詐欺師パーちんこの話を書くまでのあらすじ
詐欺師パーちんって天才的だと思ったんだよね。あの顔で詐欺師ってなかなかないと思う。
パーちんに成り代わったひと
詐欺師
おばあちゃんに健康食品売り込む最低男。
ニッコリ笑う姿は好青年。
電話越しで聞く声は無害そうな青少年。
捕まらない理由がこいつが詐欺師?嘘でしょ?って言うぐらいのベビーフェイス
❝だった❞男
高校生時代は喧嘩にあけくれたせいで友達が居ない。一人で生きてる狼系男子だったけれど、半グレヤ〇ザに殴られてボコられた結果、家を飛び出しその道へ。
楽しい思い出もなかったせいで今回パーちんくんに成り代わった事がラッキー!
楽しい日々を送ってる。
☆☆☆
「おい、林田、聞いてんのか?」
「…聞いてない」
こんなの俺は!聞いてない!!
へんな夢だと思っていた。なんかすげぇイケメンが不良になってる不思議な世界。そんなにイケメンならモデルとかすればいいのに、もったいねぇなぁ、なんて思ってた。あ、俺?俺はなんかすげぇイカつい顔のフツメン。おい誰だよブスって言ったやつ。表出ろ表ェ!!!
こんなフツメンはちょっとオツムが足りないらしく、よくメンバーにパーちんは馬鹿だからなぁ、なんて呆れたように言われてた。そうか、このパーちんというやつはバカなのか。
そんな変な夢に振り回されながらも、ちょっと寝るのが楽しみだったんだ。毎日毎日知らねぇバァさんに健康器具とか、効果も無いようなドリンクとか売って金とって、巻き上げて、ほんとろくでもねぇ人生進んで。口は達者みたいで売上は他のやつよりも多くて上の人間に気に入られながら、そんなクソみたいな人生送ってる俺の、唯一の楽しみだったんだ。
事の発端は、夜いつも通りに寝て、目が覚めてからだった。この身体の持ち主は珍しく学校に来ていて、でも飽きたのか居眠りしていたようで。ハッと思わず意識を取り戻すような感覚になって前を見れば教師から冒頭の言葉で、俺は思わずそう答えた。それに対して困ったような顔をされて、お前なぁ、なんて言われながらも後ろのやつに質問が渡って、今日は楽しいことはないみたいだなぁ、なんて思いながらキョロ、と辺りを見渡した。なんで
なんで俺、夢のやつの身体に乗り移ってんの?
いつもなら意識の外側にいるような変な感覚のまま、夢の中のパーちんくんに成っているんだが、今回は違う。俺が彼の中身に入っている感じだ。
…まぁ、寝ればまた向こうの現実に戻るだろうし、寝よ。
なんて思っていた俺の予想は外れてしまい、不思議な現象はこの日からずっと続いていた。わかんねぇ事がいっぱいで、馬鹿な俺はきっとこれはいつもの夢の延長戦かと思ったけれど、喧嘩相手に殴られて痛みを感じた瞬間、アッ、これ現実じゃん、なんて。
「パー!」
「大丈夫だ!気にすんな!!」
ゴッ、と相手を殴り返しながらそう言って、目の前の相手を倒すのに集中した。だって、そうしないと殺されると思ったから。喧嘩してたのなんて高校の頃以来で、卒業したら詐欺紛いなことをずっとしていた約3年間。喧嘩のやり方も忘れていたけれど、この若い体は優秀で、しっかりとした体幹で相手を殴れた。
どうしようも無い人生だった。多分、これからもずっと、どうしようも無い人生を送り続けて、サツに捕まるんだろうなって、思ってた。けれど、こうやって少しの間だけでも、やり直せるきっかけがあるなら、俺はこの身体の持ち主が目覚めるまで、この身体の主に迷惑なんてかけたくない。
