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    Hyiot_kbuch

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    年末年始のひろしまです

    年末年始 タイトル:(無題)
     本文:帰れるのは4日の夜になる。すまん。

     それだけの短いメールが門倉に届いたのは十二月三十日の昼頃だった。宛名は同棲する恋人で立会人で警官の南方恭次。年末年始は本業が去年休んだことと元より忙しいこともあり、帰れるか怪しいと漏らしていた。
     門倉は届いたメールに返信もせず、携帯を閉じるとソファーに投げ捨てた。どのみち自分も立会いでずっと暇な訳ではないのだが、何となく気に食わない。
     先ほど投げたものと別の携帯を手に取ると通話履歴から舎弟の一人に電話をかけた。
    「四日の夜、暇な奴と場所を確保しとけ。新年会やるぞ」


     ようやく年末年始の忙しい業務が終わり、自宅へと帰ってきた南方が見たのは、電気も付いておらず寒々しい様子の我が家だった。
     タイミング悪く立会いでも入ったのかと、玄関を確認すると立会い用の靴は置きっぱなしだ。
     この時点で南方は門倉が当てつけで家を空けたであろうと予想した。いつ帰ってくるのかは分からないが明日は非番だ。というか帰らずの連勤の代償とばかりにもぎ取った。だからこそ起きて待っていても良いだろう。
     南方はまだだった夕飯を済ませようと台所から備蓄のカップ麺を出してきてお湯を注いだ。門倉とどこか食べに行こうかと思っていたのだから、何も買ってきていないのだから仕方ない。カップに記載の時間待ったあと味気のない食事を始める。
     時刻は午後八時。当てつけであればこんな早い時間には帰ってこないだろう。
     でも、だからといって外に食事に行ったりなどして不在にしていれば、南方の予想が外れていた時に面倒なことになるのは明白だ。
     南方は美味くもないカップ麺をあっという間に食べ終えると、リビングへと移動した。ソファーに腰を下ろすと何かを尻で踏んだ感触に慌てて立ち上がる。
     そこにあったのは一台の携帯電話だった。門倉が自分と連絡を取るためだけに用意したという堅気の名義を買い取ったとか言っていた代物。これが数日は触られていないのか充電が切れた状態で置かれていた。
     一体いつから放置されているのか、と思わず不安になった南方は最後に門倉へと連絡した日時を確認すべく自分の携帯を急いで開いた。
     通話の記録は一週間以内になし、メールの方は十二月三十日の昼頃、今日まで帰れないとメールしたのが最後だった。忙しいとはいえもう少しマメに連絡すればよかった。
     そんな後悔と共に南方は門倉の携帯を充電器に差した。すぐに電源がついた画面にパスワードの入力を求められる。
     南方が互いの號数を並べたものを入力するとあっさりとデフォルトの待受画面が表示された。前に得意気に言ってきたパスから変えてないらしい。
     それから南方はメールボックスをさっと開く。どうやら南方が最後に送ったメールは開封されていたようだ。
     そのことにほんの少しだけ安堵すると、次はいつから見られていないのかというのが気になる。せめて広告メールでもあれば分かるかもしれないという望みをかけて、センター問い合わせをしてみるも、全くメールは届いていない。
     不在の門倉、放置された携帯電話、それらによって南方の頭に嫌な想像が過ぎってしまった。門倉が立会い以外で何らかの事件に巻き込まれたりしているのではないのか、と。そう考えると何を呑気に飯を食っていたのかと自分に腹立たしさすら覚えてくる。
     まずは門倉の舎弟の一人に連絡を取るかと南方は立会い用の携帯を手に取った。前に門倉が舎弟から携帯を借りてこちらに掛けてきたことがあったのだ。その番号を南方は念の為にと登録していた。それがまさか本当に役に立つ日が来るとは。
     すぐにその番号へと電話をすると、ほんの数コールで門倉の舎弟の一人が電話へと出た。
    「もしもし」
    『もしもし、南方立会人どうしました?』
     向こうも番号は登録されていたらしい。即座に名を呼ばれるもその声は冷淡さを含んでいる。舎弟らにはまだ嫌われているようだ。
    「そこに門倉はいるか?」
    『ここにはいませんね』
     即答だった。だが、門倉の舎弟が慌てていないあたりから特段事件には巻き込まれていないようだ。ただこの舎弟が知らされてない可能性や、自分に内密にするような指示を受けているかもしれない可能性はまだあるが。
    「どこにいるかわかるか?」
    『いえ……いまちょっと帰省しているので』
    「そうか。すまない」
     それだけ言うと南方は電話を切ってソファーへと倒れ込むように座った。


