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    Polaris_bs11

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    Polaris_bs11

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    とある舞台作品のパロ
    プロローグ部分なので秀と想楽くんっぽい誰かしか出てこない
    百鬼夜行に参加して本音ぶつけ合うクラファが見たかった気持ちで書いてたもの

    百鬼夜行 自動扉を潜れば、空調が整っていた病院内とは変わって一気に生ぬるい空気が肌にまとわりつく。半月ほど前までは比較的過ごしやすい気温だったというのに、この時期特有のじめっとした重たい空気が秀はどうも苦手だった。
     ここ数年は最高気温やら平均気温やらを年々更新し外を出るのが億劫な暑さとなり、特段暑さに強いわけではなく更にインドア趣味をもっている秀にとっては夏本番の気候も嬉しいものではないが、それでもこの水分を多く含んだ空気が停滞し汗がじんわりと身体を伝う感覚の方が嫌いだ。今年は一層、そう感じる。

     ……今日も、駄目だったな。
     ゆるく握ったままの左手から、帰りがけに受付の人から貰った個包装の飴がカサリと音を立てる。絶えず週に2、3回の頻度で通っていれば当然顔も覚えられて、軽い日常会話を振られるようになった。あの部屋へ来る人の中で間違いなく誰よりも──あいつの家族よりも通っているだろうに、受け入れられていることにありがたく感じる。
     もう、一年になるのか。季節がひと回りして、高校にも上がって。……俺だけが。

     病院の敷地内から出たところで振り返り、さっきまで居た建物を見上げる。外からあいつの部屋を目で追って──ふと違和感を覚えた。
     ここへ来る度に毎回やっていることだから最早見慣れた光景であるはずなのに、何かが違う。首を傾げて見続けるうちに、はたと気付く。……空の色が、おかしい。
     夕と夜の間、緋色と深い闇が混ざっていくこの時間帯は同じ時刻に見上げたとしても日ごとにその色を変えていくけれど、そういった変化ではない。いっそホラーゲームのように分かりやすくおかしな色に染まってくれた方が異常事態だと思えるけれど、気付かなければそのままなのに異変を感じ取ってしまえば最後、言いようの無い不安に駆られるような絶妙な色合いのそれに背筋がぞわりとする。
     思わず周りを見回して──自分以外の「人」の気配がないことに気付く。掠れた声で嘘だろと呟いた瞬間図ったようにどこからか、こん、こん、こん、と人のような、人ではないような声が聞こえてきた。肩から下げた鞄を握り締め目を凝らすといつの間にかそばの街頭の上に「誰か」が座っているのを見つけた。秀が気付いたことに気がついたのかその「誰か」が声をかけてくる。

    「こんばんはー、良い夜になりそうだよねー」

     ゆらゆらと掴みどころのない声色、和服がベースとなっているような不思議な衣装を纏い、狐の面で半分隠れた頭は白と黒のツートンが見え、その奥から真っ赤な瞳が覗いている。
     格好だけ見れば何かのコスプレかと思えたのだが、思案のうちにそれはふわりと宙を滑りながら秀へと近付いて「はじめましてー、えっと……天峰秀くん」などと言ってくる。
     ……笑えない。この状況も、目の前の不審な人物も、微かに震える自分の手も。
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