でも、俺だってやりたいことがいっぱいあった。グレて親の元から逃げ出して、沢山迷惑かけまくった俺だって、仲間と呼べる奴らが欲しかったし、馬鹿みたいに騒いで笑いたかった。そんな思い出すらない俺が、ちょっとぐらい思い出と呼べるものを手にしてもバチは当たらないと思うんだ。
「ははっ…」
蹲る黒龍とかいうやつらの上に座りながら、笑う。馬鹿だと思う。さっさと目ェ覚まして、いい夢だったと笑って言えるぐらいの余裕ぐらいあったはずだった。けどさ、けどさ。
「パーちん、無事か?」
「おー、あったりめぇだわ」
目の前の5人が眩しくて、こんな強い仲間が欲しかったって昔の俺が言うんだよ。
なぁ、パーちんくんとやら。
少しだけ、君に俺が成り代わっててもいいだろうか。ちゃんと返すから、文句言わないで。ちゃんと目覚めたら俺の現実でケーサツに行くからさ。ちょっとだけ、俺に勇気という名の思い出ちょうだいよ。
「…マイキー」
「ん?なに?」
「俺、頑張るわ」
なにを?なんて首傾げてこちらを見る彼に、笑ってとりあえず今日は帰るなんて言って一人でさっさと帰るためにバイクに足を運ぶ。
そんな俺を見て彼らは首を訝しんで傾げるけれど、大丈夫。ちょっと今日だけは、一人で居たいだけだし、明日からはまた君らの知ってる“パーちん”くんに成るからよ。
あと知っているか?こういう不良系の世界に必ず悪役がいるってこと。
ぐぅっ、と手を組んで腕をのばし、ゆっくりと笑ってバイクを走らせる。
「ははっ、やっべ」
きっとこの俺が最初のターゲットになるのは間違いない。だって俺、バカだから!!
☆☆☆
あの日黒龍をぶっ倒した日、パーはちょっとだけ変わった。
6人でいる時はニコニコしてるのに、用事があって一人でも欠けると凄く不安そうな顔をしていた。九九が言えるようになった。数学が小5レベルに変わった。漢字の読み書きが出来るようになった。
そして、俺らがいない所で口が回るようになった。それが俺らの中じゃ当たり前になっていた。
「そういやお前の兄貴が誕生日にバイク送るって知ってっか?」
「は?」
「パーちんお前なんでそんな大事なこと言うんだよ!!」
「サプライズってやつ知ってっか!?」
「あ!?ンだよ!サプライズならサプライズって言っとけよ!!あんな店頭のガラスケースに飾ってんだから知ってると思うだろーが!」
いや普通わかンだろ!!なんて俺以外からブーイング貰ってるパーちんを見て、おかしくて笑ってしまった。
「パー」
「あ?」
「お前はそのままでいてくれよ」
でもこんな前みたいにわかんねぇよ、なんて平気な顔して言われたら、やっぱり変わったなんて気の所為だろう。この馬鹿な男はこう見えて努力家なんだ。きっと、今までの努力が芽吹いてきただけ。おれはそれをパーの努力と認識した。だからこそ、ずっと何かに警戒しているようなパーが不思議だった。チーム組んでからは沢山喧嘩して、仲間が増えて、自分の所に部下が出来てから、そいつらに付きっきりになってさ、ペーが入ってきてからはそいつと一緒にどっかに行くから昔みたいに、いつもの6人で集まれなくなって俺らが拗ねて、なんで拗ねてんだお前ら、なんて言うパーの不思議そうな顔を見てキレるまでがワンセットだったりもする。
大人みてぇになんでも許してくれて、俺はバカだからなぁ、なんて呑気にいいながら俺らの頭を撫でてくれる。細っこい俺らと違って、筋肉の着いたその身体は、旗持ちにはぴったりの力持ちだった。
「パーちん!!」
「んぁ?ペーじゃねぇの。どした?」
「ペーやん、今日は俺らのパーの日だぜ?何邪魔してんの」
「俺らのって何」
「気にすんな」
「えぇ…」
