Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    MYSN

    @garando_square

    推しカプ認知拡大!推しカプ認知拡大!推しカプ認知拡大!

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💜 ❤ ㊗ ☺
    POIPOI 60

    MYSN

    ☆quiet follow

    【★文章】ソテ黒/人魚の鱗

    多分初めて書いたのに人外パロです

    #ソテ黒
    reddish-brown
    #腐ラスタ
    rotatorCuffStar
    ##ブラスタ

    【★文章】ソテ黒/人魚の鱗 人魚の肉を食べると永遠の命が手に入る。

     誰が言い出したか分からないそんなお伽話を、時の権力者は真に受けたらしい。表向きは移植医療関係の研究所とされているその建物には妙な噂があった。珍しい生き物を使って、強力な薬を作っていると。しかもその薬は市場には出回らず、一部の富裕層にのみ卸されている——らしい。依頼主の男の言葉を、ソテツは頭の中で思い出していた。人魚なんて、そんな幻想に縋るまでになるなんて、憐れな人間もいるものだ。しかし、そういう人間が仕事を運んでくるのも事実だ。

     繊細な手つきで建物の管理室のシリンダー錠を開錠する。最新の防犯システムを投入しているくせに、管理室まわりの設備は防犯も含めて金があまりかけられていない。そのため、ソテツの貧民街仕込みのピッキングでも侵入できた。管理室には全ての研究室のマスターキーや防犯カメラの情報が集約されている。まずは防犯カメラシステムへ侵入する。侵入、などというほどでもない。年老いたセキュリティ意識の低い管理人の残しているメモの通り、IDとパスワードを入力するだけだ。

    「……ん? ここか」

     ソテツは依頼時に徹底的に頭に叩き込んだ研究所内の防犯カメラ位置とカメラ映像を見比べ、映像が録画されているが管理人のユーザー権限では見られないエリアを見つけた。管理人は人件費を抑えるために一般人を雇っている。不要に情報を知られないよう、閲覧権限を制限しているのだろう。管理人の夜間業務は、巡回とカメラに異変があった箇所を現地に向かって確認するだけだったはずだ。カメラ映像さえ映さなければ、マスターキーがあっても入られることはないと侮られているのだろう。
     問題なく目的の鍵を手に入れた後は、まるでこの建物の主人のように目的地までドアを開けていくだけだ。一部の検体があるエリアは網膜認証や顔認証なども導入していると事前調査で聞いていたが、今回の目的地はマスターキーさえあれば問題ない。
     メインの大きい廊下から、まずは権限の少ないカードキーを使用して大きな部屋に入った。ここから枝分かれして、各セクションの研究室、検体管理室などへ繋がっている。次は権限のの多いカードキーを使用して、ある研究室へ入る。依頼内容は、アンチエイジングに関する外部に出ていない論文もしくは実験記録の入手、だったか。研究室のスチールラックには几帳面に内容が整理整頓されたフォルダが並んでいた。おかげでソテツは簡単に調べることができたが、結論は「空振り」だ。フォルダだけでなく、各研究員の日誌まで漁ったが特に成果はない。
     これでは依頼主に顔向けできないな。獲物を求めて、ソテツは改めて部屋を見渡す。部屋の奥には他の扉とは違う、金属製のスライドドアがあった。その横の壁に電子キーの読み取り装置が埋まっている。この部屋に入室する際に使ったカードキーを使ってみてもいいが、エラーを出せばどんな防犯設備が動くか分からない。ソテツは権限が一番強いが、このエリアしか開けられないカードキーをかざした。小さな電子音の後、重たい音を立ててゆっくりとドアが開く。
     その先の光景を見て、ソテツは息を呑んだ。

