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    nmhm_genboku

    @nmhm_genboku

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    nmhm_genboku

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    拳を殴ろうシリーズ

    ##拳で殴ろうシリーズ

    拳で殴ればどんな事でものりきれる今回の主人公(ざっくり)

    九条夏樹(♂)
    (くじょうなつき)

    呼び方(夢主⇔相手)
    花垣武道:タケ⇔なつ
    橘日向:ひなちゃん⇔なつくん
    千堂敦:アツ⇔夏樹
    山岸一司:カズ⇔夏樹
    鈴木マコト:マコ⇔夏樹
    山本タクヤ:たっくん⇔なっつん

    東リべをこよなく愛したトリッパー。
    タケミチが地獄の中を突っ走る度に泣き、ひなちゃんが死ぬ度に血涙を流した男。
    重度の東リべオタクで転生したと知った瞬間、タケミチの幸せのために体力育成していたら、逆行してきたタケミチとばったり会い意気投合。小学、中学と喧嘩にあけくれながら力をつけていく。中学1年時では既に知らない者はいないくらいその界隈では有名になっており、いつも青と黒の色が入った服を着ていること、沸点が高いこと、無表情で喧嘩することから、着いたあだ名が「深海の弾丸」
    毎度この2つ名聞く度にだせぇなって思ってるけど、言わないし言えない。だって2つ名ってあったらカッケーじゃん!っていう心がある。




    「あれ?俺ら最後?」
    「た、タケミチさん!?」
    「九条さんたちも!?」
    「六桜の皆さんがなぜッ!!」
    「おー、そのまま。俺ら観戦しにきただけだから落ち着けー」
    「ガリ男くんうまそーなの持ってんじゃん。ちょっとちょーだい!」
    「うっす!」

    わーい、ありがとー。なんてビックワック貰った。ガリ男くんは俺に認識されたと同時にタイマン張った強者だけど、俺に負けちゃったからね!こうやってお願いすればちゃんと食べ物分けてくれる!サイコー。

    「つーかここにいるやつ全員俺らと顔見知りじゃん」
    「多分全員夏さんとタケミチさん達が1回沈めた奴らですよ。新しいチームはそもそも今日は表に出てません」
    「んあ?そうなん?ガリ男くん詳しーね」

    あざまっす!なんて言って俺にドリンク渡してくれる。うま。ポテトも頂戴。

    「なつー!?お前何してんの!!?」
    「ガリ男くんにご飯奢ってもらってた。ワックうま」
    「タケミチさんたちもどうっすか?」
    「俺らはちゃんと飯食ってきたから。ありがとう、気持ちだけ受け取っとくよ」

    断るなんて勿体ねーなー、なんて言いながらビックワックの最後の一口を食べ終えて、ごちそーさん、って言ってちゃんとお金を渡す。

    「今度道であったらその金でラーメン奢ってよ。ガリ男くんのオススメはずれたことねぇから会う度に楽しみなんだよね」
    「了解しました!」

    膝の上にハンバーガー載せてるから立てないけどしっかりお辞儀してくれるのホント好感度高いわー。マジでタイマン張った時、半殺しにしたの悪いなって思う。いやでもこちとらたっくん倒されて認識しちゃったしさ、オアイコってやつじゃん?うん。

    「あれ?阪泉くんが今日のレフェリー?」
    「夏樹さん、ちっす」
    「ちっす、ちっすー。今度俺のバイクの調子見てよ。最近俺が触ると不機嫌でさぁ」
    「確か夏樹さんのGSRっすよね?」
    「そー。俺よりも阪泉くんが触った方が走るんだよねー。なんで?」
    「え、わかんねぇっす」

    わがままプリンセスだからなぁ、別のに乗り換えっかな……、なんて言えばもう少し可愛がってやってくださいって言われたのでもう少しだけ可愛がろうと思う。

    「それでも乗り換えるなら、俺買い取りてぇっす!」
    「阪泉くんタケのバイクにも目移りしてっからだめー」

    うっ、なんて、年上とは思えないぐらいしょんぼりされたけど、タケのバイク欲しいなら俺のお姫様に手ぇ出しちゃダメだよってね。

    「ちょっとー。デブとそいつに話しかけて俺らには話しかけてくんねぇの?」
    「やっだー!ヤキモチ?ごめんね!ランラン、リンリン!」
    「んー、まぁいいけどさー」

    いつになったら俺らと殺ってくれんの?なんて言ってくるこいつらほんと半間くんといいなんでこんなに俺に殺られてぇの?タケとかアツとかじゃだめなん??

    「ランランとリンリンはなんていうか、俺じゃなくてタケとアツが目当てじゃね?」
    「んー、最初はそうだったんだけどさー、お前の戦い方みたら誰でも思うっしょ」

    深海を泳ぐ魚をどうやって殺してやろうかってさ♡そう言ってにっと笑ったその顔に眉を寄せた。

    「悪趣味ィ」
    「お前が泣き喚きながら俺らに殺られる姿想像するだけでイッちゃいそう♡」
    「中学生にいきなり下ネタぶち込んでくんのやめてくんねェ!?」

    やっだ不潔!!なんて騒ぎながらさっさとタケの元へと逃げる。

    「なつって色んな人に好かれてんね」
    「好かれてるんじゃねぇよ……」
    「あれは執着って形で依存されてんだよタケミチ……」

    はぁ、なんて深くため息を吐くたっくん達の方に逃げる俺が、なんとも情けない人間だった。ちくしょうッ……

    「よー、夏樹」
    「あぁ、久しぶりだねー“真一郎”くん」

    わーい!みんなに朗報だよ!元黒龍総長、佐野真一郎くん。実は生きてまーす!!

    「あんときゃ世話になったな」
    「むしろ俺が世話んなったし」

    あの日、わざとバイクの調子を悪くさせてこの人の所に行った。店閉める前だったからシャッター下ろして奥でメンテしてもらってた所をあの時の場地くんと羽宮くんがやってきたのだ。いやぁ、あの時追い出されたらどうしようって思ったけれど、優しい兄ちゃんで良かったわ。おかげで死なせずにすんだ。

    まぁ。そのかわり羽宮くん達、殺人未遂と強盗で年少に行っちゃったけど。ごめんて。

    「今回なぁんでこんなことになったのかわかんねぇんだよなぁ……」
    「あれ?聞いてねぇの?」
    「ん?」
    「お前最近マイキーとつるみすぎてアイツら他のやつからから喧嘩売られてるって」
    「は?」

    がしゃっ、と氷の擦れる音が響いた。

    「あ、やっぱりそうなりますよね……」
    「六桜は完全孤立の少数チームだからなぁ。倒した奴ら傘下にしねぇし、つるまねぇ。何かあっても個人の対応で夏樹は認識したり自分であだ名入れたヤツには優しいけど、他は塩っていうのがウリだったのに、マイキー達には甘いし手ぇ出すしで結構疎まれてんぜ?」
    「なんということだ……」

    まぁじか、なんてちょっとショック受けてたら、まぁ、一虎はお前に認めてもらいたくてマイキーと対立したらしいけど、なんて。ねぇー。なんで俺を起点に問題起こすん!?俺なんかした!?