     一方、その頃門倉は行きつけの料亭の座敷で、舎弟たちと和気藹々と新年会を楽しんでいた。その途中で門倉のプライベートの携帯が鳴る。画面に表示された名前は今日ここに居ない舎弟の一人だ。
     電話してくるような用事となれば、余程のことか南方絡みかと思った門倉は舎弟たちに一言断って席を立った。それからすぐその電話に出る。
    「ワシじゃ」
    『雄大くん、南方から雄大くんと一緒に居ないかって電話きました』
    「おーそうか」
     南方絡みの方だったか。恐らく前に門倉が使った番号を南方が登録していたのであろう。その時の番号の持ち主が今電話している舎弟だ。後ろの騒がしい声が聞こえたのか声色がほんの少し申し訳なさそうなものに変わる。
    『新年会行けなくてすみません』
    「ええよええよ。今年は地元に帰っとるんじゃろ」
    『はい。あ、でも南方には新年会してることはちゃんと話してないです』
     舎弟たちに前もって通達していたのだ。南方が来ると面倒だから言うなと。なお、自分らが同棲までするような関係だということも舎弟たちは皆知っているため深くは追求してこなかった。
    「ほうか。ありがとね」
    『雄大くんの頼みですから』
     門倉が軽く礼を言うと舎弟は当然のことをしたまでだと言いたげな声で返してきた。それに門倉は頷くと電話を切る。
     やっと南方が帰ってきたか。舌打ちを一つ漏らすと気分を切りかえて新年会の席へと戻った。当然今夜は朝まで飲む予定。勿論、一晩くらい誰もいない家に居ればいいとの当てつけだ。
    「雄大くん、帰らなくていいんです?」
     戻った門倉に開口一番聞いてきたのは古参も最古参の舎弟だった。上手く取り繕ったつもりだったがほんの僅かに表情に出ていたらしい。舎弟に見透かされて心配されるほどとはと内心舌打ちをするとすぐに取り繕いなおし、上座に座る。
    「ええよ。別に」
    「でも、あの南方が久しぶりに帰ってくるのでは?」
     どうやら事情まで筒抜けだったようだ。表情一つでここまで知られているのはおかしいから、きっと先程電話してきた舎弟から独自のネットワークで広がったのだろう。情報の共有に滞りのないことはいい事だがプライベートのことは共有しないように後日言い含めることを決める。だが、今日はせっかくの楽しい飲み会だ。水を差すのは野暮というものだ。
    「あー……ええんよ今日は」
     そんなことを考えながら誤魔化すように返事する門倉に心配半分といった視線が座敷内の様々な場所から向けられた。残りの半分は門倉には幸せであって欲しいが相手が南方なのがなという苦々しいものだが。
    「帰ってこんかった当てつけやけぇ、朝まで付き合って」
     ついに門倉は舎弟たちに本音を吐き出すと、座敷は先程までの賑やかさを取り戻したのだった。


     南方は日付が変わっても帰ってこない門倉を待ってリビングに座り込んでいた。立会いでも事件でもなさそうだとわかってはいるのだが、ただただ落ち着かない。何度も携帯に連絡がないかを確かめ、来ていないことに落胆する。
     寂しさを紛らわせるためにつけたテレビは深夜のテレビ通販が延々と続き、無駄に明るい声が部屋に響く。興味がないため適当にチャンネルを変えると、いくつかの局は放送終了していた。もうそんな時間か。
     南方は適当にあっていたスポーツ番組を画面に写すと、リモコンをテーブルに置いた。新春の駅伝がどうだったの、野球のキャンプの日程だのを話すキャスターの声を聞き流し、ソファーに横になる。
     今日はようやく会えると思っていたのに。そんなことを考えてしまう程度には門倉に飢えているらしい。仕事中は何もそんなことを考えなかったのに。忙しさにかまけて連絡も最初にしただけで放置したのが悪かったのだろう。でも立会い等で門倉も同等かそれ以上に連絡がつかないこともあるではないか。
     そう考えてしまえば自分は悪くないのではないかと思うのだが、これまでもそんな門倉の気まぐれに振り回されてきただけに怒る気力もわかない。そもそも帰宅せずの六連勤による疲れがあるのに門倉に会いたいという思いだけでこの時間まで起きていたのだ。
     横になってしまったことで徐々に重くなる瞼をなんとか開こうと抗うも、帰ってくる気配のない門倉を待ちくたびれ南方はそのままソファーで眠ってしまった。


     門倉が帰宅したのは早朝も早朝、朝の五時といった時間だった。二次会三次会と楽しみ、舎弟に送られほろ酔い気分で上機嫌にうちに入る。
     リビングで最初に見たのはソファーで寒そうに身体を丸めて眠る南方だった。つきっぱなしの暖房で部屋は温まってはいるものの、何もかけずに寝ているのはさすがに寒かったようだ。ソファーに眠る南方を見下ろすと一応風呂はちゃんと入ったようで部屋着に着替えてはいる。
     どうやら門倉の帰宅を待っていたのだろう。ベッドに寝ていればいいものを、まったく律儀な男だ。
    「……おい」
     門倉は眠っている南方を軽く足で蹴って揺すった。なにやらむにゃむにゃ言ってはいたがすぐに目を覚ましたようだ。寝ぼけた目でこちらを見上げ、視線が交わる。
    「かどくら」
     名を呼んで何か言おうとする南方の言葉を待つ。
    「やっとあえた」
     にへらと気の抜けた笑みを浮かべる南方に、ぶつけようと思っていた苛立ちは全て霧散した。本当にこの男は。門倉は湧きたった別の感情で思わず漏れそうになった舌打ちを飲み込む。
    「なんでそこで寝とる」
    「まっとった」
     予想通りの答え。起き上がりソファーに座り直す南方の目の下には幾分かくまがあった。帰れないほどの激務の後のこの夜更かしだ。門倉は南方に背を向けると一言声をかけた。
    「ベッドで寝るぞ」
     その言葉を聞いていそいそと立ち上がって門倉の後を着いてくる。本当にこの男は。キングサイズのベッドへと門倉が寝転ぶと隣へと潜り込んできた。
    「かどくらがおる」
     そう笑ってすぐにうつらうつらとしだす南方に、本当にこの男は犬みたいなやつだと門倉はため息をついた。そして、完全に寝付いたことを確認して暖を取るように南方へと体を寄せる。
    「……ぬくい」
     久しぶりに感じる温もりと匂いに門倉はそっと目を閉じると、酔いの影響もあってそのまま寝息をたてだしたのだった。
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