     人魚だ。

     大きな水槽の中に、上半身が人、下半身が魚、「ヴィーナスの誕生」を思わせる赤髪——伝承通りの人魚がいる。想像と違ったのは、人間で言う「男」の上半身であったことと、頭の部分だけが水槽の縁にあがっていたこと、それだけだ。頭が外に出ているということは、人魚は肺呼吸なのだろうか。
     ソテツは慎重に部屋に足を踏み入れた。部屋の中はタイルが敷いてあり、研究室とは趣きも異なる。部屋全体に磯の香りが満ちていた。近づくと、人魚は浅い呼吸を繰り返している。人の言葉が通じるかは分からないが、とりあえず起こしてみるか。

    「おい、おい! 起きろ」
    「……あ……?」

     瞼がゆっくりと開かれる。見えたのは、真っ赤な瞳だ。瞳孔が 開いている。体格のいい個体だ、暴れないように薬で制御されているのだろう。反応は鈍い。

    「言葉、分かるか?」
    「……な、んだ……?」
    「おねむか。困ったやつだな」

     人魚はソテツの聞き取れる言葉を話したため、目的は達成された。しかし、この状態で会話は難しいようだ。防犯カメラを一時停止しているが、その解除の時間も近づいていた。なんとかして唯一見つけた成果であるこの人魚を持ち帰らなければならない。部屋の奥には搬入出ができそうな外と繋がる厚い扉があった。ここからなら運び出せるだろう。見回しても内側には開閉を制御するボタンしかない。セキュリティってのは外側からの侵入には強くあろうとするものだが、内側からなら脆いものだ。
     ソテツは乗ってきた幌トラックと搬入出リフトの高さを合わせて、水槽ごと強引にトラックへ押し込んだ。水はその体積の分だけ重さが出る厄介な荷物だが、人魚の生存に何が必要かまでは知識がない。家に連れ帰って水質を調べた後に処分するしかなさそうだ。本当はこのトラックは使うつもりじゃなかったんだがな。いつまでレンタルできたか、貸主に確認する必要がある。水槽の処分が決まるまでは、世話になることだろう。
     積荷が見えないように幌を降ろし切る前に、ソテツは荷台に上がってもう一度人魚の顔を見た。暗い荷台で、人魚の浅い呼吸だけが響いている。



     ★ ★ ★



    「そういうわけだ。空振りだ。残念だったな」
    「……いえ。私は主人を納得させられれば、良いのです」

     翌日。ソテツは依頼主に調査報告をしていた。事務所兼住居の雑居ビルに構えているソテツの調査会社は、看板さえ出していないが一部の裏の人間だけが知っている。
     ソテツはポロシャツの胸ポケットから、小さな包みを取り出して男に渡した。男が包みを開くと、薄いガラスのような丸いものが現れる。

    「手土産だ。それくらいで悪いな。使うかどうかはあんたが決めろ」
    「お気遣い感謝します。しかし、これはしまっておきましょう。人間の命は限りあるものですから」

     依頼人の男は、主人に命じられてここを訪れた。永遠の命を、と願った主人に、男も思うところがあったのだろう。人魚の鱗はおそらく、主人には渡らない。しかし、ソテツの依頼主はあくまで目の前の男であり、その主人ではない。ここから先はソテツの領分ではない。

    「こちら、報酬です。成功報酬の半額、で間違いありませんね」
    「おう、まいどあり」
    「では。失礼いたします」

     男はドアの前で小さくお辞儀をすると、静かに出て行った。ソテツは緊張の糸が切れ、依頼人の向かいのソファに深く身を沈める。これで依頼完了だ。ソテツは少しの間そのまま身体を弛緩させ気力を回復させると、立ち上がって居住エリアに向かった。事務所直通のドア一枚。その向こうにソテツの生活のほとんどがある。入って右手の風呂場を開けると、まだ薬が抜けていない人魚が、浴槽の縁に上半身を預けて休んでいる。湿った赤い髪から雫が落ちようとしていた。

    「お前、俺のもんになっちまったな」
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    😭😭💴💴💴💴💴💖💖💖💖💖💖💖💖💖
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    recommended works