    ☆☆☆

    「準備はいいかぁー!!」

    主役共のぉ登場だァ!!ってひゅー!テンションあっがるぅ!

    「あっ!夏樹さーん!タケミチくーん!!」
    「タケ、羽宮くんに舐められてんじゃん」
    「いや、この間なつがサボった時に仲良くなったから、あれでいいの」
    「っざっけんなよ!?」

    なんでそんなに俺の知らないところで交流してんの!?なんて氷ガリガリ噛みながら反発すればお前も人の事言えねぇだろって言われたのでお口チャックしまーす

    「阪泉くん、今日の仕切り引き受けてくれてありがとうございます」
    「夏樹サン達が来るなら俺が出張る必要ねぇと思うがな。くだらねぇ喧嘩なら俺が潰すぞォー」
    「卑怯なことしたら俺が潰すからなー!!」
    「武器使ってみろー!タケじゃなくて俺が潰すからなー!!」
    「武器使えー!!」
    「芭流覇羅ァー!夏樹に潰されるいい機会だぞー!!」
    「ダァっからなんでお前らそうなんの!?」

    普通の野次飛ばせ!?なんて言えばまずは俺らに伸されてから強くなれって話らしい。知らんがな。

    「羽宮くんと場地くんは1回俺に伸されてるんでェ!!今回獲物使った時点で半殺ししマース!!!」
    「ばっるはら!ばっるはら!!」
    「ビビんなー!武器使えー!!」
    「おめぇらほんっと後で1発ずつぶん殴っからな!?覚悟しろよ!?」

    なんて野次に野次飛ばせば、きゃー!なんて野太い声が出てくるのでシカトしよ。

    「お前ほんと人気モンだよな」
    「多分遊ばれてるだけだわ」

    こんなデケェところで普通に暴れないって分かっててやじ飛ばしてくる奴らだし。そう言って欠伸を漏らせば、真一郎くんはふぅん、と首を傾げるだけだった。

    ☆☆☆

    「いきなり乱戦かァ」
    「タケミチお前どっちが勝つと思う?」
    「えー、東卍かな」
    「おっら一虎ァ!!タイマン張れー!!」
    「マイキー負けんなぁ!!!」
    「やじが酷いww」

    ケタケタと笑って、芭流覇羅と東卍の試合を観る。どう抗ってもこの現状は東卍に不利かなって思ったんだけど、稀咲や他の奴らの火はまだ消えてねぇし。
    いけ!リュウ!ぶっ飛ばせ!!

    「あ」
    「あ?」

    タケがやっべ、なんて言って佐野くんたちの方を見ていたせいで、俺もチラッとそちらへと視線を向ける。あ?

    「おいゴラァ!!武器は使うなっつってんだろうがァ!!!」
    「ひゅー!九条夏樹の参戦だァ!!」

    ゴパッ!と相手の顔を踏み台に、走る。待ってww人多いwwww

    「ひゃはっ♡夏樹さぁん!」
    「きゃー!!?」

    近寄ってくんなァァァア!!!なんて半泣きで半間くんから逃げながら車の方へと飛んで行く。今回原作と違うのは、場地くんが稀咲の動向を嗅ぎ回るためじゃなく、羽宮くんをほっとくことが出来ないから出ていったこと、だけど、彼が死なないというのはまだ分からない。血のハロウィンと名付けられたこの抗争で、場地くんが死ぬというのを防がなくてはならない!!

    「足場悪ぃなァ!ったくよぉ!!」
    「夏樹さぁん!俺と殺りあいましょうよぉ!」
    「半間くん武器使わねぇじゃん。イイコチャンなおめーは大人しくリュウと殺りあってっちょ♡」

    トーン、と大きく相手の顔を踏み台に飛んで、やっとこさ廃車の上へといき、羽宮くんの方へと向かえば、場地くんが二人の間に入ってもうやめろ!って言ってた。
    おっと!!?原作とは違うぞ!?

    「ちょ!?鉄!?なんでお前下にいんの!?ボス守れや!?」
    「無茶言わないでくれません!?」

    数多くて無理です!!なんて原作ではタンクとして使ってた奴と下で応戦してて2度見した。オメーそんなんでよくタケと喧嘩できたな!?

    「もうやめよう、一虎!真一郎君だって許してくれる!!」
    「どけよ、バジ。真一郎君くんが生きてる?嘘だ。だって俺はあんとき!!」
    「夏樹さんが!!助けたんだよ!!」
    「あ、原因俺???」

    えっ、まって原因俺??なんで?今回助けたやん。普通に頑張ってやったやんなんてちょっと困惑してたら羽宮くんは真一郎君が死んだと思ってて、佐野くんに恨みを持っている。けれどその真一郎君は、俺が助けてるから、話がややこしくなってんの??えっ?

    「やっぱあん時しっかり伸しときゃよかった?子供だったからって手ぇ抜いたのダメだったか???」
    「言ってることが物騒っす」
    「さっせん!」
    「えー、でも、納得いかなァい」

    ちゃんと殺人未遂だったじゃん、って言えば年少時代の頃は覚えてない、と。てめぇそれでも特攻かぁ!?アァン!?

    「とりあえず、羽宮くん。武器から手ぇ離そ?」

    ちっちっちー。怖くないですよー、なんて言いながら鉄パイプよこせって意味で手を出せば、揺らがれた。なんでや!!!

    「おめぇ!あと5秒で渡さなかったらぶん殴っからな!?」
    「えっ!?」

    なんで!!そんな!!楽しそうな顔すんの!!!普通はしないからァ!!!

    「佐野くん!!」
    「っ!?」

    油断してるところを狙ってきた半間の攻撃から守るように彼の腕を引いて後ろへ隠せば、ビッ、と脇腹の服が何かによって裂かれる。薄皮1枚。血は出ていないけれど、ヒリついたそれに、思わず顔を顰めれば、あれ?って声が聞こえてゾッとした。
    半間ァァァァア!!!てめぇなにしとだぁ!!!

