向日葵の似合う君にプロローグ
天馬司が、亡くなった。
演出のため、スタージの天井に吊るしていた鉄材が落ちてきたらしい。
僕と寧々は元々ステージ袖にいたため安全だった。えむくんは運良く鉄材に当たらなかった。ただ、司くんは当たりどころが悪かった。即死だった。
そんなステージを見て悲鳴を上げる客たち。
そして泣き崩れるえむくん。
救急車を呼ぶ寧々。
僕は呆然と立ち尽くすことしかできなかった。
「僕のせいだ………」
あの日から数日経った。
司の葬式が行われた。
私とえむで出席した。今でも信じられなかった。
類はこなかった。
「司くん、嫌だよ……」
「司……」
葬式が終わった後、私たちは類の家に行った。
「類、いる?」
返事がない。ただ鍵は空いていた。
「類?」
ドアを開けて、類の部屋に入った。
首を吊っている。
「類」「類くん」
縄を切って、すぐに救急車を呼んだ。
救急車が来て、病院に運ばれた。
搬送時、息をしていなかったが、病院に着いた時には息を吹き返していた。
安心したからだろう、私とえむの目から涙が出てきた。
ここはどこだろうか?
僕は死ねたのだろうか?
「類」
「類くん良かっよぉっ」
寧々とえむくん。ここは病院か。
2人が泣いている。
「類、死のうとしないでよ………。」
「類くんだけが抱えるものじゃないよ。一緒に支え合おう。」
寧々とえむくんがそう心配してくれている。しかし僕は人殺しだ。自分の演出で司くんを殺してしまった。そんな奴に生きる意味はない。死にたいと思ってしまった。
数日間の検査が行われた。
結果は心因性ショックと診断された。
経過観察と自殺防止ということで、数十日間の入院が決まった。
首を吊った時についた傷跡を隠すため、首には包帯を巻いてと、看護師に言われた。
入院している時、えむくんや寧々、瑞希や東雲くんと青柳くんがお見舞いに来てくれた。
みんなが笑顔で話しかけてくれたり、楽しい話をしてくれた。ただ、笑うことが出来なかった。笑えなくなってしまった。
予定通り退院できた。
退院した次の日に学校に行った。
クラスの人たちはいつも通り接してくれる。
それが辛かった。申し訳なさすぎて辛い。
そこからは休み時間になると、前より屋上に行くようになった。
フェンスを超えて飛び降りられたら楽になれるのに、周りの人たちの迷惑になってしまうと考えると飛び降りられない。死ぬことすらできないのか……。僕は………。
学校行くようになってから数日後、ワンダーステージに行った。
えむくんと寧々と一緒に行った。
今まで、えむくんと寧々と司くんと僕の4人でショーをしてきた思い出のステージ。ここで練習して、舞台に立ってショーをして、観客を喜ばせていた場所。
ただ、あの時のことを思い出すと、怖い。
僕のせいで、僕の演出道具がなければ、司くんは…………。
僕のせいだ。
僕のせいだ僕のせいだ僕のせいだ僕のせいだ。
えむと類と一緒にワンダーステージに行った。
あの時から、一度もここに来ていなかった。
類もずっと落ち込んでいたし、わたしたちも何も出来なかった。
久しぶりに見て、今までのことを思い出す。ここで、たくさん練習して、ショーをしてきた。なのに……。
もうここには、司はいないんだよね。
そう考えていたら、独特な匂いがした。悪臭。臭い。
「類!?」「類くん!?」
類を見ると嘔吐していた。
「ハァッごめんなざい、ごめんなざい、司くん……僕のせいで、僕のせいで、ウエッ」
「類!しっかりして!」
背中をさすってあげる。
吐き気が収まったところで、ステージの客席に座らせた。
「大丈夫?」
「うん、ありがとう、2人とも……」
「類くん……」
あの時のことがフラッシュバックしたのだろう。ずっとここにいさせるのは難しそうだ。
「2人とも、今日は帰ろう。」
「でも……」
「わかったよ、寧々ちゃん……」
私は類を家まで送ることにした。
「類くん、元気出してね……」
「あぁ……」
それから類は学校にもワンダーステージにも来なくなった。
学校とワンダーステージに行かなくなって1ヶ月が経ってしまった。家にいたって死ぬことしか考えられなかった。
起きて、切っての繰り返し。
そもそも生きている意味なんてあるのだろうか?
このまま生きてても、いい事なんかないんじゃないか? 僕は死ねばよかったんじゃないだろうか?あの時、司くんじゃなくて、僕が死んでいればこんなことにはならなかったはずだ。
僕は死んだ方がいい人間なんだ。だから……。
決心した僕は、手首を切った。腹も、他のところを何度も。何度も。
意識が薄れていく中、最後に見た光景は真っ赤に染まる自分の体。
「類くん」
えむくんのような声が聞こえたような気がした。
そこで僕は気を失った。
真っ暗だ。ここはどこだろうか?
