三人寄れば「月島さん! 前山さん!」
軽やかな明るい声に振り向くと、江戸貝が手を振っていた。
「? 何だ?」
「何だはないでしょう。せっかくこのボクが声をかけているのに」
「で、何なんだ?」
「そうそう、今いいこと思いついたんですけど」
「いいことって?」
前山も興味を引いたのか二人に顔を向ける。
「鶴見さんを招いてお茶会を開くんですよ!」
「……また唐突だな」
「お茶会……素敵だと思うけど、また何で?」
「今は十月二十日……あと二か月と少しで、鶴見さんのお誕生日じゃないですか! それまでお茶やお茶請けの準備をするのです」
「いつ? どこで? 誰が? 何を? 何故? どのように準備するんだ?」
月島が5W1Hで突いてくる。
「それは……これから考えるんです! ほら、三人寄れば文殊の知恵というでしょう? 今日は終業後どこかで集まりませんか?」
「集まる……久々にどこかで呑みに行くか?」
「それ、いいね~三人水入らずだね~」
三人は同じ社内の同じ係のメンバーだった。普段の業務では常に顔を突き合わせているが、プライベートで会うのは久しぶりだ。暫く繁忙期であったからなおさらである。
「じゃ、打ち上げ兼ねて吞みに行くか!」
「違~~う!」
「? どうした」
「それじゃ只の飲み会になっちゃうでしょ! ボク達は鶴見さんを喜ばせるための、笑顔を見るための作戦会議に出るんですよ! それを酒の肴にしちゃうなんて……」
「江戸貝クンは何か考えがあるの?」
前山が促す。
「鶴見さんはボクの調べではスウィーツがお好き……という訳で、今夜はパティスリーのリサーチに行くのです!」
「却下」
「なんで!」
「面倒くさい」
「……確かに、夜にいきなりパティスリーはちょっとハードルが高いよね? じゃ、二人の折衷案で今日は吞みながら甘味会議をする?」
江戸貝はやや逡巡した。
「……まあいいでしょう。確かに今日は突然過ぎました。取り敢えず吞み会でいいです。」
「よし! じゃ決まりだな。今日は定時で上がるぞ! 仕事に集中・集中!」
月島が手を打った。
「でも、三人で集まるのって久しぶりだからボク楽しみだな~」
前山はおっとりと笑った。
「では! よろしくお願いしますよ、お二人とも!」
江戸貝は勢いよく仕事を再開した。
「……元気でいいな」
「いいことだよね~」
鶴見さんを喜ばせたいと思う江戸貝を応援したい、と内心では思うのだった、前山と、そして月島の二人は。敢えて口には出さないが。
20231020