    「……まずひとつ。それどっから出したん」
    「んー?これね、一虎くんから預かってんの♡」
    「はーん……?OK、羽宮くん諸共潰す」
    「ひゃはっ」

    ゴッ、と半間の顔を蹴りあげ、舌を打つ。車の上から転げ落ちたくせにタフだな。なんて思いながら、トーンと廃車の上を飛ぶ。

    「深海が泳ぐぞ!!逃げろおまえら!!」

    佐野くんのその声を置いて、ドンッ、と勢いよく飛び出す。タケがやっべ、なんてアツ達と言って立ち上がったのを横目に、散り散りに半間から逃げる彼らの間を縫って“死神”へと這い寄る。振り返った顔面を思っいっきり蹴りあげ、ふらついたその足場をすぐさま払う。腹から地面に着く前にみぞおち目掛けて蹴りあげ、胃液を吐き出す顔面に向けて殴る。

    「4コンボォ!」
    「なつやめろ!!」

    騒ぐギャラリーの声を無視して“死神”の方へと再度向かおうとすれば、目の前にリュウが立ち塞がる。

    「リュウ、邪魔」
    「申し訳ねぇっすけど、こいつは俺の獲物です」
    「なつー!!今日は東卍と芭流覇羅の対決だからー!!」
    「落ち着けー!!武器使うのは悪いけど、使ったやつはお前のお気に入りだからァ!!」
    「半間ァァァ!!お前なつの機嫌損ねんなー!!」

    はぁ、と息を吐いてその場をふらっと立ち去る。あれ?なんてちょっと残念そうに声を上げた半間に、ゆったりと声を上げた。

    「精々辞世の句読んどけよ、“死神”がァ……」
    「はぁい」

    楽しみにしてるねぇ、って言いながらナイフをひらひらする死神を睨みつけた。

    「マジで殺す。絶対ェ殺す。泣いても許さん。俺のお気に入りだったのに。マジで死ね」
    「いつもの沸点どこいったよ」
    「今日は峠責めにいってる」
    「沸点かえってこーい」

    ギャハハって笑ってるカズたちの何気ない会話が上がった血圧を抑えてくれる。うっ、癒しッ……!

    「ハァー……しんどい」
    「おっ、おかえり、沸点」
    「峠は無事責めれたようだな沸点」
    「頑張ったな、沸点」
    「おめーら後で覚えてろよ!?」

    俺の名前は九条夏樹だからァ!!!

    「会話、聞こえっか?」
    「なつが携帯仕込んでくれたおかげでね。あん時わざとバジくん達の所に行ったでしょ」
    「さぁ、俺ァ馬鹿だからわかんなァい♡」

    はいはい、なんて呆れたように言うその顔に、まぁ、後でちゃんと謝ろうと思った。
    だが半間ァ!てめぇは後からボコ殴りだからなぁ!!!

    「あ、和解してくれそう」
    「俺がイラついてる間に解決しないで!?」

    誰も死ななくて安心した、なんて泣きそうな顔でいってるタケを見て、せやな、なんて言えるほど、俺は大人じゃないんだろうなぁ。

    「まぁ、俺が途中入っちゃったし、もしアレなら仕切り直しでもいいんじゃね?」
    「いや、俺ら(芭流覇羅)の負けだよ。どんなことがあっても武器使っちゃったしさ」
    「へぇ?」

    夏樹さんの本気も見たかったのに残念だなぁ、なんて呟いた羽宮くんをは?なんて間抜けな声を出して思わず見る。

    「この抗争に乗じて本気の夏樹さんを見る。そんであわよくば俺らの誰かを殺してしまった罪悪感のまま、チームのトップになってもらおうと思ったんだけど、なかなか上手くいかないなぁ」
    「冗談がすぎるぞ……」
    「冗談じゃないよ?」

    じゃなかったら半間にナイフなんて預けないよ、なんてゆったりと笑った羽宮くんを見て、ゾッとした。うっわ、まって、今回もしかして俺??俺がなんかそういうキーパーソンになってる感じ?冗談は良そう!?

    「俺誰も下につける気ないから……」
    「勿体ないなぁ。タケミチ君でもいいけど、彼は彼女がいるからさ。弱点ない方がトップとして親しみやすいじゃん?」
    「……それ、誰の差し金?」
    「あれ?俺そんな素振り見せたっけ?」
    「いーや?でも君がそんなこと考えるとは思えなかったからサ」

    今ゲロれば許すけど?なんて言ってもにっこり笑って教えないって言われたのでマジでどうにもなんねぇって。

    「なつ?どうした?」
    「……いや、なんでもない」

    ☆☆☆

    「夏樹さんは、六桜に居続けていい存在じゃねぇ」

    褐色の男が、そう呟いた言葉は、チームをもつ誰しもが思うことだった。
    まるで重力(水圧)を感じさせることなく、飛び出す(泳ぐ)弾丸のように、それは美しい。

    「俺は欲しいと思ったものは必ず手に入れる。半間、俺の駒として俺の下につけ」
    「ひゃはっ♡いいぜぇ、その代わり手ぇ貸してちょ」

    ズタボロで、先程まで夏樹の制裁を受けていた半間はボロボロになりながらも目の前の男。稀咲鉄太の要求を飲むべく手を取った。

    九条夏樹は、花垣武道よりも上に立てる人材だ。それを潰しているタケミチの存在を、稀咲は許せない。好いた女を守るために力をつけたことには感服する。けれどそれは、九条を巻き込んでいい事に繋がらない。稀咲は、九条の下で、自分を使って欲しいのだ。あの美しく深海を泳ぐ弾丸の傍に、自分がいたいだけなのだ。
    それは叶えられる願いだと、男は思っている。



    少し、昔の話をしよう。

    これは六桜が結成されて、しばらくの話だ。九条夏樹と言う存在は、六桜というチームがなくても有名だった。
    深海を泳ぐ魚のように深く、必ず撃ち殺すと言わんばかりの弾丸のように鋭い拳。1度戦えば分かる。幼いながらも、彼に勝てる人間は居ないだろう。
    正しく不良の頂点になるべくして生まれた存在。九条夏樹という存在は、そういう星の元に生まれたはずだった。

