯れ」
    切ねぇ〜ってなった「ピエールとリュース」は個人的におすすめしたい作品。
    彼の作品は有名どころしか読んでないのでいつか時間があった時にマイナー系統の作品でも買って読んでみたい。翻訳されても尚、彼の美しい言葉の羅列、世界観、纏わせる空気は、彼の生きている時代の全てが物語ってる。


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