やっと死ねたのだろうか………。
「類」
この声はえむくんや寧々の声ではない……
「何しているんだ類!!」
この声は……。
「司くん……?」
「あぁ、そうだぞ正真正銘、未来のスターになる天馬司だ」
そうか、司くんがいるということはあの世だ。
「僕はやっと、死ねたんだ……」
「いやここはあの世ではない。生死の境目と言ったところだろう。お前はまだ完全に死んでいない。」
「えっ……?どうして……」
「死んでいたら今はあの世であって、ここではないぞ。俺は類をこっち側に来させないために来た。」
「どうして?僕は僕の演出道具で君を殺してしまったんだよ。僕のせいで君は死んでしまっ」
「それ以上言うな」
司くんの真剣な眼差しで見つめられる。
「お前は人殺しじゃない。あれは事故だ。俺はお前のことを恨んでいない。逆に生きていて欲しいんだ。」
「そんなのダメだよ……。だって僕の演出道具で司くんが死んだのは事実じゃないか!!演出家として、仲間としても失格な奴に生きる資格はないよ……」
「それは違う。お前は演出家として、最高の演出家だ。それに、お前がいなければオレは輝かなかったかもしれない。そんな大切な人が死んだら悲しいんだ。だから、生きてくれ。」
司くんは涙を流しながら訴えてくる。
そんな風に思われているとは思わなかった。
「司くん……。」
「類、もし俺が生まれ変わったらまたお前に会いに行く。その時は、また俺とショーをしてくれないか?」
「……もちろんさ。絶対に会おうね。約束する。」
「あぁ。絶対だ。…………そろそろ時間だな。」
だんだんと周りが明るくなっていく。
司くんの姿が見えなくなってきた。
「待って、まだ話したいことが……」
「あぁ、必ず会いに行く。それまで、元気でいろよ!」
そうして光に包まれた。
目を覚ますと、そこは病院だった。
「類くぅぅぅん良かったよぉ〜!!」
えむくんと寧々がいた。
「えむくん!?寧々!?なんでここに!?」
「たまたま類のことが気になって類の家に行ったえむから連絡がきたの。まさか自殺未遂してるとは思ってなかったけどね。」
「そうだったんだ……心配かけてごめんね。」
「本当だよ!類くん!もう二度とあんなことしないで!!」
「ごめんなさい……反省してるよ。」
「それで、これからどうするつもり?」
「実は信じてもらえないかもしれないけど、眠ってる時に司くんに会ったんだ。その夢の中で司くんは『生まれ変わったらまた僕と一緒にショーをしよう』って言ってくれた。だから、それまでに今まで以上の演出になるように頑張ろうと思う。」
「そうなんだ!じゃあたしも手伝う!」
「えむがやるならわたしも手伝ってあげる。」
「2人ともありがとう!」
「じゃあまずは退院しなきゃね。」
「そうだねぇ。でもその前にリハビリをしないといけないから入院期間は延びるかもね。」
「えぇー!!早く退院してみんなでショーの練習したかったのにぃ〜」
「仕方ないわよ。リハビリ頑張って。」
「うん……」
それから僕は毎日リハビリに励んだ。
そしてついに退院することになった。
退院してからはまず、寧々たちと司くんの墓参りにいくことにした。花屋さんで買った花を持って。
「類、その花でよかったの?」
「あぁ。これでいいんだよ。彼が似合うの花だろう」
僕が司くんの墓に添えた花それは__
「たくさんあるね何本だっけ?」
「999本だよ、結構な値段だったな」
向日葵のような光を持っている彼に似ている。
確か999本の向日葵の花言葉_______
何度生まれ変わってもあなたを愛す
エピローグ
あの頃から5年経った。
僕は、えむくんと寧々3人でワンダーステージでショーをしている。
あの日を境に僕は変わった。
演出家として、僕自身として。
「以上、ワンダーランズ×ショウタイムでした。ありがとうございました!!」
観客の拍手とともに幕がおりた。
「お疲れ様!!類くん、寧々ちゃん!」
「えむもおつかれさま。」
「今日もいい演技ができたよ。」
3人で今日の反省点を言い合ったりしていると、
「類、えむ、寧々」
懐かしい声が聞こえた。あの頃の……
「………!」
「久しぶりだな。」
彼にまた会えた。
これからは今まで以上のショーを
僕ら4人で、
『ワンダーランズ×ショウタイム』で
Fin.