    そう、六桜のメンバーさえ、いなければ。

    多くの人間(不良)が気に入らないと言葉にしただろう。多くの人間(不良)が、納得いかないと叫んだことだろう。
    花垣武道はまだマシだった。彼は九条夏樹という存在を大いに理解していたし、その存在に隠れることなく闘える。だからこそ、稀咲も、東卍も、他の不良チームだって、二人の間に入ろうなんて思わなかった。けれど、それ以外の、九条夏樹という人間を心酔している奴らは違う。昔、“黒い悪魔”(ブラックデビル)200人対六桜のメンバーでの抗争があった。タイマンではなく、乱闘。レフェリーは当時黒龍のトップである真一郎が務めた抗争。

    後の“悪魔狩り”と呼ばれる事件。
    この時、九条が“深海の弾丸”と言われ、恐れられた事件だ。死者は出なかったが、重軽傷者186人。これら全て、黒い悪魔のメンバーだった。骨を折る音が、叫び声が木霊する、酷い乱闘だった。六桜の千堂敦達4名は十数名を伸す間、武道と九条はそれを上回る速さで他を淘汰。
    トップが倒れ込むまで、九条はまるで深海を泳ぐ魚のように、人を踏み付けながら、空を舞った。
    トップ同士が争えるようにお膳立てをしながら、邪魔をされないように、ひたすら倒すその姿に、不良達は畏怖と恐れを持ちながら、憧れたのだ。だからこそ、六桜というチームをでかくするために、傘下に下ることさえ納得していたのに、彼らはそれを受け入れてくれなかった。

    海底を泳ぐ魚は、下ろした釣り針すら興味がなかったのだ。

    なんのために喧嘩をしたのか。六桜というチームの存在を知らしめるためにしただけだと言われた瞬間、誰もが酷く憔悴した。どんなに、どんなに願おうとも、九条夏樹の下に着くことが出来ないという現実に、酷く落胆したのだ。
    だから多くのチームは彼らに喧嘩をふっかけた。些細なことでもいい。彼の泳ぎをまた見れるなら、何でも良かったんだ。

    されど、思うのだ。

    九条夏樹を六桜というチームから外すことが出来れば、と。

    「っくしゅ!!」

    あー、なんてちょっとおっさん臭いくしゃみをした九条は知る由もない話だった。
    最近力をつけているチームから喧嘩を売られ、5分も経たずに倒してしまったが、そのせいで学校には遅刻である。

    今更行く気しねぇなぁ、なんて思っていれば、バブの音が聞こえて首を傾げた。

    「なっち!!無事か!?」
    「んあ?佐野くんじゃんお久〜」
    「……んだよ怪我してねぇじゃん。誰だよデマ流したやつ」
    「林田くんたちも。なにしてんの?」
    「なっちが喧嘩で怪我したって聞いて」
    「俺が?えっ、なに心配してくれたん?やっさし〜」

    怪我なんてひとつもしてないよ〜。なんて笑いながら山ずみにされた人間の上で座るその姿のなんと様になることか。

    「なっちは俺の友達じゃん。心配ぐらいするよ……」
    「……ふぅん?ま、安心しなよ。怪我なんてひとつもしてねぇから」

    よっ、なんて声を出してその山から飛び降りた九条に、ドラケン達は山ずみにされた人間を見る。あれって最近勢力上げてきているチームだったような気がする、なんて思っても口には出せなかった。

    「つーか君ら学校は?」
    「あんたが言えることかよ」
    「それはそれ、これはこれ」

    俺頭いいもん、なんて場地の言葉に小さく笑いながら反論し、携帯を弄る。あ、なんて言葉を出す九条に、三ツ谷が首を傾げた。

    「なに?」
    「あー……特服頼んでた業者から発送延期の通知来てた。やっべ」

    1週間後いるんだけどな……まぁ、いっか、なんて。その言葉に特服新しくすんの!?と三ツ谷が食いつく。彼はそういう服飾系がそういえば好きだったな、なんて思いながら、まぁ、する予定だよぉ、と小さく呟きながら頷いた。

    「し、刺繍は!?どんな形!?」
    「刺繍?えーと、待って、画像見せる」

    説明すんのも面倒、なんて言いながらこれ、と見せれば、目ん玉キラキラしながらかっけぇ、って言われた。とりあえず掲げるのも面倒だから携帯渡しておくね。

    「特服ってどっかと闘うんか?」
    「ん?あー、まぁ、俺だけね。タケには内緒にしててよ。流石に黒龍から喧嘩売られたなんて言えないし。まぁ、特服なくてもいっかなー」
    「は……?マジで言ってんの?」
    「えっ、こわ……」

    ギンッ!と据わった目で見られて思わずホールドアップ。えっ、なに?なんか悪いこと言ったっけ???

    「六桜の看板背負って行くんだろ?」
    「んー、奴さん六桜というか、俺にだけご指名だからなぁ、どうだろ。ちょっとカッコつけたいから特服作ろうとしただけだし…。業者が間に合わないって言うならもう仕方なくね?」
    「……が……る」
    「はい?」
    「俺が!!!つくる!!あんたの特服!!つらせろ!!!」
    「ういっす!!」

    さっせん!お願いします!!なんて思わず頭下げちゃった☆いやだってめっちゃ怖いし。

    「えっ、えー……なに、ほんと俺なんか悪いこと言った?」
    「まー、三ツ谷、いつもなっちが特服着てねぇことに不思議に思ってから」
    「タケミっち達は着てんのにな」
    「あぁ、そういう?でもあそこまで怒ることなくね?怖いんだけど、逆に」
    「まぁ、許してやってよ」

    俺もなっちの特服見てみたいし、なんて笑ってそういう彼らにふぅん?と声を出した。九条からしてみれば、六桜というチームを作ったのは自分と武道だが、それに縛られているようで、特服はあまり好きじゃないのだ。好きなように柄を作れる訳でもない。金もねぇし、既存のアップリケで縫い合わせたそれが、あまり好きじゃない。

    「適当でいいよ、ほんと。実際それそこら辺のアップリケ縫い付けてやったようなもんだし」
    「あ?」
    「わー、東卍の人に特服作ってもらえるなんてラッキーだなぁ!!!」
    「まかせろ!サイッコーにかっこよくしてやるよ!」
    「こっわ……」
    「ンッグハッwwwwww」

    まるで漫才だ。九条があまり好まないようなのは作りたくもないから、三ツ谷は根掘り葉掘りどうしたいかなんてメジャーで採寸しながら聞くけれど、それに対して適当に、とか、えー、わかんないとか言っているのにさらに怒る。