ぎゅぅ、と抱きついてくるペーやんを抱き返すパーを見てむっ、としながらそう言えば、首を傾げながらどういうこと?なんて言ってくるパーに、気にすんなって言う。どうせ説明してもお前バカだから忘れちまうでしょ。
「き、キヨマサのバカが喧嘩賭博してる!!」
「あ?ンだそれ、どこだ。ぶっ潰してやる」
「パーが行くなら俺も行く!!」
「マイキーもパーちんも行くなら俺も行くしかねぇだろ」
はぁ、とため息を吐くケンチンに、悪いな!なんてしっかり笑ってペーやんの道案内の元、その場所へと向かう。たまたま通りがかった所、そういうことがあって、よく見たらキヨマサと知らねぇやつが喧嘩してたらしい。参番隊の問題児として見ていたけれど、パーはキヨマサの事を大事にしてた。東卍の意思に反することだけはするなよ、って言って困ったように笑いながらも大事にしてたのに。
「パーを裏切ったんだ。許す訳にはいかねぇよ」
ボソリと呟いたその言葉を、ケンチンだけはしっかりと聞いていた。
☆☆☆
「キヨマサァ!!!!」
「あ、おい!バカ!いきなり飛び出していくな!!」
「はぁ!?あいつは俺の部隊のやつだろ!俺がケジメつけんだよ!!」
「パー、こういうのは俺とケンチンに任せて!しっかりボコるから!!」
パーだとそういうの手加減して許しちゃうでしょ!?なんて言われて確かにそうだけどー!!と思った。いや、自分の部隊の子達って大事にしてるぶん可愛いし…。
でもコレ(喧嘩賭博)は頂けねぇでしょ!?
「…ちゃんと殴れよ」
「まっかせて!」
にっこりと笑ったマイキーくんの顔を見て、俺は理解した。アッ、この顔マジで再起不能になるまで殴る顔だ!!えっ、待って!ダメだよ!?ちゃんと反省したら追撃要らないからね!?
「まぁ、馬鹿なお前でも分かりやすく言えば、マイキーもこういうの嫌いなんだよ」
「さすがに分かっから、あんな顔見せられたら、俺でも分かっから!!」
「ならそこで見てろよ。ぺー、パーのこと頼むな」
「ウッス!!」
普通なら逆でしょそれ!!!その言葉俺が貰うはずじゃない!?俺どんだけ信用ないの!?あとペー!肩を抑えんな!!あっち止めてこい!!!
「お疲れ様です!総長!!! 」
「…ほんとに俺の隊員じゃぁん…」
「パーちん…」
「佐野くん!!おれ、3番隊の特攻やってます!赤石っす!」
「邪魔。マイキーは興味ねーやつとは喋んねぇんだよ。つーかそっちよりお前はこっちの顔みてそれ言えんのかよ」
「たっ…たいちょ…」
「赤石…お前らも。後で説教な…」
しょんぼり。まさかほんとに俺の隊員がやってるなんて…ずるい。喧嘩賭博はダメだけど喧嘩は俺も混ぜて欲しかった。喧嘩は沢山した方がいいのも分かるし、強くなるならこういうのも必要だと思うよ。賭博はダメだけど。
「俺がお前らとしっかり連絡取れてれば良かったんだけど…ごめんな…」
ポン、と赤石の肩に手を置いて、再度困った顔でごめんな、って言う。罪悪感ってやつを身につけろよクソ野郎。
「タケミっち、今日からお前俺のダチな♡」
「へ?」
「マイキーがそういうんだからそうだろ、タケミっち」
「俺はバカだからお前の顔忘れちまいそうだし、今度飯行こうぜ、タケミっち」
「パーちんは同じ釜の飯食ったヤツは忘れねぇから絶対行くぞ、タケミっち」
「え!?」
慌ててるみたいで3番隊のやつらに邪魔されて手を出せなかった4人もびっくりしてるからアイツらも誘って飯でもいいなー。何が好きなんだろ、この間のやつはもんじゃ焼きにテンション上げてたし、アイツらももんじゃでいい感じか?あそこのチーズ明太もんじゃは美味いんだよなぁー。