    「てめぇそれでも六桜か!!!」
    「だぁからごめんって!!!」

    あんまり凝ったのなんて頼めねぇよ、なんて困ったように言えば、さらに三ツ谷の逆鱗に触れる。

    「言え」
    「え、待って怖いって」
    「いいから言え!!どんな特服にしてぇんだよ!!六桜サンよぉ!!」
    「ねぇ君ほんとあの温厚そうな三ツ谷くん!?」

    ☆☆☆

    「良かったなァ、三ツ谷」
    「おう!夏樹さんの特服俺が仕立てられるなんて夢見てぇだ!」

    六桜の特服は他のチームとは違う。それぞれがそれぞれの色を持ち、それぞれの好きなような形で存在している。
    花垣武道の特服は長ランと東卍の特服に似ているやつだし、千堂敦や鈴木マコトの特服は芭流覇羅に似ている。山岸一司と山本タクヤの特服は軍隊でよく見るやつだった。好きな形で好きなように作られた特服は、一見してバラバラの組織に見えるが、内側の布は全員桜色の綺麗なサテン生地だ。生地が翻った時のあの鮮烈な色は、忘れられないだろう。マイキー達が初めて九条の特服を見たのは、“悪魔狩り”の時だ。
    鮮烈だった。蒼い魚のヒレのようなバンカラマントと、軍服のような服装。下はストレッチパンツというスタイルだっけれど、あのマントを靡かせて人の上を泳ぐ姿は、一目見たら早々と忘れられるようなものじゃない。

    「5日で仕上げる」
    「集会に呼びつけようか?」
    「推しにその場で着て貰えるかな……」

    やべぇ、今更ながら失礼な態度とったかも、なんて。まぁ、夏樹さんタジタジだったし良いんじゃねぇの?なんてパーちんの一言でそれはもうどうにもならないと全員悟った。

    桜と浮雲、バンカラマントには流水のような刺繍。それだけが、九条夏樹を六桜に閉じ込める。美しさだけを取り入れたそれらは、シンプルだからこそ、三ツ谷の心を躍らせた。

    ☆☆☆

    「あ、なっち、特服出来たって」

    今日お披露目するから集会来てね、なんて今日も元気に遅刻をしている俺のところに佐野くんが伝言に来て俺はビビることになる。

    「えっ、頼んだのって3日前だったよね???」
    「なんかテンション上がったって言ってた」
    「寝た!?ねぇ、三ツ谷くん寝た!?」

    多分?なんて言った佐野くんに、ほんとそういう所しっかりさせて!?なんて俺が言えたギリじゃないけど注意しておく。徹夜でやれなんて誰も言ってねぇからな!?

    ☆☆☆

    「やっぱりその特服にはポリエステルギャバが最適ですよね!」
    「おお……すご……」

    マントがヒラってる。ちゃんと流水のような刺繍もある。これ時間かかったろうに…

    「すごいね……」

    あっという間だ。魔法みたいだわ、なんて思わず言いそうにも無い言葉を繋いで、笑う。魔法のようだ。本当に。
    ここまで綺麗に刺繍できる人も居ないだろうに。すげぇなぁ……。

    「ありがと、三ツ谷くん。これで、“六桜の九条夏樹”として、喧嘩ふっかけられる」
    「大寿は、手強そうですか?」
    「んー、どうだろ」

    泳げれば、負けないよ。
    ゆったりと、風を受けながら靡く髪が、マントが、肩紐が、彼を包んで離さない。

    「まぁでも、せっかく綺麗に仕立ててくれたんだ。綺麗なままで、帰ってきてあげる」

    ☆☆☆

    「やぁっほぉ、大寿くん、元気ぃ?」
    「九条、夏樹」
    「お望み通り、“ギャラリー”連れて来てやったよォ?」

    ゆったりとそう言葉を繋いで笑う。細められた瞳が、大寿と黒龍を映す。

    「特攻服か。仕立て直したんだな」
    「そ。ミッツーが仕立ててくれたんよかァっこいいっしょ?」

    ピッタリすぎてちょっと怖いけど。なんて言いながらマントをスカートのようにつまんで持ち上げる。

    「まるで魚だな」
    「ん?」
    「その姿。弾丸というよりも深海を泳ぐ魚のようだ」
    「ポエマーか?」

    特攻服ひとつで印象なんて変わんねぇだろ、なんて言えばはぁ、とため息吐かれた。失礼じゃね?

    「ひとつ聞く。今回貴様は“六桜”の九条夏樹としてきたのか。それとも俺と喧嘩をしてきた“ただの”九条夏樹としてきたのか。どっちだ?」
    「返答次第でなにか変わっちゃう?」
    「そうだな。俺一人か、こいつら全員かと言ったところか」
    「じゃぁ、答えは決まってる」

    六桜の九条夏樹としておめぇの前に来たんだよ。ニッ、と不敵に笑う九条を見て、そうか、と言葉を吐き、大寿も不敵に笑った。

    「その首!寄越せやァ!!!」
    「取れるもんならやってみなァ!!!」

    黒龍VS六桜(九条夏樹)
    いざ開戦である

    ☆☆☆

    泳ぐ、泳ぐ。
    地面を、空を、海底に潜む魚が、大寿(獲物)目掛けて、泳ぐ。

    はためく蒼色のマント、まるで餌だと言うように蠢く肩紐。大寿の拳をサラリと交わし、その腕に足をつけ、蹴り上げる。

    翻る桜色した内布が、九条を六桜として、君臨させる。

    「どうした、柴ァ。精鋭連れてきてんのに俺の特服に触れてすらいねぇぞー」
    「この、深海魚がァ……ッ!!!」
    「あっは、いいねぇ、深海魚!確かに俺ァ魚だ。けど、それで終わるなら弾丸なんてつかねぇよ」

    殺るなら、ワンショットだ。
    そう言ってコンッ、とドアをノックするような仕草をした九条を合図に、周りの人間が次々に膝を着く。

    「貴様ァ!!!」
    「ははっ、ウケるww」

    後ろから鉄パイプ振り抜くイヌピーの攻撃を下に身体を落とすことで避け、逆にその腕ごと足で巻きとり、背後に回す。

    「おっらぁ!!!」

    ゴギッ!と肩の間接を外す。叫び声がうるさくて思わず横へと蹴り転がす。あー、テンション上がんなァ、オイ!

    「イヌピー!」
    「逃げろ!ココ!!」
    「あーいてしてちょーだい♡!」

    ゴッ!と腹を蹴りあげ、更に肩を掴んで頭突きと腹パン。やっだー!逃げないでよー!!

    「俺ァね、潰すって決めたらちゃぁんと潰すの。だぁれのお膝元で金稼いでたかしっかり躾てやんなきゃァ」
    「この、悪魔がァ!!!」
    「だぁからポエマーかってんだよ!!」

    ブンッ、とおおよそ人が出していい風圧じゃないその拳を避けて、振り抜かれた腕を掴み、思いっきり投げる。一本!

    「……神よ、なぜ私にばかり試練をお与えになる……」
    「は?」
    「悪魔相手では我が精鋭も難しいと思っていた。なのに、なぜ……なぜ私が地に伏せなければならない!!!」
    「まっじッ!?」

    グンッ、と起き上がると同時にこちらへと拳をふりあげた大寿くんに、滅茶苦茶やな!?なんて言葉を出す。

    「今日タケいないから深くは潜らないようにしてたんだけどなぁ。大寿くんタフだし、止むなしって感じか」

    怒られるのは嫌なんだけどなぁ、なんて言って軽く飛んで向かう。タイミング合わせて蹴りあげられる足を交わし、みぞおちに向かって拳を突き入れた。

    「ご、ふっ…ぐっ……」
    「もう動かない方がいいよ。肺にねぇ、骨が刺さってるから」

    救急車、ちゃんと呼んであげるからいっぺん沈んどけ、なんて言って脳天目掛けてつま先をヒットさせる。
    ゴンッ!と重たい音が響かせて、やつは倒れていった。

    「んー!いい音!」

    ゆったりと、深く息を吐いて、ゆったりと、振り向く。あー、そういえばギャラリーいたなぁ。なんて目を細めながら口角を上げれば、ケツポケットに入れていた携帯が鳴る。

    「んあ?タケ?どうしたん?」
    『お前今日ひなん家で映画鑑賞するって言ったのにどこいってんだよ!?』
    「んー、ちょっと散歩。今日来れそうにねぇわ。ごめんねぇ」
    『……なんかあったか?』
    「なんにも。タケが心配することなんて、なぁんにもないよ」

    ゆらり。水の中に落ちかけた思考を戻す。首元で止めてたマントを外して、今日もいい天気だねぇ、と声を出した。

    「なんかあったら連絡するよ」
    『……分かった。明日ひなから文句言われても助けねぇからな』
    「へぇい」

    緩やかにそう言葉を上げて、電話を切る。

    「もう悪さしないでね」

    ゆったりとココくんにそう言いながら、雑音の響くギャラリーの中へと帰る。

    「流石なっち!!」
    「ほーら、三ツ谷くん。ちゃんとほつれる事無く帰ってきたよ」
    「すげぇな……」

    ゆったりと笑ってみせたその光景を、稀咲はじっと見つめる。

    「俺が欲しいのは、やっぱり夏樹さんだ。半間。明日から俺の指示通りに動け」
    「ばはぁっ♡こりゃぁ楽しくなるぜぇ」

    可愛そうになぁ、なんて。そんな声は喧騒響くギャラリーのせいで彼の耳には届かなかった。



    「九条夏樹は思考を“潜らせる”事で殴り合いに必要な判断を最適化しているんだ」
    「潜るって言ってッけどそこまで深くは潜ってないデショ、あの人」
    「花垣武道が近くに居れば深く潜っていることは知っている。俺はあいつの位置になることで夏樹さんを不良の頂点へと押し上げる!」

    ぐっ、と手を握る稀咲を見て、半間は首を傾げる、まるで、深海に潜った九条を知っているような口ぶりだったから。

    「稀咲、見たことあんの?」
    「…一度だけだがな」

    息もできない。立ち上がれない。まるで本当の深海にいるように、光さえ通ることのないあの瞳に見下ろされた人間の末路を知っている。稀咲は息をその光景を偶然見ただけだ。近くに誰もいない廃墟に佇む海底を、見ただけ。何もこちらを見ていないのに、その溢れる雰囲気だけで、稀咲は固唾を飲むことしか出来なかったのを覚えている。

    “潜る”為の条件は簡単だ。喧嘩をふっかければいい。けれど生半可な強さでは意味がない。“潜る”ための条件には値しない。

    「だからこその橘日向と花垣武道だ」
    「その二人を襲うんだっけぇ?」
    「花垣は橘日向が狙われていると知ればいち早く俺を疑うだろうが、そんなことはどうでもいい。九条夏樹。あの人を“潜らせ続ける”事が出来れば、俺の勝ちも同然だ」

    花垣武道が手にする九条夏樹の手綱を自分もしくは東卍の誰かが持てばいい。それさえ手に入れることが出来れば、あとはじっくりとこの世界で佐野万次郎と一緒に闇に落とせばいい。

    そうして、続けられた計画。途中でまさか黒龍との抗争が入るとは思わなかったが、稀咲にとってしてみれば、九条の焦りが手に取るように分かった。敢て登校時間に鉢合わせし、“六桜”のメンバーとの接触を最小にしたのも功を奏した。
    緊張の糸が途切れない。いつ誰かに狙われるかわからない恐怖。視線だけを注ぐだけでも疲弊させることは簡単だ。毎日。毎日。九条夏樹だけを“見ている”だけ。そうした精神攻撃を続けて約二ヶ月。九条と花垣が東卍の集会に現れた。

    「今回集まって貰ったのはほかでもねぇ。俺らのチームでなっつを預かることになった!」
    「ほんとは俺らの所で守んなきゃなんねぇのに。ごめんね…」
    「潜んないで済むならどこでもいいよ。ほんと」

    ぐったりとしながらもドラケンの足を背もたれにするそのふてぶてしさよ。やはり強者である。

    「迷惑かけんなよ!?」
    「もうこの時点で迷惑かけてるからこれより下がないようにするわぁ」
    「自覚してるなら立って!?ドラケン君動けないだろ!?」
    「ムリ~。もうほんと立ってるのもしんどいんだよ。これ以上はホント無理」
    「まぁまぁ、タケミっち。少しぐらいなら特に問題ねぇから」
    「ドラケン君は甘すぎるんだよ…」

    むしろここまで疲弊している夏樹さん初めてなんで、とちょっと困ったように言われた。タケのせいだー!俺は家で療養したいって言ったのに東卍に預けるって言ったタケのせいだー!!いつか殺す。