「パー、こいつどうする?」
「うぇ?あ、悪ぃ、うまい飯屋考えてたから聞いてねぇ」
「パーちんの脳みそは1個の事しか考えらんねぇぐらいちぃせぇんだぞ!!」
「そんな褒めんなよー!」
ひとつの事に集中できるの人って素敵♡ってこの間幼なじみのあの子が言ってたし。えへへ、将来結婚するならあの子がいいなー!でもまぁ、こういうのは俺の大好きな東卍の意思に反しているからさァ。
「好きにしていいぜ」
「ぱ、パーちんさッ、…!」
「ごめんなぁ。俺の言うこと聞けねぇ隊員は置いとけねぇんだよ」
ぽんっ、とキヨマサの頭を撫でて、ごめんな、と言う。ポロポロと涙を流すことも忘れない。漢が泣くなって思うかも知んねぇけど、これが悪いことした相手に1番聞くって俺は知ってんだ。
「ごめんなぁ」
「パーちん、どいて」
「ん、あぁ。悪い」
すっ、と彼の前から離れればその頭目掛けて蹴りを入れるマイキーが何か怒っているのに気づいて慌てて止めようとしても数発キヨマサの顔をぶん殴る。あっ、やめて!?もういいから!!!
「ま、マイキー!やりすぎだって!!」
「あ?俺の仲間泣かしてんだから当然だろ」
やだー!!かっこいいー!!俺もこんなふうに言える人間になりたかったー!!
なんて心の中で思っていれば、キヨマサ踏みつけて、帰ろっか、と笑顔で言うマイキーくんにほんと怒らせないようにしよ、って思った。いやほんと、俺マイキーくんだけは相手したくねぇわ。
「またな、タケミっち」
「あ、忘れてた。タケミっち、ケー番教えろよ。飯食いに行くんだからよぉ」
「おら、さっさと携帯出せや」
「はっ、はい!!」
赤外線懐かしいよなー、なんて思いながら彼を見る。なぁんかありそうだなぁ。
だって、この時代赤外線が当たり前なのにどうやって出すのか、まるで“忘れたように”扱ってんだもん。
「じゃぁな、ヒーロー」
「えっ…?」
「あ?かっこ良かったからよぉ。お前はあいつらにとっちゃヒーローだろ?」
「あ、えっ、ありがとうござい、ます…」
「パー!帰んぞ!!」
「おー。んじゃ、またな。連絡する」
ポンッ、とタケミっちの肩を叩いてゆっくりと笑う。2人っきりで飯食って、その後あの4人組とぺーやんも含めて飯食う日程考えなきゃァ、なんて思いながら軽い足取りで彼らの元へと戻れば、ガッ、と肩を回されて気に入った?とマイキーに聞かれて、俺ん所の隊員にはなれねぇなぁ、と声を出す。
「教育は出きっけど、三ツ谷あたりが1番いいと思うぜ?それがバジかなぁ」
「ふぅん?ま、パーちんの所は入れらんねぇなって思ってたから参考にするわ」
「おー」
可哀想になぁ…。きっとこれから色んなことに巻き込まれるんだろうなぁ、アイツ。
「あまりいじめてやんなよ」
「パーには言われたくねぇよ。今回俺が出てなかったらお前、アイツら半殺しにすんじゃん」
「マイキーからやれって言われてねぇのにするわけねぇだろ」
せいぜい灸を据えるぐらいだよ。
そう言って笑えば、嘘だァなんて言われたので俺信用ないな?って思った。
失礼しちゃうわ、ほんと。
「ぺー、教えてくれてありがとな」
「パーちんの役に立てて良かった」
にっ、と笑ったその顔を見て、俺も笑う。さぁて。鬼が出るか蛇が出るか。楽しい楽しい日々の幕開けって感じだァ。
因みにこの数日後、このタケミっちっとやらが未来から来たことを知って、最悪な未来にならないようにコイツに協力する事になるンだけど、それはまぁ話すことじゃねぇし、俺は馬鹿なんですぐ忘れっからいつか思い出した時にでも。