    「しんどい」
    「とりあえずお前は浮上できるまで東卍にあずかってもらうから!」
    「別に六桜で行動し…ひなちゃん危なかったね、そういえば」
    「俺はひなの方につくから、お前の面倒見れねぇし。あっくん達に守られるよりもマイキー君たちの方が安心だろ?鉄もいるし」
    「半間もいるけどなァ!」
    「深海魚ちゃーん!」
    「死にさらせぇ!!!」
    「夏樹!!」

    潜ってる時に暴れようとすんな!なんて怒られた。ウッ…推しに…推しに怒られた…。

    「夏樹さん無事ですか?」
    「無事じゃない。鉄がしっかりあの死神調教してないから。今だとホントに殺しそう」
    「珍しいですね。ここまで“潜る”のは」

    心配そうな鉄の顔を見ながら、太寿君のせいで浮上するタイミング逃したんだよねぇ、と困ったように言葉を吐いた。

    ★☆☆

    「うーん…」
    「夏樹?どうした?」
    「最近視線を感じるんだよねぇ」
    「大丈夫か?」
    「んー、距離的にこっちが追いかけても逃げ切られる距離だし、危うく潜りそうになるなァ…」

    話は数か月前に遡る。背後の視線が気になるお年頃の女の子みたいな行動をとっていれば、タケからどうしたのかと聞かれ、素直に相談することになった。昔はそういうのは自己解決していたけれど、やめろって言われたのでしっかり言う事を大人しく聞いている。

    めんどうくせぇなんて呟きながら眉間のしわを親指で伸ばす。つーかなんで視線だけ?普通は殴りかかってこない??

    「…タケちゃんよぉ。実はこの作戦考えたやつ知ってるでしょ」
    「なつちゃんも確信してんじゃん」

    はぁ、と二人で盛大にため息をついて、どうしようかなぁ、と九条が言葉を出した。

    「乗ってみる?」
    「乗るのは良いけど戻れなくなりそう」
    「昔みたいに制御出来ねぇとか?もう起きないと思ってたけどちげぇの?」
    「残念ながら“潜れる範囲”が広くなっただけで、制御は違うんだよなぁ、コレが」
    「よくわかんねぇけど、それなら誰かと一緒にいるとかしてみるか?」

    四六時中一緒にいるとかどんな暇人だよ、なんて言いながら笑っていれば、まぁホラ。恰好の暇人がね、往来してたよね。

    「タケミっちになっちじゃん!何してんの?」
    「暇人いたわ」
    「いたなぁ、暇人」

    マジかぁ、なんて。思わず二人して頭を抱えた。
    目の前の東卍の佐野君たちが不思議そうに首を傾げるが、ちょっと詳しい現状を説明するには言葉が少ないうえにこの原因が東卍にいるやつのせいだからどうしようもない。思わず二人で肩寄せてどうする?東卍に頼むにしても面倒だぞ、って言う押し問答した。律儀に待っててくれてた佐野くん達は育ちが良すぎると思う。

    ☆★☆

    「なっちにストーカー?」
    「ストーカーって言うか、この場合精神攻撃されてるから喧嘩売られてるのと一緒やで」
    「せーしん?」
    「おい!パーちんの脳は空気みてぇに軽いんだぞ!もっと詳しく言え!!」
    「そうだそうだ!!」
    「あー…簡潔に言うと、喧嘩も吹っ掛けてこないのに、こちらの神経だけを疲れさせてくるから、どうにかしたいってこと」

    なるほどな。なんて納得したのか頷いた林田君を横目に、はぁ、と息を吐いた。ずっと付きまとう視線がうっとうしくてたまらない。

    「正直ほっといても別に良いんだけどさぁ、もしも俺らの縄張りで変なことされちゃァ困っから潜るのをやめることが出来ない」
    「もし道端でなつみかけてもむやみに近づかないで欲しいんだよね…。首絞められちゃうから…」
    「疑似餌かよ」

    ウケるwなんて笑う場地くんに癒されながら、なるべく早く、片付けられるように頑張るよ、なんて。そう言ったタケとお互いの拳を合わせて、ついでに色々と予想を伝えておく。今日はいつも引っ付いている稀崎が塾の日だから、ついでだついで。

    「稀咲は人を使うことに長けてるし、そういう計画を立てるのも強いんだよ」
    「俺稀咲になんかしたっけなぁ…」
    「気に入られてんじゃねぇの?」
    「嬉しくねぇわwww」

    そう言って組んでた腕を解いて煙草を手に取る。タケがジッポの火を横でつけて出してくれるのでその火をもらって肺を汚す。イライラすると煙草に逃げるって聞いたことあるけど、マジでこれだよなぁ、なんて最近思えるようになってきた。

    「まぁ 取り合えず明日から、奴さんのしっぽ掴むまでは、九条夏樹としてよくある行動を振るけど、お前ェら反応すんなよ」
    「よく合行動なのになんで反応しちゃいけねぇんっすか?」
    「それは俺が“六桜”で、お前らが“東卍”だから」

    ついでに言えば俺の手癖を知っているのは六桜のメンバーと、俺を観察していたやつらだけなんだけど、これは教えない。どこで聞いているか分かんねぇからね!!

    ☆☆★

    「残念なお知らせです」
    「なつが潜りすぎて浮上しきれねぇんで、マイキー君たち今日だけでも預かっててくんない?」
    「おい、生きてっか?」

    まるで打ち上げられた魚だな、なんて全員思ったが、言わないことにした。マイキーと同じ考えなんて腹が立つからとかそんなことではない。絶対に。

    「う…ぁ?」
    「なつー、今日お前ひとりで帰れる?」
    「通行人巻き込んでもいいなら…」
    「よくねぇんだよなぁ。じゃあ、鉄は?」
    「半間が来ないなら」
    「嫌われてるねぇ」

    オメーが俺にしたこと許してねぇからぁ!!なんてちょっと泣きそうな声で叫んだ九条を見ながら、マジで弱ってんね、とマイキーは声を上げた。

    「この状況で六桜攻められたら終わりじゃねぇの?」
    「舐めんな。これで倒されるようなら関東なんてまとめてねぇよ…」
    「えー。でも俺ら相手にタケミっち苦戦するっしょ?俺とタケミっち、相性から言えば最悪じゃん」
    「…何が言いたい?」
    「ねぇ、なっち」

    ちゃんといつもの思考が戻るまで、俺らン所に居なよ。にっこりと笑ったその顔を見た瞬間、九条も武道も、頼る相手間違えたな。なんて思った。後悔先立たず。いつから計画しやがったよコノヤロー!!

    ☆☆☆

    稀咲鉄太は花垣の頭の良さも、九条の先読みの力も知っている。まるで人物そのものの心も行動も読んでみせるその観察力に、稀咲は一種の恐怖を覚えたことがある。けれど、それと今回のことは別だ。九条夏樹を六桜から“解放”する。言い方を変えてしまえば大義名分で何とでもなる。九条が警戒しようと、花垣さえ警戒していなければ、問題ないのだ。九条は、花垣の頼っても大丈夫な人というグループ内で、後先考えずに動いてしまう癖があっても、花垣が言えばまぁ大丈夫だろうという謎の信頼で行動してしまう癖がある。それを利用しようと、稀咲は九条たちの行動理念に目を向けた。この世界の稀咲は頭がよかった。いや、正確に言えば、計画性が高い、といったところだろう。

    誰もが九条夏樹を欲しがっている。
    誰もが九条夏樹をトップに置きたがっている。
    なら自分がすることは一つ。
    九条を“六桜”から除籍させる。
    それが出来るのは東卍だけだというのはなんとなく理解していたので、東卍に自分がしたいことを話した。何事も報連相が大事なもんで。半間からは内緒でやっちゃえば?と言われた稀咲だが、ここで秘密裏にしたせいで除籍になったら元も子もない。自分は九条の下につきたいのだから。

    そうして稀咲の狙いは東卍内部のみ広まっていた。誰にも知られることなく。武道にも、九条にも勘付かれることなく無防備で敵の懐の中へと入り込んだ彼を見て、マイキーたちは思わず笑った。その顔を見て九条と花垣は頭を抱えた。

    オメーらグルかよ!!!!

    ☆☆☆

    「あー…騙された。これはもう何もする気が起きないほどに騙された」
    「なっちどうしたの?」
    「その顔やめて…騙されたってわかった時点でその顔見ると滅茶苦茶狂気…こっわ…」

    まともに思考が動いていないのか、小さくそう呟いて、龍宮寺の足の間に潜ろうとするその姿に、林田含めた幹部以外の人間が慌てて夏樹さん逃げてください!とか、そこは危険です!!とか叫んでる。お前らホントそういうところ大好きだけどチームとして良いのかそれ。ほんと幹部相手に怖いもの知らずっていうか、そういう精神大好きだぜ。めちゃくちゃ笑える。

    「え、まっていつから!?いつからそんな!?」
    「んーと、稀咲に相談されたときだから今から三か月前?なっちが黒龍と抗争してた時にはこんな感じだったよ!」
    「稀咲ィ!!!!」
    「すみません!!でも俺もここまでとは思ってなかったんです!!!」
    「なら許す!!」

    今回だけだからなァ!!なんて仰向けになって叫んだ。リュウの股下に潜っているので間抜けな姿のままだけど。稀咲のバァカ!!一生許してやんねぇ!!!!

    「マジでお前の危機管理能力のなさが俺を生贄にさせてんだからなァ…」
    「マジですまんと思ってる」

    いやまさかマイキー君たち味方につけているとは思いもしなかったし、なんてちょっと言い訳がましく言葉を出しているタケを見ながらリュウが犯人わかってたのかよ、と聞いてきたので俺もタケも、当たり前じゃねえですかって答える。

    「いや、個人的にマジで半間だけかと思ったんですよ」
    「半間ぁ!!!オメェ稀咲の駒なら駒らしくしとけよボゲェ!!」
    「夏樹さんなんで俺が稀咲の駒ってわかるんですか」
    「ンなのみりゃぁ分かんだよ!!!」

    うっそだぁ、なんてちょっと笑って反論する半間を無視して、うなだれた。マァジで役者かよって。

    「あー…」
    「なつ、起きれるか?」
    「もう無理です。俺は彼らに裏切られてHPがありません」
    「俺もショック受けてるから1人にしないで…」

    しらねぇ~なんて言いながら地団駄していれば膝をリュウに抑えられたので、もう何もできません。

    「俺は無力だァ…」
    「なつ!!?アッ、ちょっと寝ないで!?ねぇ!俺を一人にしないで!?」

    なつーーーーーーー!!!!!!!

    ☆☆☆

    「はよ」
    「お前ホントあの後大変だったんだからな!?」
    「無力な俺にはどうすることもできなかったんだよ。で?結局どうなったの」
    「明日から一週間療養しておいで…」
    「つまり東卍に言いくるめられちゃったのね、ウケるwww」
    「俺が交渉とか苦手なの分かってたよね!?」

    オメー逆行してきたの忘れてねぇからな、なんて。まぁそれは言わないけどさ。あー…

    「まぁだ見られてるんだよなァ…」
    「あ、ソレ稀咲に聞いたらしらねぇって言ってたぞ」
    「マッジ?」
    「マジ。俺か、お前か。どっちかに用があるのは確かだけど…」
    「姿見せてくれねぇからなァ。つーかこの視線の奴と稀咲関係ねぇのかよ。ふざけんな」
    「お前どっちに怒ってんの?」

    そりゃぁ、この計画を佐野君たちに話した稀咲に決まってんじゃん。

    ☆☆☆

    「なっちー!」
    「うぇ…」

    翌朝。東卍預かりとなった俺は珍しく早起きして学校に行こうとしたら、容赦ない抱き着きのせいで中身が出ると思った。

    「ギブギブギブ…それ以上締め付けんで。佐野くんの腕折ってまう」
    「はぁい」

    パンパンと眉間にしわを寄せながら、佐野くんの腕をタップする。もう少し…もう少し俺に優しくしてください…

    「そういえば鉄ゥ」
    「はい!」
    「あの視線マジでおまン所の奴らじゃねぇの?」
    「俺らは夏樹さんに喧嘩売ってとりあえず武道さん達に合わせないようにする作戦をしていたので…」
    「脳筋じゃねぇかよ。これ考えたの絶対ェ場地クンだろ」
    「え、なんでわかったんですか!?」

    分かっからぁ!誰でもちょっと考えりゃァわかっからァ!!!

    「鉄…お前頭いいんだから自分で作戦考えろよ…」
    「とりあえずトップのいう事聞いておいた方が後々楽かな、と」
    「ただの計算だった…」

    どっかで感じたことがある視線なんだよなァ、なんて思いながら、思考を落とそうとすれば、やめろ!なんて後ろから聞こえてすぐさま振り向き追いかける。

    朝っぱらから男の野太い悲鳴が響いた。



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